淡き太陽の花拓く薫り《玄鳥至》
そろそろと薄紅が主要都市では主役の座を毎日のように賑わせている頃合い、吸い込むとまだひんやりとした雪の匂いの抜けきっていない空気のある場所へ私は想いを馳せる。
ようやく寝雪も白さをなくし降り注ぐ光の暖かな手が頬へと届き始めると、近所の小学校へ通う子供たちが登校時に集合場所にしている家の前のガードレールがその光の手を取って白くほわほわと存在感を増して花のようである。嗚呼、あのガードレールは触れたら柔らかそうだなだとか、暖かそうだなだとかついつい頭を過る。実際のところ、金属故に登校時の朝は冷たく硬いのだが。
今日は、ガードレールの集合場所に一番最初に来るのは誰だろうか。
嗚呼、そういえば今日は新しい日のはずだ。外箱から出されたランドセルが通学路に喜び勇んで背負って行かれる日だ。少し緊張した喜びと勢いのある声が二つ、三つ…否、今までの子供等も釣られて心なしか声が嬉しそうに浮ついている。
見ているだけで暖かそうな太陽の手のガードレール前の仕草を窓辺から眺めていれば、窓硝子に移る薄い私がいつの間にか眼を細めていた。
チリチリンッ…チリリッ…
聞こえてきた若い鈴の音がはしゃぐ声と共に小さくなって消えた。窓硝子の私から再び視線を遠くへと移すとそこには暖かそうな白いガードレールだけ子供等の背を見送って佇んでいた。
『朝ごはんよ』
彼の女の声に再び私は窓硝子に視線が戻る。片手に珈琲を持った私が見ていたのは、昔の私の新しき日その日だったのだろうか。
その硝子の外には今は錆びたガードレールがまた届きだした太陽の温かい手を取ってほわほわと白くなり始めていた。今日の朝食に添えられた蒼いトマトのようにきらきらとしたランドセルを窓硝子の外、視界の淵に見えた気がした。