ドラゴン退治その2
部屋のドアを叩くが返事がない。
もう一度殴るようにしてドアを叩くとやっと中からモゾモゾと何かが蠢くような音が聞こえ顔面蒼白のヨルが満身創痍といった様子で体を引きずるように這い出てきた。
「あれから何時間経った…?頭が痛い…うっぷッ…」
白かった顔色が一瞬限りなく紫に近い青に変化し直後凄まじい勢いでトイレへ駆け込む。
「おぉぉぉぉッ………オェェェェッッ……」
トイレのドアが小さく開く。ヨルの顔面は相変わらず白く血の気が全くない。
「完全な2日酔いだ…ドラゴン退治は明日というわけには…」
「できるかぁぁッッ!!!!!!あれほどの啖呵を切っておいてなんだその体たらくは……
だからあれほど昨日はやめておけと…」
あの交渉の後、酒場は勇敢な冒険者を激励すべく町長の乾杯の合図と共に盛り上がりの最盛期を迎え、半狂乱の宴は東の空が薄く白むまで続いた。
最後まで町長と共に狂乱の中心でバカ騒ぎをしていたヨルがこのようなことになるのは当然の帰着である。
モヤシのように萎んだよれよれのヨルの肩を担ぎ無理やり外へ連れ出す。
ドラゴンの根城である炭鉱へ向かうべくガリバーの中央通りをヨルを引きずりつつ歩いていると昨日の噂を聞きつけた町民が次々と声をかけてくる。
「頑張れーー!冒険者の兄ちゃん!死ぬなよー!」
「あんなドラゴンぶっとばせーー!俺たちの仕事を取り返してくれーーー!!」
「死ぬんじゃないよ!!昨日の酒のツケはしっかり払ってもらうんだからねッッ!!」
途中借金の催促のような野次があった気もしたが大多数の声援に対し担がれつつもヨルはガッツポーズで応じる。どうやら少しでも大声を出せば胃の内容物が出てきてしまうらしい。
やっと掲げた腕はガッツポーズというには著しくガッツを欠いたとても弱々しいものであった。
「体調が悪いのなら尚更早く終わらせに行くぞ。お前の重力魔法ならドラゴンといえど一撃だろう?」
「今日のような2日酔いでは重力魔法は使えん。」
「なッッなんだと!????」
「重力魔法はとてもデリケートなんだ。二日酔いで使えば鉱山ごと吹き飛びかねん。」
「じゃあ、何だ?私1人でドラゴンを倒すのか??」
「心配せずとも大丈夫だ。ドラゴンくらい子供でも倒せる。俺が一から教えてやる。」
「そんなわけあるかッッ!」
通常、ドラゴンは熟練のA級冒険者でも複数人でチームを組んで挑むほどの強敵である。
しかしこの男に言われるともしや出来てしまうのではないかと思えるほどの説得力があるから不思議だ。
「俺に任せておけ。死なせはせん。」
軽くカッコをつけたヨルはにわかによろけると急いで路肩へ駆け出しふたたび嘔吐した。
路傍の糞を見つめるかのようなシャルルの視線に対してヨルは再び力ないガッツポーズで応じた。