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魔王転生その3

頬に当たる風に再び目を開けると見知らぬ白い天井が見えた。

寝ていたベッドからゆっくりと体を起こすと、どうやらそこは病院の一室のようであった。

開け放たれた窓からの夜風がカーテンをゆっくりとなびかせ、ベッドの横のテーブルにはまだ新しい赤い花が一輪花瓶に飾られていた。

目の前の壁の鏡には黒く長い髪の男が映っていた。

どうやら転生の話は本当であったらしくヨルは人間の男になっていた。

年は二十代前半、身長は180センチ前後といったところであろうか、光に包まれた刹那赤ん坊などに転生したらどうしようかと想像し心配していたのでとりあえずはホッとしていた。

病院内は他に人間が一人もいないかのようにひっそりと静まり返っていた。

まずはこの世界の情報を集めなくてはならない。廊下を歩き玄関より外へ出る。


病院の外は夜だったが丸い月が煌々と光っており妙に明るかった。

郊外で周りに他に建物はなく、はるか道の遠くに密集した町の明かりのようなものが見えた。

とりあえずは町を目指すしかあるまい。

しかし病院着ではいささか肌寒い。

あるわけがないがどこかにもう少しマシな服は落ちていないものか。

そこへ蹄の音が聞こえ、ほどなくして道の先から馬車が走ってきた。これは丁度よい。

馬の前に立ちふさがり馬を止める、指先に魔力を集中し何やらわめく御者の目の前で指を軽く振る。

この体でも魔法は問題なく行使できるようだ。

幻惑魔法にかかり虚ろな目をしている御者にヨルは尋ねる。


「魔王討伐から何年経った?」

「魔王、、、討伐は500年前です、、、、、今日は統一歴499年、、、、5月8日です、、、、、、」


なんと、自分の死から500年も経過していたとは。

どおりで前世では見たことがないものが多いはずだ。

何事かという声とともに馬車から上等そうな身なりの男性が姿を現した。

ちょうどヨルと背格好が同じくらいである。これはとてもついている。

ヨルは指を振りその男にも幻惑魔法をかけた。



馬車の男から拝借した服(半ば魔法で奪った形ではあるが)をまとい、町に到着した。

目を覚ましてからヨルは一つの計画を立てていた。


それは再び世界を支配することである。


ヨルら魔族一派はもともと人間に迫害されていた。

類稀なる才能を持ち悪魔族に生まれたヨルは魔物の権利を得るために世界の支配に乗り出した。

おそらく転生はそれが未だに果たされていないためと考えていた。


しかし、町に足を踏み入れたヨルの目の前に広がっていたのは驚くべき光景であった。

大通りには様々な店が軒を連ね煌々と光を放ち多くの住人が往来を埋め尽くす。

ヨルにとって特異に映るのは人間族ともに多くの魔族が当然のように見られることである。

眼前の食事場の軒先では悪魔族の娘が客引きをしており、その先の広場ではサラマンダーの大道芸人が人垣を作っていた。

同僚と見えるドワーフと人間の二人が談笑しつつ横を通り過ぎる、エルフと人間の若いカップルが仲睦まじく露店で小物を眺めている。

魔族を救うべく世界を征服せんとしていたヨルにとってまさしくそれは理想としていた世界であった。



夢見心地で適当なギルドに入りコーヒーを注文する。

500年前と変わらぬコーヒーの味にこれが現実なのだと実感する。

コーヒー代のこの金も馬車の男性から拝借したものだがいつか必ず返却しなくてはと深く反省し先ほどの往来の光景をゆっくりと思い出す。

魔族と人間が当たり前に幸せそうに手を取り暮らしていた。

志半ばで潰えた自分の世界征服も無駄ではなかったのだと思うと涙がこぼれそうになる。

一人しみじみとコーヒーをすすっていると隣の冒険者の一団が声をかけてきた。


「そこのお兄ちゃんここじゃ見ない顔だな、この町は初めてかい??」


見るからに肉体派の陽気そうな男が盃を掲げながら話を振る。


「ああ、とてもにぎやかな街だな、それにギルドがあるのには少し驚いた。」

「都会ではなかなか見ないでしょう。見ての通り田舎の冒険者ばかりの街です」


男の隣の知的な目をしたエルフはどこか嬉しそうにそう話す。


「いくら技術が発達しても魔獣はなかなか根絶できねぇ、こんな田舎じゃ特にな。まあそのおかげで俺たちは飯を食えてるわけだが!!がはははは」


豪快に笑う男につられほかのパーティーメンバーも笑う。

この時代でも魔物はしぶとく生き残っているようである。

未だにこの世界に転生した理由は不明だが、冒険者となって世界を旅するのも第二の人生としては悪くないのかもしれない。

そう思った矢先、ギルドの扉が唐突に爆発し爆炎を割るように人間の男がギルドに入ってきた。

突然の大きな破壊音にギルド内の視線が一斉に男に集まる。

男の髪は短く剃られ、見たこともない服を身に纏っていた。

その男の目がまっすぐにヨルを捉える。背に寒気が走るような嫌な予感がした。


「見つけたぜぇえええええ!!!!!!」


唐突に男の目の前の空間から重機関銃が現れ火を噴いた。


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