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敗走者たち

勇士は折れた右腕を激痛に耐えながらも引っ張る。


「ぐぅ…………ぁぁぁぁぁぁッッ!!!」


骨を無理やり元の位置に戻し当て木をし簡単に固定する。


「肋骨は……医者にみせるしかねぇか………おいッッッこの近くの医者はどこだ???」

「ヒィィィィィィィィッッ…………………」


部屋の隅で震えていた男が悲鳴を上げる。隣には内臓を飛び散らせた同居人らしき男が横たわっている。

もちろん殺したのは俺だ。


「人が一人死んだくらいでいちいちビビんなッッ!!医者はどこだって聞いてんだよ」

「こ……この村の北の教会の裏だ……なんなんだお前ッいきなり現れて俺のダチを」


言い終わる前に勇士はそれを遮る


「そうか。」


パンッッという乾いた音と共に男が額から血を吹いて倒れる。

勇士の構えたコルト拳銃からは白い煙がゆらゆらと立ち上っていた。

男の血が少しずつ溢れ広がり暖炉の火を反射してゆらゆらと怪しく光る。

銃火器で人を殺すのは爽快感はあるが命を奪っているという実感が薄く好きになれない。


「ひどい目にあったぜ…………だが、おかげでいいモノが見れた。」


勇士が意識を集中させると左腕がぼんやりと黄色く光った。


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魔王たちが戦闘を繰り広げたマクベスの町の地下には巨大な下水網が広がっており、長年の増改築を繰り返す中でさながらダンジョンのような構造を持つに至っていた。

さらに廃棄物の養分を求めた低級の魔獣が集まり独自の進化を遂げ今では熟練の冒険者でも気安く立ち入らないほどの危険な場所となっていた。

しかし、それは狩られる側にとってであり、狩る側にとってこれほどに上質な食糧庫はない。

傷口から溢れ出す内臓を引きづりながらスライムはヨルの気配から出来る限り遠ざかるように地下迷宮を這いずり突き進む。

何か蠢くものの気配を感じ、スライムが目を向けた通路の先の曲がり角から全長2メートルほどの巨大な虫が勢いよく飛び出し、這うようにこちら目掛けて突っ込んでくる。

冒険者ならば即座に表情を変えて逃げ出すか剣を構えて覚悟を決めるところだが、スライムにとっては食糧が自ら口へと歩いてくるようなものである。

虫が飛びかかろうと翅を開き飛翔した瞬間、スライムの体が薄緑に発光し風を切るような音と共に虫の体が3つのパーツに輪切りにされ、飛んだ勢いのままにスライムの口へ吸い込まれる。

ボリボリと虫を咀嚼している途中、水路の中から巨大な甲殻を纏ったハサミが飛び出し、水中より現れた全長3メートルの巨大なザリガニのような魔物が襲い掛かる。

油断した隙を突くような奇襲は冒険者に対しては有効だがスライムには通用しない。

瞬時に触手を伸ばして襲いかかる巨大なハサミを捕らえる。

抵抗空しくブチンッッという音と共に巨大ザリガニの体が真っ二つに引きちぎられスライムの口の中に放り込まれる。

すでに下水路を進む中で50体ほどの魔物を捕食していたが、受けたダメージが大きすぎるのか傷口はジュルジュルという音と共に治癒しようと蠢くが一向に塞がる気配がない。

本能的にスライムは今のままではヨルに勝てないことを理解していた。

あの奇妙な能力で飛び去っていった男にすら勝てるかどうかは怪しい。

より多くを喰らい能力を身につけねば……そしてゆくゆくはあの魔王の力をも我がものとしてみせる。


マクベスの町の周辺で手練れの冒険者が次々と姿を消すのはそのしばらく後のことである。





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