⑦鍋
「あああ、しみるううう…………」
麻理恵は鬼たちの振舞ってくれた鍋のうまさに、思わず声をあげた。
その海鮮鍋が最高に美味だったのは、もちろんのことだが、何より生まれてきてから今までで、こんなに空腹になったこともなかった。
鬼たちは親切だった。村人たちよりはるかに。特に、あとから走ってきた青鬼は、気を失った祐奈を介抱してくれて、自分たちの家のベッドらしきものまで運び、寝かせてくれた。そして今も、ベッドに横になっている祐奈に、鍋の中身を小分けにして持って行ってくれている。
「…………んじゃ、ほんとに、俺たちを懲らしめに来たんじゃないんだな。」赤鬼が確認するように言った。
「ほんなころないれす、らいいち、あらしらち、へふらひゃないれすかあ(そんなことないです、だいいち、あたしたちてぶらじゃないですか)」
麻理恵は鍋の具を口いっぱいにほおばりながら答えた。
男子二人はまだ鬼達に出会った時の恐怖が去っていないようで、もくもくと具材を口に運んでいた。
赤鬼は麻理恵の答えに納得したようで、「ま…………喰え。どんどん、喰え」そう言って立ち上がりながら司の肩を、「悪かったな、乱暴して」と言いながらたたいた。
司は本当に漫画のように飛び上がり、その拍子にむせてしまった。
その様子に、「ちょっと大丈夫? 」「大丈夫か、おい? 」とみんなで声を掛け合いながら笑った。
笑いながら麻理恵は、笑ったことで、ずっと張りつめていた緊張の糸が切れてしまい、どっと疲れを感じ、安心した一方で、不安で、切なく、そして悲しくて、皆に気づかれぬように、そっとため息をついた。