彼女が胸に抱く彼への想い
帰りのSHRを終え、放課後になり、騒がしくなる教室。
席に座っていた僕に、羽井浪が駆け寄ってきて、短く声を掛けてきた。
「帰ろっ豊口くん」
「あっ、うん」
周りの視線を気にしながら、こたえて立ち上がる。
歩きだした彼女の隣に並んで教室の後ろから出ていく。
廊下を出た瞬間に後ろから声を掛けられる。
「豊口って莉央ちゃんと付き合ってんの?昼休みも一緒にいるけど」
振り返ると、羽井浪と仲の良い女子がいて、いつもより目付きを鋭くしていた。
「えっと、その......」
「そうだよ。美澤さん、だめなの?豊口くんと付き合ってたら」
隣にいる彼女が、いつものように柔らかい声で恋人だと告げる。
「そこまで言ってるわけじゃ......ただ、莉央ちゃんにはもっと他にもっ」
美澤の言うことは、理解できる。彼女からしてみれば、不思議に思うのは当然だ。
彼女の言葉を遮り、羽井浪が胸に手を触れ、豊口への溢れる想いを口にする。
「私は、豊口くんにときめいたの。好きなの、隣にいる豊口くんのこと。大好きな気持ちは変わらないの。美澤さんにも好きな人ができたら、きっと私みたいに思うはずだよ」
「それは......そうだと思うけど。意外だよ、莉央ちゃん。デートなの、今から?」
「そうだよ。だからもう話はいいかな?」
「ごめんね、莉央ちゃん。邪魔しちゃって」
僕は、美澤の表情に影が射すのを感じとってしまった。
「じゃあ、また明日ね。美澤さん」
羽井浪は、彼女に小さく手を振って、別れの挨拶を言い、歩きだした。
僕は、彼女に申し訳なく思い、小さく頭をさげ羽井浪に追い付くように小走りで駆け寄る。