⑥ピンチ
鬼たちは、一人が司を、もう一人が拓斗を、それぞれ片手で、ほとんど宙づりにして、引きずりながらこっちに向かってきていた。
麻理恵は、これは…………コントじゃないのかしら?と思った。鬼は革のパンツは履いていなくて、村人たちと同じような着物姿だったが、肌の色ががそれぞれ赤と黄色だった。頭髪は両方とも茶色がかっていたが、その頭に5センチほどの角が左右一本づつ生えていた。昔のテレビの懐かし映像で見た、鬼のコントにそっくりだった。
「お前ら、何もんだ。あっちの村の人間か! 」
鬼は日本語を話した。
この人たちは芸人ではなく、昔、絵本で読んだ赤鬼と黄鬼だろうか? 本物の?
隣を見ると祐奈はすでに気を失っていた。昨日からの出来事が、おそらく裕奈の精神の限界を超えたのだろう。男子二人も鬼の腕力に震え上がっているように見えた。
仲間たちのその様子を目にすることで、麻理恵の頭は、さっきまでの、途方に暮れた、疲れて、ぼんやりした状態から、一気に覚醒し、立ち向かう気力を取り戻した。言ってみれば、肝がすわったのだ。
「あたしたち、村の人間じゃありません。あそこで捕まって縛られてここに連れてこられたんです。その二人を放してください! 」挑むように鬼に言い放った。
鬼たちは顔を見合わせた。そして司と拓斗を砂浜に放り出した。二人は「ああっ! 」「わあっ! 」と言いながら、砂浜に倒れこんでそのまま起き上がれなかった。おそらく、鬼と出会って、それなりに格闘していたのだろう、あちこちに青あざや傷をこしらえていた。
「じゃあなんで村で捕まったんだ…………。何かやったのか」赤鬼が尋ねた。麻理恵の剣幕に押されたのか、さっきまでの勢いはない。
「なにもやってません…………。私たち…………信じてもらえないかもしれないけど、自分たちでもなぜここにいるのかわからないんです。目が覚めたらあの村にいて」麻理恵は対岸の村を指さした。
「なぜここにいるのかわからない…………」黄鬼がつぶやいた。「俺たちと同じだな」と。
えっ…………どういうこと?麻理恵が聞こうとしたとき、
「兄さんたち、なにやってんだ! 」と声がして、見ると誰かがかけてくる。
もう一人、いたのだ、鬼が。そしてその肌の色は、青かった。