ドラゴン退治その1
「街の炭鉱にドラゴンは出るわ殺人鬼が現れるはこの街はめちゃくちゃなんスよ〜
町長の酒の量も増えちゃってもう大変ッス
あ、着きました、ここですここです。」
炭鉱の町ガリバーに到着し治安部隊の若者に案内された家の部屋の壁には黒い血痕がべったりとこびりついている。
「勇者はこの後、医者に重傷を負わせ行方をくらましています。今はどこにいるのやら…」
勇者による殺人は初日の夜のうちに終わっており、汽車を使ったヨルたちの到着は大きく遅れをとった。結果、勇者の捜索は空振りに終わった。
適当な宿をとり、荷物を整理している際とんでもないことに気がつき、勢いよくヨルの部屋の中に怒鳴り込む。
「おい!!!!ヨル貴様!!30万はあった路銀をどこにやった!!なぜ残り2万しか無いんだ??!」
度重なるヨルの浮世離れを咎めるうちにシャルルのヨルに対する遠慮は完全に消失していた。
「部屋に入る時はノックくらいしろ。本と食い物を買ったらそれだけになってしまった。路銀くらい適当なとこで調達すればいいだろう。」
「転生して一般常識も怪しい奴がよくもぬけぬけとそんなことを言えるものだなぁッッ!!明日泊まる金さえも怪しいのだぞ!!」
「そう怒るな。アテはある。」
そう言ったヨルに連れて行かれたのは街の中心にある大きな酒場だった。
「あれだけ大口叩いておいたのにまさか酒で現実逃避でもするつもりか。」
「まあ、見ていろ。少ししたら戻る。お前は適当に飯でも食っているといい。」
カウンターで大瓶の酒を注文したヨルはおもむろに賑やかな卓の一つに近づいてゆく。
ヨルの考えは全く読めないが、とりあえず1番手ごろな冒険者定食を注文し肉にかぶりつきつつヨルが戻るのを待つ。
定食を食べ終え(とても美味かった。)追加でデザートでも頼もうかと考えていたところにヨルがベロベロに酔っ払った中年の男と共に肩を組んでやってきた。
「町長。これが俺の連れのシャルルだ。この年でマクベス治安部隊の小隊長を務める実力者、しかも勇者の末裔ときている。どうだ、ドラゴン退治俺たちに任せる気はないか??」
どうやらコイツは私をダシにドラゴン退治を請け負うつもりらしい。しかし。
「だが兄ちゃんよぉ、もうそれはギルドに500万で依頼を出すことで話がついてる。」
酔ってもこの町の町長。いきなり現れた部外者に依頼を出すのを渋っている。
「しかも冒険者でもない者が個人でギルドを通さずに依頼を受けるのは禁止されているんだぞ。」
シャルルの捕捉にすかさずヨルが懐から小さなカードを取り出す。ヨルの名前のあるC級冒険者ライセンスカードだった。
「冒険者法第3条の10:
C級以上の冒険者については依頼を受ける際のギルド仲介規定を免除される
そうだろう?」
そういえば、汽車の中で読んでいたのは法律関係の書物ばかりだった。
「お、お前いつの間にライセンスを??」
手に取りまじまじとカードを見つめるがマクベスのギルドで発行された正真正銘、正規の冒険者ライセンスである。
「その依頼、私たちが受けよう。報酬は300万前金なし完全成功報酬ただし即日現金支払い。どうだ?悪くないだろう?」
ヨルのC級ライセンスと私の存在が決め手となったようだ。
「たった2人でドラゴンを倒そうなんて正気とは思えねぇ。しかしそういう無茶な奴らは嫌いじゃないぜぇ!乗った!!!」
サラリとヨルの出した契約書に村長は勢いよく母印を押した。