第48話 決死の攻防
クジョウとの接近に伴って電流の嵐が吹き荒れる。
生身なら感電して黒焦げになりそうだ。
今は身に纏う外骨格のおかげで何ら影響もない。
強いて言うなら、ちょっと視界が悪いくらいだろうか。
「グズ野郎があああぁぁッ！」
「言ってろよ」
言葉の応酬もそこそこに、俺の爪とクジョウの拳が衝突する。
甲高い金属音。
クジョウの拳が浅く裂けて血が噴き出す。
彼は小さく顔を歪めた。
裂けた皮膚の隙間から、筋線維と骨が見え隠れしている。
俺の爪も亀裂が走って割れた。
ちょうどクジョウの拳が当たった部分だ。
そのことに少なからず驚く。
（なぜだ？ こっちはドラゴンの爪だぞ？）
衝突でクジョウの拳が潰れなかったのが不思議なほどだ。
それほどまでにドラゴンの爪は強力である。
可能性として考えられるのは、クジョウの勇者スキルの補正だろう。
クジョウのそれは他のクラスメートと比べても別格である。
ここぞというタイミングで何かしらの効果が発揮されたのかもしれない。
実に厄介なことだ。
「オラァッ！」
負傷した手の確認もそこそこに、クジョウが豪快に回し蹴りを打ち込んできた。
脳天を狙ったそれを俺は前腕でガードする。
一点から食い破られるような強い衝撃。
あまりの威力に鱗が弾け飛ぶ。
踏ん張っていないとよろけそうだった。
（これが火事場の馬鹿力ってやつか……）
明らかに限界を無視して戦うクジョウ。
俺を凌駕するという一心でこれをやっているのならば、それはもう見上げた根性である。
決して尊敬はできないものの、意志の固さは認めたい。
クジョウの執念に呆れつつ、俺は破損した腕部を見る。
鱗のなくなった箇所は既に再生を始めていた。
この外骨格は肉体とリンクしているため、俺のスキルの恩恵を受けられるのだ。
あまりに破損すれば異能力が解けるだろうが、部分的な破壊ならば問題ない。
俺は復活した腕でそのまま殴り返す。
クジョウはバックステップで躱してみせた。
さらに離れざまに稲妻を飛ばしてくる。
俺は回避もせずに受け止めた。
一瞬、青白く染まる視界。
それ以外には痛みも感じなかった。
外骨格の防御力のおかげである。
距離を取ったクジョウに対し、俺は腕に搭載された発射機構から弾丸を飛ばす。
ドラゴンの牙を主原料としたものだ。
物理無効の靄魔族さえも穿った破壊力は健在である。
【外甲装着】の発動時、可能な範囲のギミックを設定できたんだよね。
その機能を使ってこしらえたものだ。
「クソッタレがぁ！」
叫ぶクジョウは飛来する弾丸に手をかざした。
彼の手のひらを中心に爆発が起きる。
爆発を受けた弾丸の軌道が逸れて、クジョウの脇腹を掠めていく。
（なるほど。【爆発魔法】で凌いだか……しぶとい奴だ）
本来ならクジョウの胴体に大穴を開ける予定だったのだが失敗してしまった。
今の不意打ちで仕留められれば万々歳だったんだけどね。
上手く行かないものである。
牙の弾丸をやり過ごしたクジョウは、左右の手に竜巻上の爆風を起こす。
それを推進力にさらなるスピードを得るつもりか。
彼は充血した目で俺を見やる。
「落ちこぼれが、つまらねぇ真似しやがっ、て……！？」
その機動力で俺に迫るかと思いきや、クジョウの脚が床を踏み抜いて膝下まで埋まってしまった。
老朽化にしては不自然だった。
戦闘の余波で壊れたというわけでもなさそうだ。
となると、何者かの介入となるが……。
「……私だって、まだ戦えます！」
聞き慣れた仲間の声。
離れた場所にいるシルエが、杖をクジョウに向けていた。
どうやら彼女が床を脆く仕向けたらしい。
続けてシルエは杖を振り、破損した床の破片やカーテンを操ると、それらを次々とクジョウへと殺到させる。
魔法攻撃が効かないと判断して、間接的な攻撃方法へと切り替えたのか。
よく考えている。
シルエの飛ばした物体のうちほとんどが電流に弾かれたが、一部はクジョウに命中していた。
致命傷には至らないまでも、着実に彼の集中力を削いでいる。
「畜生、どこまでも卑怯な奴らだッ」
クジョウは鬱陶しそうに叫ぶと、シルエに向けて手をかざす。
指先に青白い光が集束する。
稲妻を飛ばすつもりだ。
（さすがにあれをシルエが受けるとヤバいな……）
稲妻の攻撃範囲では、幻影魔法による回避も意味を為さない恐れがある。
彼女なら何かしらの防御策を用意しているかもしれないが、リスクは未然に排除出来た方がいいだろう。
瞬時にそう判断した俺は、再び牙の弾丸を発射する。
狙い澄まして撃ち出した弾丸は、クジョウの右手首から先を吹き飛ばした。
