無くし物
「クソー! 暑いぞー! 暑い! 暑い!」
「オイ、暑いのには同意するが、深夜に大声を上げるな」
無くし物を探しながらホームを彷徨いていた俺の耳に若者の声が響く。
顔を上げ周りを見渡すと、10メートル程先のベンチに大学生と思われる若者が2人座っていた。
俺は彼等に声を掛ける。
「こんばんは。
本当に今夜は暑いね」
見ず知らずの男に声をかけられ訝しげな表情になった2人だが、先程大声を上げた若者を諌めた方の若者が返事を返してきた。
「すいません、うるさかったですか?」
「否、うるさいって程では無いけど、静まり返っている駅構内だと結構響くから。
それよりそんなに暑いなら俺が涼しくなる話をしてあげよう」
「もしかして怪談ですか?」
「嫌かい?」
「お願いしますぅー。
怪談とか大好物なんで」
先程大声を上げた方の若者が割り込んできて返事を返してきた。
「そう、それじゃ話そう。
この駅で始発電車に飛び込む自殺者が多い理由を。
あの晩も今夜のように蒸し暑い熱帯夜だった。
明日明後日が会社の定休日だったんで同僚等と駅近くの飲み屋を梯子し、最後に寄った飲み屋の前で帰宅方向が違う同僚等と別れ、このホームで最終電車を待っていたんだが物凄い睡魔に襲われ眠くてしょうがなくなり、そこの隙間に潜り込んだ」
話ながら階段下の自動販売機が7台コの字に並んでいる裏側の狭い隙間を指差す。
「背広が汚れるのも構わずに横になり爆睡。
ザワザワと多数の人の声が寝ている俺の耳に聞こえたんで目を覚まし、もう始発電車の時間かと腕時計を見たらまだ午前2時を少し過ぎたばかり。
じゃあこの人の声は何なんだ? と思い、並んでいる自動販売機の隙間から声のする方を見てみる。
そこにはこの駅で自殺した人たちだと思われる、手足や首がブチ切れていたり身体が細切れになっている人たちの霊が、「私の足は何処?」「俺の目鼻が見当たらない、何処だよ?」「僕の身体の肉はこれじゃ無い、これでも無い」と、口々に呟きながらホームやホーム下を彷徨いていたんだ」
「寝ぼけて夢でも見たんじゃないの?」
「嘘だと思うかい?
嘘だと思うならそこの隙間で丑三つ時まで待てば良いのさ。
ただし、ホームやホーム下を彷徨く霊達に見つかるなよ。
見つかると俺のように霊達に取り押さえられ始発電車の前に放り込まれるからな」
俺はそう言い、薄暗い柱の陰から出て全身を若者達に晒す。
「「ヒィィーー!」」
2人は血塗れで手足がブチ切れた俺の身体を見て悲鳴を上げ、ホームの前に滑り込んできた最終電車に飛び乗り真っ青な顔で俺を凝視していた。
最終電車を見送り若者達が座っていたベンチの下を覗き込み歓喜の声を上げる。
「あった! やっぱりここだったのか」
俺はベンチの下に転がっていた腕に手を伸ばした。