4 ガストーラの村
「ああ! そのお姿、もしや勇者様では!?」
俺らが村の前でぼーっと突っ立ってたら、杖をついた、青ざめて頬のこけたおじいさんが話し掛けてきた。
おじいさんはアレンしか視界に入ってないようだった。
「なりませぬ、勇者様! この村に近づいてはなりませぬ……この村はじきに焼かれます、滅びます! どうか、どうかすぐに立ち去りませ!」
心からの叫び、みたいな感じでおじいさんはアレンの胸にすがった。
アレンは言った。
「どうしたんですか?」
「うう……勇者様のお命だけは、守らなければ……なんとしても」
「いや、あの、何があったか教えてくれません?」
そう言うアレンの顔を見て、俺は少しぎょっとした。
アレンはキラキラした、心底楽しそうな笑顔になっていたのである。
「ゴルデオラです……」
と、絞り出すようにおじいさんは言った。
「え?」
「ゴルデオラです! 魔王に次ぐ力を持つ、最悪の怪物、ゴルデオラがもうじきやって来るんです!!!」
アレンの胸元をつかんでいた細い腕が震えている。
何それ。
ゴル……え? 何その怖そうな名前。
「この村は、代々伝わる結界によって魔王城の近くにあっても無事でいられたのですが、それを面白く思わない魔王が、全てを無に帰すという伝説の怪物、ゴルデオラを復活させたのです。魔王自身でもこの怪物に打ち勝てるかどうか……ましてや、勇者様にあっては……! どうか、どうかお願い致しまする! 早々にお立ち去り下されい!!!!」
まさに必死のお願い、って感じだ。
え、どうすんの?
そんな怖えモンスター、絶対に遭いたくないんだけど。
「って事らしいんですけど、みなさん、どうしますか?」
と言って振り返ったアレンの目は輝いていた。
頬が紅潮して、めっちゃ喜んでるのが分かる。
マジかよ、なんで喜んでんだよ、って思ったら、
「そんなん、やるしかねえだろ!」
と、タロが声を上げた。
え、何、やるって?
やるって何??? と、シーナを見ると、
「まあ、運動した方が夜よく寝られるからな」
とか言って首を、こきこき、と動かした。
「おじいさん、大丈夫ですよ」
アレンはおじいさんに優しく語り掛けた。
いや待て。
何が大丈夫なんだよ。
お前らは自信あんのかも知れんが、そんな魔王並みに強いとかいうバケモン、相手にしない方がいいだろ。
巻き込まれる俺の身にもなってくれよ。
俺は慌てて言った。
「ちょっ、ちょっと待って、え? やるって? 何? そのゴルなんとかってのと戦うって事?」
「あったり前でい!」
と、タロが威勢よく言う。
「困ってる人がいるんだ、助けねえって手はないだろー!!!」
あー、なるほど。
主人公だわ。
なんか悪者っぽい雰囲気を醸し出して不敵な笑みを浮かべているシーナも、悪そうなのは表向きであって実際はタロと同じ気持ちなんだ。
この人たち、主人公なんだ。
主人公だから、困ってる人、弱い人たちを見捨てられないんだ。
でも、もしこのまま戦いに行く、とかなったら俺はどうすればいいんだよ。
何の能力もないし、そんなモンスターなんか戦える訳ない。
色々考えて不安になっていると、地面に影が差した。
村を覆い尽くすような影だった。
「ああ……あ……あわわわわ…………」
腰を抜かしそうになっておじいさんが俺らの背後の空を見上げる。
他の村人たちからも、死を覚悟したようなどよめきが起こった。
俺たちは後ろを向いた。
そこには、山みたいな何かが三体、村を見下ろしていた。