第41話 決戦への備え
清々しい気分だ。
全身に充足感がみなぎっている。
驚くほど急激なパワーアップを遂げたからね。
外見はこれっぽっちも変わっていないが、はっきりと自覚できるほどに肉体性能が上がっている。
腐り切った劣化版とは言え、ドラゴンの能力値を丸ごと手に入れたのだ。
総合的なスペックは直前までとは比べ物にならない。
もはや人外の領域だろう。
素の身体能力だけで、強化系の異能力を凌駕しているんじゃないだろうか。
さらに称号欄には【腐竜殺し】【臨界超越】【力の強奪者】が追加されていた。
【臨界超越】は小難しい説明文を読むに、すべての能力値が四桁を突破したことで得られたものである。
効果は単純で身体能力の向上及び各種耐性の獲得だった。
尖った性能はないが、ここに来てオールマイティーな強化は非常にありがたい。
【力の強奪者】はドラゴンゾンビにしがみ付いて能力値を総取りしたことで得た称号みたいだ。
その効果は、他者から奪ったステータスに強化補正が入るというものであった。
つまり俺の場合はすべての能力値に影響を与えてくれる。
最終決戦を前に強力な称号を二つも取得できたのは僥倖だ。
切り札はいくつあっても足りないくらいだからね。
俺とシルエしかいない以上、少しでも力を付けておきたい。
「スドウさん、この方はどうしましょう」
変化したステータスのチェックを行っていると、横合いからシルエに話しかけられた。
彼女の足元には気を失ったシマザキがいる。
魔法の蔦で厳重に拘束されていた。
いつの間にか無力化してくれたらしい。
さすがシルエだ。
安定の有能ぶりである。
殺さなかったのは彼女なりの温情だろうか。
シマザキに関してはこのままクロシキと並べて放置しようと思ったが、彼女のMPと魔法攻撃力が意外と高いことが判明した。
せっかくなので高い能力値を拝借してシルエに移す。
俺が使っていた分も彼女に渡しておいた。
俺にはドラゴンゾンビの能力値があるからね。
余った数値は有効活用していかなければ。
これによってシルエの戦闘能力も大幅にアップした。
元より魔法使い系のスキルに恵まれている彼女は、まさに一騎当千の存在へと昇華している。
相性にもよるだろうけど、高ランク異能力者さえ歯が立たないだろう。
努力に見合った力を得たことで、眠れる才能が完全に開花した形となる。
非常に頼りになる仲間だね。
能力値の調整が出来たところで、俺は装備類の不備がないかを確認していった。
おそらくこれが最後の機会だ。
念入りに確かめておいて損はあるまい。
ここまでの道中で様々な激闘を繰り広げてきた。
どこかのタイミングで装備が破損していても不思議ではない。
タウラのもとへはなるべく万全な状態で挑みたかった。
まずは魔法銃である。
俺の大切なメイン武器だが、幸いにも特に故障はなさそうだった。
きちんと動作してくれる。
ステータス越しに確かめても問題は見つからなかった。
次は身に纏うコートだ。
ドラゴンゾンビの体液で汚れているものの、こちらも目立った破損はない。
各所が切り裂かれていたり穴が空いていたりするものの、まだ防具としての体裁は保たれている。
常に前衛として戦っていたからな。
そして何度も痛打を受けてきた。
俺と違ってコートは再生したりしないからね。
これも当然の結果だろう。
もっとも、今となっては防具の性能なんて誤差の範囲なのであまり気にしていなかった。
大抵の防具では、異能力者の放つ攻撃を防げないからだ。
剥き出しの頭部を狙われれば、それこそ意味がないし。
結局、再生能力頼りなので軽量の防具を選んでいるのであった。
それでもさすがに何もしないのは心配なので、適当な数値と入れ換えて耐久値を回復させる。
一方、シルエは杖を床に突いて虚空を見つめていた。
集中している様子である。
これまで何度も見た顔付きで、魔力による感知を行っている時のものだった。
数秒後、顔を上げたシルエは述べる。
「このすぐ上に魔力反応が二つあります。一つは微弱で当初から動いていません。まず間違いなく勇者タウラでしょう。その近くに強大な魔力の持ち主がいますね。先ほどまではいなかったはずなのですが……」
「見知らぬ魔力反応、か……」
俺は彼女の報告を反芻しながら考え込む。
カネザワがいれば一発で正体が分かるのだが。
タウラの近くにいるということは、護衛的な存在だろうか。
彼女がそばに控えさせるほどだし、さぞ強いに違いない。
何者にしろ、気を付けた方がよさそうだ。
諸々の備えを済ませた俺とシルエは、上り階段を並んで進んだ。
視線の先には重厚な造りの大扉がある。
(いよいよだな……救世主になってみるか)
覚悟を決めた俺は眼前の大扉を押し開いた。




