④交流
小屋の外で音がして小窓から小さな男の子がのぞき込んでいた。窓と言っても、網戸がついているわけでも、ガラスがはまっているわけでもない。木で出来た扉のようなものを押し上げ、棒で突っ張って開けている、時代劇などで見るような窓だ。
麻理恵たち高校生のからだの大きさでは無理でも、その子なら通り抜けられそうだった。
男の子は手には古びた毬をもっていた。
「おいでよ。こわくないから」拓斗が優しく声をかけた。けれど男の子はただじっとこちらを見ているだけだった。
拓斗は両手を縛られ、バランスをとれずに、よろよろしながら立ち上がり、
「その玉、こっちに投げて」と男の子に言った。男の子は怪訝な顔をしながらも毬を拓斗の足元に投げた。
「見ててね」男の子にそういうと拓斗は毬をサッカーボールを操るようにリフティングし頭に乗せヘディングで小さな小窓から男の子に返した。男の子は魔法を見たような興奮した顔になった。
「ありがとね」男の子に言うと拓斗はもう一度腰を下ろした。
「うまいもんだねえ」麻理恵が言うと
「ははは、俺、これっきゃできないからね」と拓斗は照れたように答えた。
しばらくするとさっきの、毬を持っていた男の子がもう一度やってきて、窓から何かを投げ込んだ。よく見るとそれは細い縄でつながった干し柿だった。四つあった。男の子は拓斗のことを尊敬のこもった目で見つめ笑顔を見せた。
「もらって、いいの?ありがとう」四人全員が後ろ手にしばられてはいたが、腕を使って、何とか相手の口元に干し柿をもっていき、お互いに食べさせ合う形で、食べることができた。
麻理恵と司は朝食をとっていたが、拓斗と祐奈は朝から何も口にしていなかった。腹にしみるほどおいしかった。
いつの間にか男の子はいなくなっていたが、これがあの子のうちにとってどれほど貴重な食料かは、先ほどの村人の貧しい様子から、四人とも察しがついた。ただただ、感謝するしかなかった。