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1.「この事実を知っている奴はパーティには置いておけない。お前は追放だ」

 

「この事実を知っている奴はパーティには置いておけない。お前は追放だ」

「……は?」


 それはあまりにも唐突だった。

 

「私が、追放?」


 私は首を傾げた。


「ああ、追放だ」


 その男、勇者アルスは無慈悲にも頷いた。


===


 それは遡る事一日前。


 世界を恐怖と混乱に陥れる邪龍ノヴァを討伐するため旅をしていた勇者アルスと私達一行は、とあるテントで野営をしていた。

 仲間は彼を除いて6名。私、エルフのエミル、魔法使いのアリス、ウサギの獣人族ララ、女剣士のソフィア、ヒーラーのカトリーヌ。世にも珍しく全員女性だった。それもあってか、家事全般に困ることはない。


 今日の料理は私の当番。

 いつもより段取りが上手いき、早めにシチューが完成した私は、少し早いけど彼の泊まるテントへと運んでいった。その時だった。


「やだ、勇者様ったらそんな」

「いいや、俺が愛しているのはエミル、君だけだよ」


 いかがわしい声が聞こえる。

 私は瞬時に察した。


 これは……浮気だ!


 勇者アルスには、故郷の街に幼馴染のナタリーという婚約者がいる。

 時々、転移の魔法で彼女の手料理を食べに戻ったりもしているというのに。


 けれど事件はこれで終わりじゃなかった。


 早朝。

 私が朝の祈りの為に泉へと出かけようとしたところで、見てしまったのだ。


「ちょっとちょっと、私と結婚いつしてくれるの!?」

「はいはい、そのうちな」


 ウサギの獣人族ララがアルスに迫っている。

 結婚? いやだから、彼は幼馴染のナタリーって子がいてね……。


 さらにさらに、事件はまだ続いた。


「私魔力が足りませんの。勇者様、少しだけこちらへ」

「ああ……」


 巨大なオオトカゲを討伐した後で、魔法を最大放出したアリスが何やら森の奥へと彼を誘っている。

 他のメンバーが素材の剥ぎ取りや、回復に専念している間にだ。

 これまた怪しい……。


 そんなこんなで私はこの後も2件ほど、彼の怪しい様子を目撃してしまった。

 今日はどうもそういう日らしい。


 ……という事は、次は私?



「……」



 みんなが寝静まっている。

 その静寂の中で私は一人起きていた。

 今日の焚火の番は私なのだ。


 一人寂しく揺らめく炎を見つめていた。


「ノノア、起きてるか?」


 やっぱり来たか!


「はい、勿論です」

「じゃあ少し話をしよう」


 草木をかき分けてこちらにやって来ようとするアルスの声が聞こえる。

 さて、どんなシチュエーションが待っているんだろう。あと、なんて返そう。

 

 姿を現したアルスは、ゆっくりと切り株に腰かけた。


「ノノア」

「はい」

「お前、見たな?」

「……はい? 何を」

「俺が昨夜テントでエミルと一緒にいたこと」

「!?」


 どうしてそれを。


「いえ、私は何も」

「嘘はつかなくていい。昨日は夕飯の完成がいつもより早かったそうじゃないか」


 そこまでばれているなんて。


「でも、お前は時間通りにしか来なかった。その間、一体お前はどこで何をしていた?」

「え、えっとぉ」

「じゃあ今朝の話だ。お前は祈りを捧げる前に何を見た?」

「あー……今朝は寝坊して」

「ララがお前の匂いがするっていってたぞ?」


 わあ、さすがは獣人族。


「少なくとも二件。お前は気付いてはいけないことに気付いてしまった……」


 違います。正確に言えば五件です。


「私は何も見なかったことに」

「いいや」


 彼はまるでモンスターでも殺すかのように冷たい瞳で私を見下ろした。


「この事実を知っている奴はパーティには置いておけない。お前は追放だ」



===


 あれから一日が過ぎた。

 勇者アルスの一行から追放された私は、例の切り株に座りながら昨日のことを思い出す。

 で、その結果がこれだ。


「……いや、私悪くないわ」


 どう考えたって浮気していた勇者が悪い。

 あと、しいて言うならその場面に遭遇した私の運が悪い。

 

 じゃあどうするか。


「倒そうかしら、邪龍」


 こうして私は重たい腰をあげた。


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