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第43話 陰の支配者

 光弾はタウラに命中する直前で破裂した。

 甲高い音を立てて結晶製の弾丸が砕け散る。

 突如、軌道上に発生した紫電に掻き消されたのだ。


(何が起こった?)


 予想だにしない光景に俺は訝しむ。


 タウラが何かした様子はない。

 彼女は優雅にティーカップを傾けているだけだった。

 ステータスにもこれといった変化は見られない。

 ただこの結果を当たり前のように受け入れている。


 俺は視線をずらして、広間の窓際を注視する。

 そこには先ほどまでいなかったはずの人間がいた。


「勇者未満のお前がノコノコとやって来るとは、生意気だなぁ?」


 立ち上がるなり罵倒を口にしたのは金髪の少年。

 悪意に満ちた不敵な笑みを湛えている。


 この世界に召喚されたあの日、俺に足を引っかけてきて転ばせようとしてきたやつだ。

 名前は確か、クジョウ・ハヤテだったか。

 Aランクの異能力者だ。


 異能力は【電撃野郎エレキマン】といい、体内で電気を発生させてそれを自由に操ることができるというものだ。

 主な使い方としては、雷撃を飛ばす遠距離攻撃や電気エネルギーによる肉体活性である。

 外部から電気エネルギーを吸収することも可能だったはずだ。


 学園では電気系統の異能力者のトップに君臨し、戦闘能力は非常に高い。

 さすがにSランクには及ばないまでも、凶暴な本人の性格と相まって一級の強さを誇る。

 所謂不良に分類される人間だが、将来を有望視されるほどの才能を開花させていた。


 ちっとも嬉しくない再会を実感していると、シルエが俺に囁いてくる。


「凄まじい魔力量です。それに、何らかの術式を身体に刻み込んでいるようですね……かなり強力な代物です」


 シルエの指摘を聞いて、俺はクジョウを改めて観察する。


 よく見ると、彼の手や顔や首元に複雑な紋様があった。

 肌に紛れるほど自然な色合いなので気付くのに遅れてしまった。

 ちょっとした日焼けと言われれば納得してしまうほどだ。


 形状からして、衣服で隠れている部分にもありそうである。

 しかし、それがただの日焼けでないのは、魔眼の力ですぐに分かった。


 俺は可視化された情報に目を通す。


(なるほど、想像以上に厄介だな……)


 あの紋様は禁術らしく、接触した魔法を魔力に分解して吸収する効果があるらしい。

 それも常時発動型だ。

 外部からの魔法は効かないどころか、自分のエネルギーにしてしまえるということか。

 おそらくは支配した城内の設備や魔法使いを使って施したのだろう。


 魔法を主体として戦うシルエにとっては天敵のような存在だな。

 丸っきり無力になるわけでもないだろうが、彼女の優位性は大きく削がれてしまう。

 俺の魔法銃だって同様である。

 立ち向かうには魔力を使わない肉弾戦を考えなくてはいけないな。


 さらに俺は、クジョウ自身のステータスも閲覧する。

 勇者スキルとして【万夫不当】【絶対王者】【傍若無人】【爆発魔法】【雷魔法】が並ぶ。

 五つは過去最多だ。

 性格は最低だが、勇者としての適性は非常に高いようである。


 素の能力値はさすがに俺の方が高いものの、その差もどこまで信用できるか怪しい。

 諸々の補正を加味すると負けている気がした。


 タウラはティーポットから紅茶のお代わりを注ぎつつ告白する。


「私がクーデターの首謀者と思われてるみたいだけれど違うの。彼が本当の主犯。お互いの利害関係が一致したから協力してるって感じかしら」


 クジョウはこれみよがしに鼻を鳴らした。


「せっかく好き勝手にできる世界で王になれるなんて最高だろ? ただ、面倒くせぇ部分はタウラに任せているがな」


「洗脳できれば話が早かったのだけれど、彼の持つスキルの効果で無効化されるのよ。理想の国を造るのって大変ね」


 二人は世間話のようにやり取りしている。

 こんな軽いノリで王を洗脳して国を乗っ取ったのか。

 なかなか狂気じみている。

 説得が無理だと判断したのは正解だったらしい。


 発言が途切れたタイミングで俺は二人に告げる。


「無駄な話に時間を割いていいのか? そのうちゴウダたちのグループもここまで来るぞ」


 あちらのグループは武闘派が集中していた。

 俺たちが先に到着したのは意外だったが、いずれ追いついてくるはずだ。

 彼らが道中にて城の兵士や他の異能力者に負けて全滅するとは考えにくい。

 四人のSランク異能力者のうち、唯一の敵対者だったクロシキも俺たちが倒したのだから、あちらにはAランクかBランクの敵しかない。

 どう考えても楽勝だろう。


「…………」


「…………」


 俺に主張に対して、タウラとクジョウは顔を見合わせる。

 クジョウに至っては少しニヤついていた。

 こちらの神経を逆撫でするような嫌らしいものだ。


 彼は勿体ぶった口調で言う。


「ははぁ、あいつらかー。たぶん来ないと思うぜ? ――だって俺がぶっ倒してやったんだからな!」

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