本島へ
鉱山での勇者の攻撃によって死亡した住民は17人、重軽傷者は20人に及んだ。
戦闘の後速やかに勇者の死体捜索は開始された。
2日目には最寄りのマクベスとブルーベイからも防衛部隊が派遣され100人規模で1週間の捜索も叶わず勇者の死体はついに発見されなかった。
凍りついた海からは破壊された船と凍りついた右腕のみが発見された。
人払いを済ませたガリバーの街の一室でヨルとオーゼンは向き合っていた。
「ヨル様ご苦労でした。これほどの状況ではあの勇者といえど命は無いでしょう。」
オーゼンが言うことにも無理はなかった。
氷柱で体を無数に貫かれた上にシャルルの一撃で急所を剣で刺されている。
腕を失ったとあればたとへあの時は生きていたとしても失血により死亡している可能性が高い。
しかし、
「いや、奴は必ず生きている。」
あれだけの傷を負いながらも前進し、最後まで逃げ切ることを諦めなかった。
勇者のしぶとさは前世で身に染みてわかっている。
なにより勇者と初めに邂逅した際の悪寒は今も消えていなかった。
「俺は本土へ移動する。ここで見つからないとなればいないとなれば本土に流れ着いているかもしれん。」
マクベスやガリバーを含むデビラニア王国は大きく2つに分かれておりここガリバーやマクベス、ブルーベイを含む新島と首都やその他大都市を包する本島に分かれている。
勇者が運良く逃げ切れたとすれば海流に乗って本島に流れ着いた可能性が極めて高い。
これは確信に近かった。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
不毛の地と化した海でシャルルは捜索の指揮をとっていた。
「おう、ヨル。もう体は大丈夫なのか?」
隊員に指示を飛ばしながらも後ろに来たこちらの気配を気取ったシャルルが声をかける。
「俺は魔王だぞ。あんなのはかすり傷にも入らん。」
嘘である。傷が予想以上に悪く、3日ほど高熱にうなされて寝込んだ。全快したのはごく最近である。
やはり転生後のこの体は体力面が脆弱すぎる。
「行くんだろ。勇者を探しに。」
シャルルも既にそのことには気が付いていた。しかし、これ以上シャルルを巻き込むわけにはいかない。
勇者は予想を遥かに上回る速度で成長しており、この先無傷で守れる保証はない。
やはりここで置いてくべきか。
「ここに残れと言うのだろ。断る。わたしも共に勇者を追う。」
予想外の勘の良さにヨルは驚く。
「あの強さを見てしまったのだぞ。あの力は時期に多くの人々を巻き込み危険に晒す。
勇者の末裔として見過ごせぬ。」
シャルルの目は並々ならぬ熱意と決意に満ちていた。
「そう言ってくれると信じていた。これはブルーベイへの切符だ。出発は明日朝。
ここの引き継ぎその他はしっかり済ませておけよ。では。」
素早くシャルルの手の中に切符をねじ込み要件を伝え街へと引き返す。
シャルルはしばらく目を丸くしていたが事態を理解したらしい
「え??ちょっ…ちょっと待て!!
なんかこう”本当にいいのか?”とか”このまま来たら死ぬぞ”とか
もっとこうこちらを気遣う言葉は無いのか???
おい!!待て!!話は済んだとばかりに去っていくな!おい!!!」
あれほどの強さを持つ勇者である。
本物を見てしまえば戦意を削がれてしまうのも無理もないと感じていた。
しかし、思い返してみればあの惨劇の後、勇者を追いかけ一撃を入れるような奴である。
気遣いは不要だったかもしれない。
「おい!!何を笑っているんだヨル!!こちらの話を聞け!!
なんかこう茶番のようなやりとりがあってもいいだろう!!おい!聞けって!!」
2人の旅はまたしばらく続きそうだ。