ヒロインである召喚聖女はイケメン王子と結ばれるが100年後にざまぁされる
4作目です。よろしくお願いいたします。
まったりとした作品です。
4/28、1万PV達成しました。お読みいただいた方々に深く御礼申し上げます<m(__)m>
「第一王子である私は公爵令嬢との婚約を破棄し、ここに異世界から召喚した聖女と新たな婚約を結ぶこととする。」
王子が宣言する。ああついにイケメン王子と結ばれるこの時がやってきたのねと、第一王子の腕を抱えながら感動に震える聖女ちゃん。
ここはとある王国の王立学園ダンスホール。現在は学園の卒業パーティーの最中である。ちなみに第一王子といっても通称で正確には王太子の長男であり王孫である。現国王が52歳と比較的若いうえに実績もあり、まだまだ現役を退く状況ではないからなのだが、長男相続が基本のこの国では王位継承権第二位であり将来彼が国王になることはほぼ確実で、当然その伴侶は未来の王妃である。ちなみにこのパーティーに出席している卒業生はこの国の成人年齢である16歳で、その多くが貴族であり卒業後割とすぐに結婚するものも多い。
「卒業の場で宣言される話ではないと思いますが、理由をお聞かせいただけますでしょうか?」
当然公爵令嬢が尋ねる。王子の経験不足もあり事前の根回しが済んでいなかったのであろう。王子の取り柄が顔だけだからということはないと思いたい。
「無論だ。3年前の聖女召喚によりこの地に降り立った聖女ちゃんの世話を父上より仰せつかってよりそばに付き添ってきたが、その心根の優しさや民を慈しみ癒し続ける姿を見て、私は真実の愛に目覚めたのだ!また聖女ちゃんは歴代聖女でもまれに見る癒しの力を持っているうえに異世界の知識で年金や健康保険制度の原案を出すなどの福祉政策を拡充させてきた実績もあり、大聖女として国民にも慕われている。そなたに責はないがどうか受け入れてほしい。」
3年前に召喚されたとき聖女ちゃんは13歳で専門知識があったわけではないが、年金や医療保険制度のざっくりした内容を伝えたところ、優秀な文官がそれにそった政策を立案、推進した結果、まだ未完成なものもあるものの王国の福祉政策を充実させてきた。ちなみに召喚前は日本で女子中学生をしており、聖女としての力は召喚されたときに身に宿ったものである。
「左様でございますか。国益を考えても仕方のない話なのでしょうね。それに婚約者としての行動も疎かになっていらしたのでなんとなくこうなるのではと思っておりました。ですが、私の結婚相手を探す必要もあるのですから、もう少し早くおっしゃっていただきたかったですわ。」
王国では今まで度々聖女召喚で異世界から年端もいかぬ少女を召喚してきた。聖女は癒しの力が使えるうえに浄化の力で災いを防ぐことが出来たからである。またその子供はある程度その力を引き継いで生まれることが多く、王家は婚姻政策を推奨してきた。今回の話もいきなり異世界へと連れてこられた聖女に報いるとともに王家に取り込む狙いがある。
「公爵令嬢さんごめんなさい。いきなりこの世界に来た私をずっと支えてくれた王子様を愛してしまったの。」
聖女ちゃんが公爵令嬢に伝える。実際には一目惚れで男はやっぱり顔とお金よね。ビバイケメン王子!などと思っている聖女ちゃんであるが、召喚元の世界で断罪した後ざまぁされる小説を読み漁っていたので、円満に解決することを望んだのである。公爵令嬢ちゃんがリープ系・トライ回数無限系だったら確実にざまぁされるわけだしねとやり切った感満載である。円満だったらせめて根回しして婚約解消にしておけよということはちょっと頭の弱いこのカップルは気が付かないのであった。
「そなたにはすまないと思っているがどうか受け入れてほしい。もちろん迷惑をかけた分王家よりできる限りのことをすると誓おう。」
「・・・・かしこまりました。」
政略面でも感情面でも結論が出ている以上、公爵令嬢は何を言っても意味はないと悟った。あとはできる限り自分に有利になるようにしようと切り替えた。
「後日殿下や王家にお願いすることもあるかと思いますので、今後ともよろしくお願いしますね。ではお二人ともお幸せに・・・」
そう言って公爵令嬢は去っていった。こうして婚約破棄劇場は無事(?)終わったのだった。
半年後、聖女ちゃんと第一王子の結婚式は国民の多くが祝福する中で行われた。後年、二人の間には2男3女に恵まれ、末永く幸せに暮らしたのでした。
めでたしめでたし
*
40年後
王子妃となった聖女ちゃんと元公爵令嬢である侯爵夫人が西ノ宮でお茶会をしていた。ちなみに王太子の住まいが東ノ宮であり、王位継承権二位の住まいが西ノ宮である。
「王子妃である真・聖女様。本日はお招きいただきありがとうございます。」
「私とあなたの仲じゃない。そんなにかしこまらないでね。それと真・聖女はやめてね。」
そう長年にわたる貢献を鑑み聖女ちゃんは大聖女から真・聖女に昇格していた。
「聖女の称号だけなぜか昇格しているのに、いまだ王太子妃にもなれないってどういうことなのかしら。」
そういって聖女ちゃんはため息をつく。
「ここ30年における医療改革に加え、健康ブームで王家を中心に寿命が延びましたからね。聖女ちゃんの癒しの力で近くにいる王室の方は怪我や病気もすぐに癒えるのですから、自業自・・・コホン、自然の成り行きではないでしょうか?」
「今自業自得って言いかけたわよね!ね!」
侯爵夫人も気安い間柄だからこそ出るお茶目な冗談である。おそらく・・きっと。
「まあまあ。義理のご祖父さまが頑張っていらっしゃるのだから良いではありませんか。仕事をしたいわけではないのでしょう?国民の平均寿命も40歳代から60歳前後に伸びましたし、癒しの力のある聖女ちゃんの近くにいれば人生100年も夢ではありませんわ。」
ちなみに聖女ちゃんが結婚した当時52歳だった国王は92歳になった現在でも壮健である。
「王妃教育もはかどるでしょうし・・・」
もう40年も王妃教育を施されているのだから万全どころの話ではない。すでにいくつかの執務もこなしている状態である。
「王妃教育って、私もう56なんですけど!還暦目前で職業訓練っておかしくないですか?孫どころか曾孫までいるんですけど!」
聖女ちゃんは愚痴る。
「聖女ちゃんのおかげで乳幼児の死亡率も低下しましたからね。安心して子供が産めるのは良いことですわ。そうそう私事ではございますが、来年旦那様が家督を息子に譲り、隠居することになりましたの。それに伴って私も一緒に王都の別邸に移ることになりました。」
そう言って侯爵夫人は静かにほほ笑む。
「え?それってあなたも隠居するってこと?同い年の私が次期当主の妻になる前に?」
この国の国王は譲位が認められておらず、基本的にその逝去をもって新国王が即位することになっているが、貴族は普通に生前の家督相続ができた。
「はい。これからは仕事に追われず、のびのびと第二の人生&年金生活を送ろうと思っております。」
「ぐぬぬ・・・。こっちは王太子妃の予備扱いで、仕事ばかりでろくに贅沢もできていないのに・・・」
「王子妃の婚約者であったころを考えると第三の人生かもしれませんわね?聖女ちゃんが王子妃を引き受けてくださって本当に助かりました。」
「ちっ畜生めぇぇぇ!」
そう言ってどこかの映画のヒトラーのように悔しがる聖女ちゃんであった。
*
さらに30年後
王太子妃になった聖女ちゃんと先々代侯爵夫人となった元公爵令嬢ちゃんがお茶会をしていた。
「王太子妃である極・聖女様。本日はお招きいただきありがとうございます。」
「70年以上の付き合いなのにそんなにかしこまらないでね。それと極・聖女はやめてね。」
そう半世紀にわたる貢献を鑑み聖女ちゃんの称号が真・聖女から極・聖女に昇格していた。出世魚か!
「重ねて大聖母様の称号もまことにおめでとうございます。」
「曾孫が100人、玄孫が400人、去年は直系の王子に来孫が生まれた祝いとかでそんな称号もらったけど全くうれしくない。」
他にも年の功というか柵というか、20年前に王太子妃となったことで聖女ちゃんには無駄に肩書が増えていた。
『全国福祉協会名誉会長』
『全王国病院連盟名誉相談役』
『聖堂教会王国支部名誉枢機卿』
『王国母の会名誉会長』
『王国年金機構名誉顧問』
『国民健康保険組合名誉組合長』
etc、etc
ちなみに役職の前に「名誉」が付くのは実務面にほぼ携わっていないことと、無給であるためだ。
「というか仕事と肩書ばっかり増えて使えるお金がどんどん減っているのは納得がいかない!」
「70年前に比べて王族の出産に聖女ちゃんが立ち会うようになった結果、産褥死や死産ということもほぼなくなり、夭折する子も極端に減りましたからね。王族の数が爆発的に増えた結果、当時は10人前後だった王族の人数も、嫁に出したり臣籍降下したり、冒険者になったりいろいろ減らしてもまだ600人はいますから・・・。国内の経済が発展したといっても当時の人口で2倍、経済力で3倍程度。王室費は経済力に比例しますから単純に考えて一人当たりの使えるお金は20分の1ですからね。聖女ちゃんの子孫で150人近くでしたっけ?まあこれも聖女ちゃんの自業自・・・もとい慈悲深さの結果ではないでしょうか?」
何かあっても歴代最高の癒しの力を持つといわれる聖女ちゃんがすぐ直してしまうので、そのせいといわれればその通りだ。
余談であるが現国王の王弟に子供が二人、旦那には弟二人と妹二人がいる。妹二人は嫁に出しているので王家からの支出はないが、それ以外は子孫も含めて王族である。多少外に出したところで、ちょっとやそっとでは減らない。
そういって聖女ちゃんに語り掛ける前々侯爵夫人。王国銘菓を食べながら・・・・
「うまい!うますぎる!」
お約束である。ちなみにこのお菓子も聖女ちゃんがなんとなくで伝えた糖質カットの饅頭である。癒しの力も生活習慣病にはなかなか効果がない。短期的には治ってもすぐ再発するのである。糖尿病ダメ絶対!
「また自業自得って言った!他人事だと思ってぇ!」
聖女ちゃん泣きそうである。
「他人事ですが何か?というか自分で選んだ道ですから王妃目指して頑張ってくださいね。」
「こっちはほぼ王宮に缶詰なのに・・・。自分は悠々自適でこの前は旦那と海外旅行に行ってきたとかって言ってたし、少しは私の仕事を手伝おうとは思わないの?」
王族や要人に何かあっては困るので遠くには行けないのだ。また外交ツールとして海外の要人を呼び寄せて治療に当たることもあったが、これも誘拐の可能性を考慮して警備も万全な王宮の外にはなかなか出られなかった。
「私は隠居した身ですから。それにほら聖女の仕事は余人をもって代えがたいってやつでしょ。ほかの人にはできないわけだし、こんな時こそ子供たちに手伝ってもらったら?」
「手伝ってもらっているんだけど、聖女の力は娘しか受け継がないうえに、代を経るごとに半分くらいの力になっていくのよ。私の直系は500人程度、女性しかなれないし力を引き継がない子や就学児童などを除くと劣化した聖女能力持ちが実質100人くらいしかいないのよ。」
拡大し続ける王国の人口は2000万人。20万人に一人ではとても仕事が回らないのである。さらに希少な技術を持つ人間のため誘拐対策など警備費用も莫大だ。
「まあ頑張ってください。私は旦那と来月の海外旅行の計画で忙しいのでこの辺で失礼させていただきますね。」
「私はろくに王宮からも出られないのに!うらんでやるんだから!」
そうして今日も東ノ宮に王太子妃の叫びが響き渡るのだった。
*
30年後
前々々々侯爵夫人は死の床についていた。
「王太后である極☆真聖女様。本日はこのような場においでいただきありがとうございます。このような姿で失礼しますね。」
彼女の寿命は尽きかけており、起き上がることもできないようであった。ちなみに聖女ちゃんは1世紀にわたる貢献を鑑み極☆真・聖女に昇格していた。ただしきっと空手が使えたりはしない。
「最後なのだから気にしなくて良いわ。それと極☆真聖女はやめてね。」
「押忍!了解したっす!」
彼女は公爵令嬢に戻ったようにあどけなく微笑む。
「王妃になるためにあなたから寝取るようなことをしたのに、結局王妃にはなれなかったよ。別に今の状況で王妃になったところで贅沢ができるとも思わないけど、一応は目標にしていたから一度はなりたかったわ。」
聖女ちゃんの旦那である旧第一王子、当時の王太子は米寿の祝いの前日に趣味の遠乗りに出掛けたまま事故にあい帰らぬ人になった。落馬の際に脛骨を折りほぼ即死だったため、聖女ちゃんの到着が間に合わなかったのだ。結果聖女ちゃんは王太子妃→故王太子妃→王太后と王妃をすっ飛ばして今がある。
「そうですわね。あなたに王子様を取られてしまったけれど、それほど執着していたわけでもありませんでしたし私は気にしていませんわ。とても幸せな一生でしたし、あなたには私も含めて何度も家族を癒していただきましたから。むしろ感謝しておりますわ。」
「そうよね。私なんていまだに現役で聖女やらされてるし、しかも王室関連費が出せないから歩合制で働けっていうのよ。年金はいまだに払う側だし、116歳でこれっておかしくない?ちなみに名誉職は増え続けているのに相変わらず無給なんだけど!」
30年前よりさらに王族が増えたため多くの王族が仕事を持つことになった。幸い聖女の力があるので治療行為で対価を得ている。相場から重傷・重傷患者一人2000イエーン。軽傷・軽症者一人1000イエーンで1日100人近くを見て一日10万イエーン弱である。年収は2000万イエーン強で高所得者といえなくはないが王妃や王太后としてはどうかと思われる。ちなみに税金と年金と保険料も引かれているので手取りで1500万イエーンほどである。治療は全部自前の癒しの力なのに保険料って何・・・・。
「『保険と年金の母』なんて言われているわけですから仕方ない話ですわ。恨むなら制度を提案した100年前のご自身を恨むのがよろしいかと。まさしく自業自得。いえこの場合は自縄自縛ですかね。」
「ぐぬぬぬぬ・・・・」
反論する余地が全くない。
「生涯現役で素晴らしいことですわ。60年近く年金をもらってきた私が言うのもどうかと思いますが、長生きなさってくださいね。」
空気が少し重くなった気がした聖女ちゃんは話題を変えることにした。
「そうそう愚息が来年の100歳の誕生日を機に退位するらしいわ。新しい法律を通してた。」
今までの王国法では存命中の国王の退位を認めていなかった。
「国王陛下に向かって愚息はどうかと思うけれど、あなたの旦那が早死に?したから、在位期間が長くなっていたものね。ちょうどよい機会だったのじゃないかしら?」
先々代国王が在位80年を記録したが、普通に考えれば異常である。100年以上聖女やっている奴もここにいるが・・・・・
「それはそうだけど、先代の時にこの法律があれば短い間でも私は王妃になれたのに!それと何故聖女の退位年齢を決めない!母親より先に引退する法律を作る息子なんぞ愚息で十分だ!おかげで私は来年から太王太后よ。」
「そこはほら余人をもって代えがたいっていう」
もはや呪いの言葉である。
「そういえば最近、元の世界からの転生者に会ったのよ。生前は競馬関係の仕事についていたらしいのだけど、私には昆孫が1000人近くいるいるって言ったら。『チンギスハーンかよ。』って驚いていたわ。」
「へえ・・・チンギスハーンの遺伝子って世界一たくさんの人が持っているって話なのよね。」
そういって妙に納得した様子の元公爵令嬢。
「そうなのよ。しかもそのあとに『サンデーサイレンスのような活躍だけど、王族周辺にばら蒔かれると、近親婚が増えそうで困るかもな。しかし牝系でこれはすごいな』とか言ってたのよ。繁殖牝馬扱いってひどくない?せめて母系って言ってほしいわ。不敬罪にしてやりたい。王室のイメージ戦略があるからできないけど・・・」
「サンデーサイレンスって言い得て妙よね。確かに周辺国の王室はあなたの子孫だらけだし次世代の配偶者に困るかも・・・」
そう言って二人で笑い合った。
その瞬間少し違和感を覚えた聖女ちゃんが尋ねる。
「チンギスハーンとかサンデーサイレンスってわかるの?」
聖女ちゃんが尋ねる。
「もちろんよ。だって私は転生者だもの。この世界はとあるラノベの世界なの。原作ではあなたはヒロインで私は悪役令嬢。本来私は召喚聖女と第一王子を争い断罪されるライバルキャラだったのよ。」
平然と答える元公爵令嬢と、100年経って明かされる事実に愕然とする聖女ちゃん。
「断罪されるはずの私を何度も救ってくれて、幸せな人生までくれて、本当にありがとうございました。忙しない生き方は私には合わなかったのでとても助かりましたわ。私は先に逝きますがあなたの幸せを祈っていますね。」
そう言って目を瞑るとそのまま静かに息を引き取るのだった。
「え?私は100年間もあなたの掌の上でコロコロされてたの?勝ち逃げ?ずっと勝ち逃げ?大逃げ打ちすぎじゃないの?ここまで来てそのセリフ?私は王妃にもなれずに仕事三昧なのに?ちくせう!来世では覚えてろよ!!!!!!!!!!!」
そう言って絶叫しながらも親友の冥福を祈る聖女ちゃんであった。
注)サンデーサイレンス。ダービー出走全22頭がすべて孫だったこともある伝説の種牡馬
注2)続柄。子>孫>曾孫>玄孫>来孫>昆孫>仍孫
登場人物
聖女:異世界転移により召喚されたので初代。140歳まで生きた。ちょっと頭が弱いが頑張り屋さん。存命中に最も子孫を残した牝馬もとい女性として歴史に記される。120年以上の間現役の聖女であり大還暦聖女とも呼ばれる。また死後エターナル☆アルティメット聖女の名を追贈された。
公爵令嬢:原作では悪役令嬢だが、面倒なので何もしなかった。卒業パーティーの数年後、妻と死別した少し年上の侯爵の後妻に入る。侯爵家には先妻の娘がいるが仲は良好、自身は侯爵との間に1男2女をもうける。転生令嬢。王子の婚約者だったが王妃の仕事も面倒そうなので素直に婚約破棄を受け入れ聖女ちゃんに王子もろとも押しつけた。聖女ちゃんの負い目を突いて優先治療権など侯爵家や実家の公爵家に多大な利益をもたらす。世渡り上手。陰で聖女の称号を考案していたりする。