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Fランク異能力者だった俺が異世界でSSSランク認定された  作者: 結城 からく


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第39話 隠れた脅威

 頬に触れる堅い床の感触。

 意識が戻った俺は、むくりと起き上がる。


(頭部を吹っ飛ばされたな、畜生……)


 俺は悪態を吐きそうになる。

 直前の記憶は残っていた。

 クロシキのパンチを顔面に食らい、脳を潰されて意識が途切れたようだ。


 とんでもないスピードと破壊力だった。

 能力値は俺より低かったのに。

 こいつも異能力による補正で数値以上のパワーアップを遂げているらしい。


 立ち上がった俺は魔法銃を構えながら状況を確かめる。


 俺を殴ったクロシキは、十メートルほど前方にいた。

 右肩から先が消失して、腹はざっくりと横一文字に裂けている。

 よく見ると左脚が捩れすぎて千切れる寸前だった。


 既に再生が始まっているが、明らかに満身創痍である。

 俺が戦闘不能になっている間に何が起こったのか。


 困り顔のクロシキは、俺の復活に気付いて淡い笑みを浮かべた。


「おぉ、びっくりした。スドウも不死身体質なのか。君の【数理改竄ナンバーハック】にそんな機能はないはずだから、この世界で得たスキルかな?」


「……吸血鬼の能力に比べれば微々たるものだ」


「ははっ、謙遜しなくていい。普通なら即死なんだから。それにしても、いい相棒に恵まれたね。いきなり魔法をぶち込まれたよ。躱す暇もなかった」


 クロサキは顎をしゃくり、俺の隣を指し示す。


 そこには臨戦態勢のシルエがいた。

 彼女はいつでも魔法が放てる状態で身構えている。


 俺が頭を吹っ飛ばされた際、シルエがフォローしてくれたようだ。

 クロシキのダメージを見るに、連続で魔法を叩き込んだらしい。

 とんでもない威力だ。

 それだけ必死に攻撃してくれたのか。


 視線をクロシキに固定したまま、シルエは俺に問う。


「スドウさん、大丈夫ですか」


「……あぁ、助かったよ」


 クロシキは羨ましそうに俺たちのやり取りを眺めていた。

 彼は寂しげにため息を吐く。


「お似合いのコンビじゃないか。こっちの相方なんて、俺が死にそうなのに眉一つ動かさないんだぜ。共闘しようとは言っているんだけどね。ずっとこの調子なんだ。どうもこの世界に来た時点から精神的に不安定らしくてさ」


 クロシキは隣のシマザキを見やった。


 話題の当人であるシマザキは無表情だ。

 ぶつぶつとよく分からない言葉をずっと呟き続けている。

 昏い瞳は、ここではないどこかを凝視しているかのようだった。


 俺は割と平気だったが、いきなり異世界に飛ばされた挙句に勇者稼業を押し付けられたのだ。

 メンタルがやられてもしょうがない状況かもしれない。

 肝心の勇者の役割だって、ようするに戦争の道具だしね。


 シマザキの【屍起覚醒ネクロマンシー】なんて、戦場では大活躍すること間違いなしだろう。

 死体を操る異能力は、大規模な殺し合いにおいてあまりにも適している。

 そういった諸々の重圧やストレスによって、彼女は心に不調を負ってしまったらしい。


(シマザキが加勢する気配は……なさそうだな)


 俺が観察の末に判断する。

 ヒガタも動く気配がなかった。

 シマザキを守る行動は取ったので、下手に刺激さえしなければ向こうから仕掛けてこないようだ。

 希望的観測なのである程度は気を付けるべきだが、少なくとも今のところは大丈夫そうだった。


(さて、そうなると問題は一つだな)


 俺は全快したクロシキを一瞥する。


 彼は強敵だ。

 正攻法で勝てる相手ではない。

 でなければSランク異能力者に指定されないだろう。


 故にタウラが目前であるここにいる。

 並の人間ではまず突破できない守りだ。


 だけど、俺なら何とかできる。

 やらねばならないのだ。

 ここであっけなく負けたりしたら、カネザワたちに顔向けができない。


(チャンスはたぶん一度だけ……短期決戦だ)


 俺は魔法銃を乱射しながらクロシキに接近していく。

 対するクロシキは、闇に同化して光弾を凌いでみせた。

 銃撃は一切のダメージを与えられない。

 闇に溶けたままクロシキは笑った。


「何度やったって無駄だよ。あらゆる攻撃が無効化されるんだ」


「知るか」


 俺は構わず光弾を放つ。

 これでいい。

 精神を研ぎ澄ませてさらに加速する。

 能力値を最大限に活かした走りで、一気にクロシキへと駆け寄った。


 その間もひたすら光弾を撃ち続ける。

 とにかく同化を解かせないことが重要だった。

 実体化しなければ、彼は攻撃することができない。


 俺の意図を知ってか知らずか、シルエも後方から魔法で援護してくれる。

 氷や風の魔法がクロシキの身体を連続で通り抜けて行った。

 素晴らしい攻撃密度だ。


 俺はそのままクロシキの脇を走り抜ける。


 向かう先は壁際。

 打ち付けられた木材の奥に、ほんの僅かながらもガラス窓が確認できた。

 ここを破れば外に繋がる。

 さぞ日光が差し込むことだろう。

 厳重に封鎖されたそこに手を置いて、俺は振り返る。


 静観するクロシキは余裕の表情だった。


「言わなかったかい? そこを破壊することはできないよ。どんな魔法使いでも解除に一時間はかかるそうだ。」


 封鎖された窓を注視すると、ステータスが展開された。

 自動修復や耐久値上昇、物理・魔法ダメージ半減等の効果が付与されている。

 すべて魔法によるものだ。

 そこに表示された情報を鑑みて、俺は確信する。


「――いけるぞ」


 俺はポケットに手を入れる。

 指先が小石に触れた。

 ごくごく低い耐久値を持つ小石だ。

 外を歩けばいくらでも転がっているようなものである。

 しかし、俺にとっては必殺の一撃を秘める万能のアイテムだった。


 俺は取り出した小石のステータスも表示して【数理改竄ナンバーハック】を発動する。

 対象は封鎖された窓の一角と小石。

 それぞれの耐久値を入れ替える。


 すぐさま俺は脆くなった窓へ魔法銃を撃ち込んだ。

 光弾の雨を弾いていた窓があっけなく粉砕する。


 いくら魔法で補強されていようが、大元を限界まで弱くすれば意味がないのだ。

 一桁の耐久値なんて連続攻撃で簡単に消し飛ぶ。

 どれだけ厳重でもカバーできない領域である。


 今まで遮られていた日光が、室内へと容赦なく侵入してきた。

 充満していた暗闇が切り裂かれていく。


「なっ!?」


 あれだけ余裕綽々だったクロシキは驚愕していた。

 彼は慌てて逃げようとするも既に遅く、背中から日光を浴びてしまう。

 その途端、クロシキは白煙を上げてうずくまる。

 日陰に這い進もうとするも、ぷるぷると震えるばかりだった。


 これが【夜闇ノ使徒ナイトウォーカー】の唯一の弱点である。

 日光下だと特殊能力を失い、それどころか大幅に弱体化する性質なのだ。

 さらに常時発動型の異能力なので、任意での解除もできない。

 絶大な強化の代償というべきか。


 やがてクロシキは力尽きて動かなくなる。

 死んではいない。

 様々な状態異常や能力値の低下が見られるが、命に別状はなかった。

 それでもこれ以上の戦闘はできまい。


「なんとか、勝てたな……」


 【夜闇ノ使徒ナイトウォーカー】は、ちょっとした遮光程度で安心できる代物ではない。

 本来は夜間にのみ使う異能力だ。

 室内だからといって、昼間に使うのは非常に高いリスクを伴う。


 故に俺たちは日中の襲撃を選んだわけだが。

 襲撃に適した深夜を狙わなかったのは、クロシキを警戒してのことであった。

 日光の存在しない時間帯に戦えば、まず勝てないからね。

 結果として正解だったわけだ。


 素早く動いたシルエは、手慣れた様子でクロシキを魔法で拘束した。

 さらに窓際に寄せて日光が当たるようにしておく。

 日陰に動かして復活されたら敵わない。

 彼は苦痛だろうけど、このまま放置させてもらおう。


 俺はシマザキの様子をチェックする。


 彼女は未だに何もせず佇んでいた。

 いや、目が限界まで見開かれている。

 瞳が針のように収縮していた。

 尋常でない雰囲気だ。


 直後、天を仰いだシマザキは絶叫する


「ああああぁ……ああぁっ……ああああああああああっ!」


 同時にヒガタがこちらへ突進してきた。

 シマザキの生存本能が、死体に攻撃を命じたのだろうか。


 迫るアンデッドに対して、俺は魔法銃の集中射撃をお見舞いしてやった。


 穴だらけになったヒガタは床を滑りながら倒れる。

 HPは尽きていた。

 彼は足元から灰になって形を失っていく。


(……随分とあっけないな)


 拍子抜けするも、事情は分かっていた。

 彼の【炎塵界バーニング】は火を増幅して操る異能力。

 すなわち、周りに火がなければ意味がない。


 どうやらシマザキは火を用意していなかったらしい。

 異能力者の死体を使役することまでは思い付いたのに、その先は考慮していなかったのか。

 初歩的すぎるミスだ。

 まあ、俺たちにとってはありがたい話である。


 ただ突進してくるヒガタの対処なんて簡単だ。

 肉体性能もそれほど高いわけでもない。


 馬鹿正直に戦うとなると面倒なことになっていた。

 火だるまでは済まされなかったろう。


「あとはシマザキを無力化するだけ、か」


 棒立ちの彼女に近寄ろうとした時、シルエが血相を変えて叫んだ。


「隣室から巨大な魔力反応があります……これはッ!?」


 突如、左方の壁が軋むと同時に爆散した。

 大量の瓦礫が床に転がる。

 崩れた壁の向こうには、広々とした部屋が見えた。

 そこから黒い巨大な影が現れる。


 鼻の曲がるような悪臭。

 半ば融解した肉が、べちゃべちゃと水音を立てて床に垂れ落ちる。

 表面に張り付いた鱗は疎らだった。

 露出した骨格は黄ばんだ上に欠けている。

 眼球はなく、代わりに二つの紫炎が揺らいでいた。


 ――天井を擦りながら顔を出したのは、腐乱状態のドラゴンだった。

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