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1 勝ちヒロインは属性なし

「ねーユウトぉ、あたしの前、偉そうに歩かないでくれるぅ?」


 朝の通学路。

 振り向くと同じクラスの女子、暁月(あかつき)サヤが後ろを歩いていた。

 見るからに生意気そうな顔をしている。

 むかついて言い返そうとすると、暁月の隣にいた、これもまた俺と同じクラスの女子、鳳仙花(ほうせんか)スミレが口を挟んだ。


「暁月さん、それは言い掛かり、というのでは?」

 

「言い掛かりじゃないよー、だってさぁ、目障りなんだもーん」


「まったくもう……」


 スミレさんが忠告してくれたので少し溜飲が下がって俺は、そのまま前を向き学校へ向かう事にした。



 暁月サヤ。

 気の強い生意気ロリポンコツ情弱ヘタレナルシスト。


 鳳仙花スミレ。

 頭のいいクール不思議系おっとり歌うまドヤ乳ロマンチスト。



 っていう二人のように、何故か俺、桐原ユウトの周りにいる女子たちは属性が多い。

 だから一人を相手にするだけでめっちゃ疲れる。

 学校へ着く前に疲れたくないから、なるべくクラスの女子とは会いたくない、って急いで歩き始めたそばから、


「ユウト君、おっぱよ~!」

「桐原さん、おはようございます」

「ユウトちゃぁ~ん♡ んはぁ♡ おはよ♡♡♡」

「桐原どの、おはようござりまする」

「ユウト……私以外に挨拶したら……許さないよ…………」

「ぶばすこどんどん、れいれい、ユウト、ばばばばば」


 などなどなどなど、次々現れる属性過多の女子たちとエンカウントしてしまって辟易しながら俺、やっとの思いで校舎に着いた。


(なんで朝からこんな疲れなきゃいけないんだ……?)


 げっそりする思いで下駄箱を開けると、


「おはよ」


 と、横から通常の、きわめて普通で綺麗な声。


「あ、ああ……おはよう」


 俺が言うと、ささやかな微笑みを返してくれたのは同じクラス、隣の席の女子、


 

 九条アカリ



 だった。


 属性過多が集まるクラスの中、ひとり何の属性もない女子。

 この何の変哲もない女子が、俺はずっと気になっていた。



 おかしな同級生たちに翻弄されてドタバタスクールコメディな一日を過ごして放課後。

 夕暮れ満ちる教室の中、俺と九条は二人、掃除道具を片付けて帰り支度を始めている。


 俺と九条はこの日、日直だった。


「はぁ~今日も疲れたな、うちのクラスの女子には参るよ」


 思わず知らずそんな言葉が口を衝いて出て、自分自身でもはっとしてしまった。

 九条が少し驚いたようにこちらを見る。


「っあ! ち、違う違う、九条の事じゃなくて……その、他のやつらの事だよ!」


 俺は慌てて取り繕ったが、聞かれていいセリフじゃなかった。

 気まずくなって次の言葉を見失うと、九条は、くすっ、と笑い、


「桐原君、人気者だもんね」


 と言った。


 夕日が九条の顔を照らして、笑顔が切なく輝いて見える。


「いや、人気っていうか、その……」


「みんな個性豊かだもんね。うらやましいなぁ」


「うらやましい?」


 九条は手を後ろにして決まり悪そうに俯く。


「私、何の取り柄もないからさ」


 俺は何も言えなくなった。

 それが答えになってしまって九条もしばし黙したのち顔を上げると、


「ごめん、何か変なこと言っちゃった。それじゃ」


 と言って(きびす)を返した。


――――――――――――――――――――


 ▷呼び止める


  呼び止めない


――――――――――――――――――――


 俺は声を上げて呼び止めた。


「九条は特別だよ!」


 教室を出ようとした彼女の足が止まる。

 そのまま俺は、九条の背中に話し掛けた。


「他の女子は確かに個性豊かだけど、だからこそ九条が特別に見えるんだ。九条は誰とも違うよ。少なくとも」


 ここで俺は、ぐ、と拳を握り、


「――俺にとっては」


 言い切ってから、何か重大な事を言ってしまったような気がした。


 九条はしばらく動かずにいたが、ふと、こちらを振り向いた。

 長い黒髪がくるりと舞って夕焼けに溶け込む。


 九条の頬は、薄く赤らんでいた。

 目が潤んで、今にも笑いそうな、泣き出しそうな表情をしていた。


 それを見て俺は、

 ああ、俺は。



 俺は、九条の事が――――。



 と思った次の瞬間、九条の顔が、ばちばちばちばちめりめりめりめりと裂けた。

 俺は叫んだ。


「ええええええええええええええええええええ!!!!????!!!?」


 九条の中から黒い筋肉の塊みたいなものが盛り上がって、でかい咆哮とともに九条の肉体を破壊、教室いっぱいのサイズになって現れたのは、質感とか肉感の超リアルな悪魔だった。


 いや、これを悪魔と呼んでいいのかどうか知らんけど、恐ろしすぎるこの異形の存在は、グロい顔を威嚇するように動かし、つやつやに光るでかい目玉で俺を見下ろしている。


 あ、死ぬ。


 死ぬじゃんこれ、と腰を抜かしてへたり込むと、その巨大な化け物は翼を持っていて、ばさばさと羽ばたいて飛ぶ準備、みたいな感じで構えると一気に、


 ぶわぁああああっどかがらぼかぼわぁあああああああああ!!!!!


 と教室をぶっ壊して空へ飛び立ってしまった。


 あまりの出来事に、もはや何を意識する間もなく崩れる地面へ滑り落ちていって俺は、そのまま深い闇の中へと落ち込んでいった。


 

 ほのかに彩り始めた、弱々しい恋心とともに。



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