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2.勇者、次のダンジョンで惨敗して財産半分にならないかな。

 

 邪龍ノヴァ。

 この世界における災厄の象徴であり、かつて世界を滅ぼそうとした伝説のドラゴン。

 今から千年前に一度勇者に討伐され封印されたそうだが、近年になって復活したのだ。

 そんな伝説級の化け物を倒すには当然、こちらもそれ相応の準備が必要だ。

 

 とりあえず、新しい仲間が必要だ。


 そう考えた私は、ついこの間まで勇者の一行として滞在していた街、パーカスに戻ることに決めたのだった。



「よし到着っと」


 思い立ったらすぐ行動。

 幸い移動用の魔法札を持っていたため、過去に滞在した街には容易に辿り着くことが出来た。

 アルス達には悪いが、恨むなら『聖女なんて祈るだけだし、他に荷物持つくらいしか役に立たないわ』とか毒を吐いて私を荷物持ちにさせていたヒーラーを恨むといい。


「確かこの辺だったかな」


 記憶を頼りに街の中心部の広場に向かう。

 広場に着いたら、そこから見える古くて小さな武器屋の隣にある小道を進む。

 その先を抜けると、とても治安の悪そうな裏路地に出た。


「おら、さっさと歩け! 日が暮れるまでに荷物を全部移し替えるんだよ」

「す、すみま、せん」


 鞭を持った男が、ボロ布のような服に身を包んだ少女の腕を掴みながら怒鳴っている。

 どうやら奴隷商人に捕まった女の子らしい。


 奴隷街パーカス。

 以前、この街はそう呼ばれている場所だった。

 けれど、勇者アルスの一行が、その元凶である領主に成りすました魔物を討伐し、事態は収束した……はずだったんだけど。


「遅い! もっと早く働けよ!」

「は、はいっ」


 この様子を見る限り恐らく収束していない。


 だから私は勇者に、『まだ不穏な気配がある』と進言したのに。

 奴ときたら、この街で可愛い子が一人、パーティから抜けたのがショックで完全にやる気無くしてたからなぁ。

 『あとは街のみんなの力が何とかしてくれる』とか訳分からないことぬかして、結局終わりにしたし。

 ちっとも何とか出来なかった状況だろこれ。奴隷産業、絶賛営業中じゃないの。


 思い出したら腹立ってきたな。

 勇者、次のダンジョンで惨敗して財産半分にならないかな。


「えっ、あれ、その姿、もしかしてノノアさん?」

「へ?」


 突然背後から私の名前が呼ばれた。

 振り向くとそこには、私のよく知る顔があった。


「あっ、やっぱりノノアさんだ。お久しぶりです!」

「あ、あなたは……」


 そこにいたのはかつて私が所属していたパーティの仲間の一人だった。

 名前は……。


「ルカちゃん!」


 占い師ルカ。

 先ほどの、『この街でパーティから抜けた可愛い子』である。


「なかなか連絡がないから心配したんですよ。どうですか、作戦は順調ですか?」

「や、それは」

「こっちは準備オッケーです。奴隷に成りすまして内部からいつでも破壊工作出来ます。あとはアルスさん達外部の皆さんが討伐潜入するのを待つだけですよ」

「うっ、うん……」

「? どうしましたか、ノノアさん」


 ルカちゃんの疑うことを知らない瞳が私をじっと見つめた。


 罪悪感で吐きそう。


 胃の中身をお腹に押し込めて、私はそっとルカちゃんのすっかり細くなってしまった肩に手を置いた。


「その作戦なんだけどね」

「はい」

「実は」

「?」


「もう……とっくに終了しているの。そして彼らは、役目を終えて次の旅に進んでる」


「……えっ?」



 占い師ルカ。


 性別……男。

 

 見た目が可愛い彼は、勇者アルスに女の子と勘違いされてパーティ入り。

 しかしこの街で、彼が女装している男性と発覚した後は、奴隷街内部の工作要因として役割を与えられ、その後は……そのまま放置。作戦終了の連絡はおろか、開始の合図もされないまま、ずっとこの情報の届かない場所で奴隷として酷使されていたのである。

 勇者のやる気が下がった本当の理由もお察しである。


 私がこの街に戻ってきたのは、仲間探しもあるけれど、これが真の目的。


 彼女……いや、彼を放置ってのはいかがなものよ。

 『そのうち気付くさ』とか言ってたけど、少なくとも今日まで彼はこうして信じて奴隷生活を続けているじゃないか。


「本当に、本当にごめんなさい!」


 私は深く深く頭を下げた。

 

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