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逃走の末

勇者は至る所へトラップを仕掛けつつ森の中を駆けて行く。

足元の茂みの間に張られた糸はヨルの足が触れた瞬間、瞬時に氷結し爆弾としての機能を停止する。

少し前を逃げる勇者は追って来るものの方向を見据える。


「はぁ…はぁ……さっきから爆発音がしねぇ!!もうトラップは通じねぇか。」


ゴゴゴゴゴゴッッッッ!!


遥か後方からの尋常ならざる破壊音に隠れていた大木の影より急ぎ飛び出す。


「うぉッッッッ!!!!」


先程までいた場所が直線状に氷塊により跡形もなく削り飛ぶ。


「こちらに逃げたのは失策だったな。心置きなく魔法が使える。」


続けて無数の氷塊が次々と周りの大地を削り取る。


「容赦なさ過ぎんだろクソが!!なんでそこまで俺を殺したがんだ!!」


魔王へベレッタを2、3発打ち込むが当然のように通じない。


「知っての通り俺は前世で魔王をやっていてな。立場上色々な魔族、人間を見てきた。 

 種族は違ってもどうしようも無い下衆には一貫した特徴がある。

 

 目だ。

 一見、光がなくただ無気力に見えるが、その奥に抑えがたい猟奇性と殺人衝動を備えている。

 貴様の目はまさにそれだ。

 さらに貴様は勇者の力を持っている。

 それはその性を大規模かつ確実に実行できるだけの危険なものだ。」


「ふっ……ふふ……

 はっはっはっはッッッッ!!!!

 その通りだよ魔王!!おれは殺すことしか考えてねぇ!!

 前の世界はクソだった。あんなスカッとする行為を禁止して当然のようにどいつもコイツも生きてや 

 がる。俺に言わせりゃアイツらこそ気狂いだ!!殺しができねぇなら俺は死んだほうが……」 


ズンッッッッ!!!!!!!!


とてつもなく重く大きなものに押しつぶされるかのように身体が地面にめり込む。

肋骨がギシギシと悲鳴のような音を上げる。

超増幅された重力により魔王の半径1キロほどの範囲が押し潰されて更地になっている。

重力の圧が解けるのに続いて無数の氷の槍が襲いかかり手足を貫く。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「貴様の身の上話など聞きたくはない。大人しく死ね。」


尚も勇者は身体をひきづりながら逃げようと駆け出す。


「逃がさん………うッッ……!」


横腹を抑えた手に血がベッタリと付いている。

先程負った傷が痛む。高度魔法の連続使用と連戦の疲労から回復魔法がうまく機能していない。


その時、勇者の進行方向の森の先よりピカリと何か光るものが見えた。


「あの光、森の先は海ッッ!海よりより逃げる算段か!

 ロケットで飛んだ際に地形を把握していたのか!!」


足を引きずりながらも勇者は目の前の崖の先の光へ手を伸ばす。


「あと少し………ッッ!!!」



サクッッッッッ


茂みの中から白く光る刃が飛び出し、胸部を貫く。


「ゴフッッ…!!!」


刺したのは先程魔王と一緒にいた白髪の女だ。

女は剣の血を振り払い、後退しようとするこちらを見据える。


「あそこまで大規模な破壊をしていれば猿でも場所がわかるぞ。

 連続の雷魔法でちと足には負担をかけたがな。」


「クソ雑魚がッッ!やってくれんじゃねぇか!!!!」


直後、後方より飛んだ無数の氷槍が背中を刺し貫く。


「ガハッッッッ……!!!!」


女の反対側より魔王が追いつき現れる。

海まですぐそこというところで魔王と女に挟まれた形になる。


「終わりだ。最期に聞きたいことがある。お前はなぜ俺を殺そうとする?」


勇者は血を吐きながらも口元をニヤリと歪めて答える。


「そんなの簡単だ。この世界で最も強いお前を倒せば俺がこの世界の頂点!

 誰にも邪魔されずに殺しができるからなぁッッ!!!」


「下衆が。消えろ。」


右手を差し出した瞬間、勇者が10個ほどの手榴弾を召喚し周囲にばら撒く。


「ここで終わってたまるかッッッッ!!」


ドゴォォォォン!!!!!


手榴弾の爆発により崖がえぐれるように崩れ、勇者、ヨルとシャルルごと海へと落下する。

勇者は追撃が来る前に小型ボートを召喚し飛び乗りエンジンをかける。


「(これで召喚のキャパは最後!!だが向こうも満身創痍、これで逃げ切る!!)」


ヨルとシャルルは落下する途中で崖に剣を突き立ててなんとか海への落下を免れている。

勢い良いエンジン音とともに勇者の乗るボートが海を走り去って行く。


「あいつッッまだあんな手を!!どうする???」


シャルルに襟を掴まれ宙吊りになるヨルを見ると先程から何やら長い詠唱をぶつぶつと呟いている。

アーチ状に組んだ指の中央部分に白く眩い魔力が球状に結集してゆく。


「シャルル!!ありったけの魔力を使う。あとのことは任せたぞ!!」


放たれた魔力の塊が自由落下していくようにゆっくりと落ちる。

塊が水面に触れた直後、凄まじい密度の氷塊が海を埋め尽くしていく。


ただならぬ氷結音に勇者が振り向いたときには30メートル近い氷塊の波がすぐそこまで迫っていた。


「クソがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


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氷塊の波及が収まる。


「本当にこれを…人間がやったのか……」


ここが海だったと知らない人間に伝えたらどんな反応をするだろうか。

先程までシャルルの目の前に広がっていた青い海原は見渡す限り地平線の彼方まで巨大な氷塊で埋め尽くされ、白銀の不毛の大地に変わっていた。


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