秩序の女神と与えられる役目
書きためておいた物を投稿します。続けて楽しんで下さい。
少しでも読みやすくすべく修正を掛けてみました。
建物の中に入り進んだ先にはただ真っ白な空間が広がっていた。不思議な光景に呆然としていると急に激しい光に襲われる。
「ようこそ荒谷野虎士郎さん。ここは異世界の入口になります」
声が聞こえた瞬間光が収まりだしたため目を開けてみると、そこには美しい女性が立っていた。
「私は秩序の女神エウノミアー。あなたをこの世界に招いた女神です」
「あ……えっと女神様?? あれ……!? 言葉が通じてるの……か?」
「大丈夫ですよ。召喚の際に言語の共通化を授けましたから」
さらりとそんなことを言う自称女神? の女性に虎士郎はとりあえず疑問をぶつけてみた。
「それで異世界に召喚……ですか? どうして俺が選ばれたんですか?」
「この領域の入口は資格のある人しか見えない仕組みになっています。
そして、見えた人はこの場所を訪れるよう強制力が働くのです」
コジローの疑問に女神の女性はそう答えを返した。更にコジローは質問する。
「資格ですか? 今回の女神様が召喚した理由と関係あるってことですよね?」
「そのとおりです。あなたにはこの世界のボーダーになってもらいます」
「ボーダー……?? それはどんな役割なんですか?」
女神の説明で分からない単語が出たため直ぐ質問するも、女神はコジローの質問を手で制止して話を続ける。
「その前にこの世界の仕組みについて説明させてください。虎士郎さんに頼む役割にも絡んできますから」
「分かりました。お願いします。」
虎士郎が前向きに考えていると判断したエウノミアーは優しい口調で話を続ける。
「この世界は良い魂と悪い魂と大きく分けて2種類の魂を上手く循環させることで世界の均衡を保つシステムを採っています。しかし、これは裏を返すと良い魂と悪い魂の数がほぼ同じでなければいけないとも言えるのです」
「……世界のシステムについては分かりました。その均衡が崩れる何かがあったと?」
コジローの指摘に女神の表情が引き締まる。
「そうです。魔術の進歩によってここ50年ほどでこちらの世界にそちらの世界から召喚される人が多くなり、その一部がこの世界に悪い影響を与え始めているのです」
「悪い影響?」
「召喚された後に奴隷のような扱いを受けたり、呪術・魔法で強制的に奴隷にされている者は魂の大半を深い怒りや憎しみといった暗い感情に支配されてしまいます」
「そうですね。そうなる可能性は高いと思います」
会社の上司に仕事を押し付けられネガティブな感情を持ったコジローはそうなることは当然だと受け止めてしまう。女神の説明は尚も続く。
「生物は基本的に亡くなると生前の行動に応じて魂の浄化が行われて無色や無色に近い色になれます。ですが、悪行を重ねすぎたりして魂が穢れすぎると浄化しきれず結果として魔物や魔族として転生する確率が高くなってしまうのです」
「……なるほど。その魂の穢れた人を助けることがボーダーの役割なんですね?」
その説明でコジローはボーダーという仕事がクリーンな仕事であると判断していた。しかし、話を続ける女神の言葉でその考えが甘い期待であることを思い知らされることになる。
「そうです。可能な限り救い、それが無理なら倒せる範囲で倒してください。」
「……えっ!! 殺すんですか?」
「ええ。復讐に巻き込まれて殺される人が出た場合、その人やその家族の魂も恨みの感情で穢れてしまいます。敵討ちを考える人も出るかもしれません。そうならないための措置です」
そう言われてしまえば殺しも必要なことだと頭では理解できてしまうので、反論できない。
だが理解が出来ても行動できるかは別の話だとも思ってしまう。
「でも俺に殺しが出来るでしょうか? ただのサラリーマンでしたよ?」
不安を隠さずに口に出す虎士郎にエウノミアーは諭すように優しく語り掛ける。
「この世界にはモンスターや魔族が多く存在しており、何より多くの悪人もいます。それらから身を守るために命を奪う行為も必要となるでしょう」
状況に追い込まれれば、生物として命を奪うことに考えが及ばなくなると諭す女神の言葉に
「そういうものでしょうか?」
「そのあたりは戦いを重ねるうちに慣れていくんだと思いますよ」
あっけらかんとそう告げるエウノミアーの言葉を聞きながらその感覚に慣れたくはないなと思う虎士郎だった。
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