8 魔王城(崩壊Ver)
村を出てしばらくすると、モンスターが現れるようになった。
しかしどんなに恐ろしい姿、強そうなモンスターでもわりと瞬殺っていうか、三人がすぐに倒してしまう。
「アレンの剣から火ぃ出たりすんのは、どうやってんだ?」
「魔法ですよ。シーナさんのそれって魔道具ですか?」
「そんなもんだ。この銃には、銀の弾丸が無限に装填されてる。それにあたしの力が加わって発射される仕組み……タロの術は他にもあるのか?」
「ああ、あるぜ。火の術とか氷の術とかも使える。傷を治す術だって出来るぜ!」
わいわい、と前を行く三人が話している。
同じ戦う者同士、お互いの戦闘スタイルが気になるんだろう。
やべえ。
ただでさえ戦力になってないのに、このままじゃ会話にも取り残されてしまう!
てか、薄々気付いてたけど、これ、俺いなくてもよくね?
俺だって主人公なんじゃないの?
なんか今、サブキャラどころかモブキャラレベルまで落ちそうな気がするんだけど、大丈夫なの?
どっかで俺も存在感を示せるようになればいいんだけど。
でも、俺に何が出来る?
うーむ、と腕を組んで考え込んでいると、アレンが声を上げた。
「あっ、ここだ!」
森を抜けて見下ろした場所にそれはあった。
城の上層階が吹き飛び、一階のフロアだけが残ったと思われる、魔王城の名残り。
かなり広く、色んな部屋や通路が上から丸分かりだ。
フロアマップを見下ろしている感じ。
「へ~立派な建物だなぁ。おいら、何か悪い事しちゃった気分だ……」
タロがちょっとシュンとなっている。
確かに、タロのやった事は不意打ちというか、向こうが何の準備もしてないのに攻撃したわけで、それはまあ、主人公としてどうなんだ、とは思う。
「魔王っていっても、魔王にだって言い分があるかも知んねえし……」
そう言ってタロはうつむいてしまった。
いや、ここでその葛藤始まんの?
よくある「正義とは? 悪とは?」みたいなやつ。
ったく、これだから主人公は。
「まあ、村人が困ってたのは事実だから、よかったと思うよ」
俺はタロの肩を、ぽん、と叩いた。
タロは顔を上げ、
「そうか」
と言って寂しそうに微笑んだ。
こいつあれだな、思春期で悩みを抱えつつも成長していくタイプの主人公だな。
「おい、あれ見てみろ」
とシーナは低い声で言い、城の端の方をアゴで指し示した。
そちらへ視線を向けると、大広間に、何かいた。
俺はよく見ようと目を凝らした。
ぱっと見、そうかな、と思ったけど、目を凝らして見ても、やっぱりそうだった。
そこにいたのは、小さい女の子だった。
呆然と突っ立っているように見える。
「おい、あんなとこに女の子ひとり……何やってんだ!?」
と、タロが身を乗り出す。
アレンが叫んだ。
「危険です、助けに行きましょう!」
言うが早いか俺以外の三人、斜面を駆け下りて城へ向かってダッシュした。
っ速え!
急いで追いかけるけど、みるみるうちに離されていく。
「おい、ちょっとペース落としてくれよ! おい! 俺、普通の高校生なんだぞ!!!」
息切れしながら城の前まで行くと、シーナとタロが待っていてくれた。
「悪りい悪りい、おめーの事置いて行っちまって。そういやおめー、戦えないんだったな。もし敵が出たら危ねえよな」
「あの男が先に行ってる。まあ、一人でじゅうぶんだと思うがな」
二人の言葉を聞いて俺は謝った。
「ご……ごめん、足手まといになっちゃって……」
息が落ち着いてきたので顔を上げると、あらためて崩壊した城を目の当たりにした。
城門は根元だけしか残っておらず、城は屋根なしの一階建て、みたいになっている。
ずいぶん綺麗に吹き飛ばしたんだな、タロ。
と感心していると、城の玄関に人影が現れた。
「はーなーせー! 離せ離せ離せー!!!」
「いてて、暴れちゃだめだよ」
人影は、女の子を抱えたアレンだった。
アレンはぽかぽか女の子に殴られている。
早っ。もう救出したのか。
女の子は小学生ぐらいの子供に見えた。
王族のような魔族のような不思議な格好をしていて、ひときわ気を引いたのが、頭に、くるん、と生えているツノだった。
俺らの姿を認めると、アレンは言った。
「あっ、助けましたよ!」
アレンは女の子を運んできて、その場に下ろした。
「大丈夫? ケガはない?」
かがんで女の子の顔の高さに合わせてアレンがそう言うと、
ばちん!
と、女の子はアレンの頬を平手打ちした。
「バカにするでないっ!!!」
女の子は、むーっと怒った顔をしている。
「え?」
と、アレンは呆気にとられている。
女の子は腰に手をあて、憤然と叫んだ。
「余は全ての魔物を束ねる王、魔王なんだぞっ!!!」
魔王なんだぞ! ……王なんだぞっ……なんだぞ……だぞ…………と、その言葉は辺りに寂しくエコーした。