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勇者召喚


「囚人番号201番 芥勇士 出ろ。」



その日は何の前触れもなく突如訪れた。

手錠をかけられ、独房の外へと連れ出される。

釈放のはずはないと思ってはいたが、見慣れない殺風景な部屋に通された時点ですべてを理解した。


どうやら俺の死刑は今日執行されるらしい。


芥勇士は連続猟奇殺人犯である。

様々な場所で人を殺し解体、遺棄を20人分繰り返した。

逮捕の際、勇士は自宅で死体解体の真っ最中であり、突入した警察官のうち半数が現場を見るなりあまり惨状に嘔吐した。

カーテンを潜り抜け隣の部屋に通される。

同じく殺風景な部屋であったが先ほどの部屋と異なるのは床の中央に赤い線で区切られた四角があることである。

その上には天井より端が輪になっている太い縄が掛けられている。これはとても分かりやすい。

首に縄が掛けられ、四角形の真ん中へ立たされる。

勇士は死ぬことに恐怖はなかったが後悔はあった。

もっと心躍る殺しがしてみたかった。

死にたくないと懇願する人間の尊厳をすべて踏みにじりできる限り残酷に痛めつけ生命の最後の輝きが消えるその瞬間をキャンプファイアーの火が消えるのを待つかの如く静かな心で観察する。

始めはそこに何とも言えない感動があったがそれも10人ほど殺した辺りからどこか冷めている自分がいた。

シチュエーションにもっと工夫の余地があったのか、それとも殺し方にバリエーションを持たせる技術が足りなかったのか、、、、そんなことを考えている間に「パコッッ」という気の抜けた音とともに床が抜け、体が落下した。

床の開く音はカップ焼きそばの湯を流した際の熱膨張によるシンクの反り返りの音によく似ていた。




芥勇士はそこで頸椎がきれいに骨折し確実に死ぬはずであった。

しかし、襲ってくるはずの首への締め付けは待てども待てども襲ってこない。

これは妙であると思い目を開けるとそこには殺風景な部屋も赤く区切られた四角形もない。

代わりに足元には怪しげな魔法陣が発光しており石造りの部屋に黒いフードの人間が数人立っていた。


「せ、、、、成功じゃッッ、、、、、、、」


目をカッッと見開き中央の老婆が叫んだ。

フード連中の中心に立っておりリーダーのようである。


「状況がわからねぇ。どういうことだこれは?俺は死んだんじゃないのか?」


勇士の当然の質問に老婆が答える。


「突然の召喚に応じて下さりありがとうございます勇者様、まず、あなたは死んでおりませぬ。

 死んでしまおうというところをわたくし共がこちらへ召喚いたしました。 

 今この世界は魔族がはびこり、暗黒の闇に包まれております。更に古の魔王まで復活

 しようとしている、、、どうか悪しき魔族どもを一掃し、この世界をお救いください。。。。」


ここはどうやら異世界のようだ。

俺は世界の窮地を救うべく最後の期待を背負い召喚された勇者というわけだ。

最近のどこかの漫画で見たような設定である。


「なるほどねぇ、しかし、俺はただの快楽殺人者だぜ、多少喧嘩はできるが、得体のしれない魔族なんかと戦うことができるとは思えねえなぁ。」

「ご心配なく、あなた様は選ばれし勇者です。あれをここへ。」


老婆が指示を出すと隣のフードの女が古ぼけた紙のカードのようなものを差し出す。

受け取るとカードが発光し文字が浮かび上がる。

どうやらそれは能力値を書き記しているらしく体力、知力、魔力など全ての能力値がSランクと表示されていた。


「それがあなたの能力でございます。そこいらの魔族であれば苦労なく撲殺することが可能でしょう。相手の魔族が多少強くともあなたには特殊能力がございます。一番下の欄をご覧ください。」


カードの一番下の欄には「特殊能力:武器召喚」と書かれていた。


「頭の中で何でもよろしいです。何か一つ武器を思い浮かべてください。」


勇士は子供のころ見たアメリカ映画を思い出した。

軍人上がりの筋骨隆々の男が派手な武器で次々悪者を殺していく内容のない映画であった。

しかし、その男の尋常ならざる火力の武器が未だに勇士の潜在的な武器のイメージを強く形づくっていた。

武器の輪郭をはっきりとイメージした時、目の前の空間から軽機関銃が出現した。

抱えるとそれにはずしりとした鉄の確かな重みがありそれが本物だということに疑いの余地はなかった。


「サコ―M20じゃねーか!!こいつはイカすぜ!!!」

「それがあなたの能力でございます。想像できる武器でしたらどのようなものでしても召喚可能でございます。魔法をはるかに上回る火力、どんな魔族もたとへあの魔王であっても殺せましょう。」


老婆は懐より水晶を取り出す。水晶が怪しげな光を放ち、どういう原理か長髪の男の顔が映し出される。


「これが転生した魔王でございます。」


勇士の顔がにたりと歪む。


「つまり、現時点で俺に対抗できるのはこいつだけってことか??」

「さようでございます。通常の魔族では勇者様の能力に成すすべもございません。」

「要はそいつを殺せばこの世界は俺のものってわけだよなぁッッ!!!!」

「はぁ、、、、、、、???」


そう言うが早いか勇者は軽機関銃を乱発した。

フードの連中に無数の弾が叩き込まれ、飛び散った血が石の壁に前衛的な抽象画のような模様を形作る。人間の血を見るのは久しぶりだ、気分が高揚する。


「はははははははははははッッッッッッ!!!!!!!!!!」


勇者の笑い声が室内に響く。

なんという最高の設定か。

この世界には好きに殺す手段があり、好きに殺していい人間がいる。

もとの世界では発見できなかった最高の殺しがこの世界では見つかるかもしれないとの期待に胸が躍っていた。

とにかく邪魔となる魔王を早く殺さなくては、ヤツが始めのターゲットだ。

ランチャーを召喚し天井を吹き飛ばし背中から小型ロケットを生やすように召喚して夜空へと飛翔する。雲と同じほどの高度に到着するといくつかの光の密集地が見えた。

思ったよりもこの世界は発展しているようでいくつもの街がある。

魔王の場所は言われずともわかっていた。

この世界へ召喚された時から大きな力を感覚的に感じていた。

冬場の静電気で体毛が逆立つのを感じるかのように微弱であるが確実にその存在を感知できた。


光の密集地のうち一つに狙いを定め、30秒ほどでその街へ到着する。

町の人間が突然飛来した勇者にパニックになるのにも目もくれず、目の前の建物に狙いを定める。

間違いない、尋常ならざる存在の力を感じる。

召喚したバズーカ砲でドアを吹き飛ばす。

中に入ると40人近い人間がおり酒を飲んでいる。水晶で見た男は、、、間違いない、あいつだ。

中央の机に座っている男をまっすぐに捉える。こういう場合は先手必勝である。

「見つけたぜぇえええええ!!!!!!!」

と叫ぶと同時に勇者は重機関銃をぶっ放した。


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