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冒険者編 ⅲ

「それじゃパーティー成立記念に乾杯!!」

「乾杯!」


 木で作られた樽のようなカップを豪快にぶつけ合い乾杯をする。並々入っていた酒が少し溢れるが、まだまだ沢山入っているので気にしない。普段なら溢れたら、店員さんにおしぼりを貰うところだが、この世界ではそんなの御構い無しだ。

 酒の種類は、シュワシュワを強くしたビールでこの国では麦酒と表記されていた。苦味が少ないないので、作り方も違ってるのかも。


「美味しそうに飲むねコジロウ」

「実際に美味いからな。てか、アリーサも飲めたのか」

「失礼だね。ボクはこれでも17歳だよ。成人してから2年近く経ってるってのに」


 こっちの世界では成人が15歳なのか。異世界の常識も少しづつ覚えていかないと、変なところでぼろが出そうだ。馬鹿みたいな扱いされるのも嫌だし、それが子供なら心が折れる。

 俺たちが今酒を飲んでいる此処は、今日泊まることにした宿屋『スイレン』で比較的値段が安い宿屋。一階は食堂となっていて、宿屋を利用する人は少し安い値段で酒や料理を食べることができる。そのため、食堂は少し混雑していた。今日泊まる人たちがここに食べにきているからだろう。


「はい、お待たせしました! チーズの盛り合わせとハンバーグでーす! ごゆっくりどうぞ!」


 宿屋の看板娘の少女が料理を運んできてくれた。フォークとナイフも一緒に運ばれる。箸は色々なテーブルを見てみたけど見当たらなかった。

 4種類のチーズが乗せられた木の皿。少しオシャレな飲み屋で出てくるような盛り付けに拘ったようなものではなく、とりあえず量は合わせたし食えればいいだろと言った感じ。

 ハンバーグは巨大なハンバーグの横に、自己主張の激しいマッシュポテトが山のようになっている。確かにこれだけでお腹いっぱいになるな。

 とりあえず、食べてみるか。


「いただきます」

「ん? コジロウは食事の前にそういう動作をするの?」

「えっ? あー俺のいた土地ではこれが普通だったからな」


 すでにハンバーグを切り分けて頬張っているアリーサ。口に物を入れているときは喋らないっていうのは、この世界ではマナーとしてないんだろうな。特に気にすることもないか。

 ハンバーグを食べる。何とも肉肉しい。普通に食べれる美味しさだ、デミグラスソースも普通に美味しい。異世界でも味覚が一緒なら、他のも大丈夫そうだな。

 青色の斑点が入ったチーズを口の中へと放り込む。


「うん、美味しーーうぉぇ!! くっさぁ!? 何だこれ!」

「ブルーチーズだよ」


 これがあのブルーチーズか。洗ってない靴下の臭いみたいな臭いがしてとても臭い。口の中に臭いが残ってるな。

 俺は酒を口の中に流し込む。塩っぽい味もしたな。俺の味覚には合わないチーズだ。


「あはは、ブルーチーズは苦手なのか。確かにクセがあるからね」

「クセどころの話じゃないだろ」

「今度赤い葡萄酒と一緒に食べるといいよ。臭みが薄れるからさ」


 ワインと一緒ね。正直二度と食べないと誓うまであるぞ。

 チーズが若干トラウマになった。少し手を震わせながら、ほかのチーズを口へと運ぶ。

 これは普通にカマンベールチーズだ。安心した。全部が全部不味いわけではないか。


 気がつけば、あれだけあった料理が全て無くなっていた。全部、俺とアリーサが残すことなく食べただけだけど。結局ブルーチーズは全て、アリーサに食べて貰った。本当に申し訳ない。

 心の中で謝っていると、アリーサはポケットから手の平サイズのケースを取り出して開く。中に入っていたのは、小さな白色の粒状の物。あれってミンティアじゃないか。

 粒を見ていると、その視線に気がついたのかアリーサが答えてくれた。


「これは昔言った土地で買った薬でね。これを舐めると、食べ物の匂いが消えるし、息がミントの匂いに変わるんだ。便利だろ?」

「俺も一個貰っていいか?」

「いいよ」


 口の中に入れて舐める。うん、ミンティア。間違うはずがないぐらいミンティアの味だ。あれ? この世界って本当に俺以外の異世界人きてないの? 文明発達しすぎじゃないか。ミンティアにしても、先ほどアリーサが持っていた拳銃も含めて中世とは思えないほど発達している。


「そういえば、腰のそれって拳銃だよな」

「そうだね。でも、この話は部屋でしようか」

「分かった」


 話を聞くために俺たちはお金を支払ってから、借りた部屋へと向かった。

 ドアの鍵を閉め、アリーサは盗聴防止の防音魔法のスクロールを読み上げる。ここまで警戒している内容を聞いてもいいのだろうか。今更ながら少し後悔していると、準備が出来たのか腰から先ほどの拳銃を取り出しテーブルに置く。


「これはボクの一族の秘宝。拳銃? っていうのは、分からないけどコレの名前は『ラヴェジャー』だよ」

「えーっと……確か……いや、何でもない」


 意味は破壊だった。破壊するって意味を込められた拳銃ってことか。

 でも、一族の秘宝って家宝ってことだよな。普通は家の中で金庫の中に入れて厳重に保存するか、大黒柱の人の部屋に飾られているイメージだ。


「これを持ち歩いている理由かい? 簡単さ、ボクの一族はボクを除いて全員死んだからだよ」

「し、死んだ?」

「ボク達一族の特殊魔法を狙ったゴミクズどもによって、家族は全員死んだ。記載状はボクも死んだことになってる」

「そうなのか。悪い聞くべきじゃなかった」

「気にしないでほしい。君の人となりは少し理解している。ボクの過去のことは置いておくけど、特殊魔法については説明するよ。これからあるであろう戦闘のために、お互いを理解する必要がある」

「確かにそうだけど、話してもいいのか?」

「大丈夫さ。ボクの魔法は『武装作成(クリエイトウェイポン)』、魔力があれば武器を創り出せる魔法さ。素材があれば時間が経っても消えない武器も作り出せる」

「へ?」

「あはは! そりゃ驚くよね」


 俺の授かった力よりも相当に強くて、便利な魔法じゃないか。この異世界って結構化物達がゴロゴロいるような世界なのか。俺普通に死んじゃうような気がしてきたんだけど。

 一度冷静になろう。武装魔法。魔力で武器を作り出せて、素材があれば永遠に武器を保存しておける魔法。思い当たるのは、あの時に放った唐辛子弾丸。魔法というものを見たことが無いけど、魔法陣が目で見えるなら魔法が発動したのは確認できなかった。


「唐辛子弾丸は?」

「ボクが作ったものさ。鉄、魔力、唐辛子この三つさえあれば、あとは魔法が勝手に作ってくれる」

「便利だな」

「便利さ……あと、ボクが扱える魔法だけど防御魔法のみ。怪我したら、ポーションでもぶっかけて治るのを待ってくれ」

「ワイルドなことになりそうだ……」


 次は俺の番か。何って説明しようかな。記憶喪失とかだと後々に齟齬が発生するから、あまりいいやり方とは言えない。


「俺は剣術だけだ。魔法は何も使えない」

「だろうね。最初に返答するのを見たとき、もし捨てられた『冒険者』ならば防御魔法を最初に使っていた。自分で使えないのなら、ボクに聞いてくるはずだ。でも、君は防御魔法も無しで戦闘に入った」

「……」

「君はここの地域どころか、どれだけ田舎から来たんだい? 」


 素直に異世界から来ましたと答えたら。ただでさえ、頭がおかしいと思われているのに更に頭がおかしい奴だと思われかねない。


「に、日本です」

「聞いたことがないや。名前からさっき思い出したんだけど、東洋のヤマトって国に君みたいな家名と名前が逆の人がいるって」

「大和……文明レベルは?」

「文明? うーん、お爺ちゃんの話だけからだけど、ここよりも低いと思う」


 大和。日本の昔の言い方だっけ。ここよりも低いけど、技術として刀が存在する。正直行ってみないと判断できないよな。


「まぁ、ゆっくり冒険者やりながら旅をするんだからいいか」

「ヤマトか。ボクも一度は行ってみたい」

「アリーサはどんな所に行ったことがあるんだろう?」

「そうだね。話として面白いのは、港町イプラスかな。海産物がとても安いし、美味しいことで有名なんだ。船乗りも多くいるから、酒場も年中人で溢れているよ」

「面白うだな」

「面白いよ。今度行くときは行きつけののお店を紹介するね。きっと気にいるはずだ。バーのマスターが少し変わり者だけど」


 その変わり者具合がとても気になる。

 少し眠くなって来たのか、俺はおもわず欠伸をしてしまった。話を聞いているときに失礼だったかな。


「悪い」

「いや、よく見たら結構いい時間だ。寝るとしようか」

「おう。それで俺の部屋はどこだ?」

「君もここだけど? ベッドはジャンケンね、水浴びは明日でいいよね」

「お、おう」


 何か眠すぎて頭が上手く回らないけど、とりあえず寝られれば何処でもいい。俺は基本的にどんな場所でも寝られるのび太くんタイプの人間だ。枕がなければ腕を枕にして寝ればいい。

 そんなことを考えていたが、戸棚の中に布団のようなものがギュウギュウ詰めで入れられていた。布団というには中には綿が入っていないお粗末なものだったけど。

 気がついたと思うが、案の定俺はジャンケンで負けた。アリーサは生まれてこの方ジャンケンでは負けたことがないらしい。二度とコイツとはジャンケンはしない。

 そう誓い俺は異世界転移初日を終えた。

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