③囚われて
両手を後ろに縛られたまま、物置小屋のようなところに閉じ込められた後、麻理恵は司に問いかけた。
「さっきのあれ、何」
司は考え込みながら、「なんだか変じゃないか?様子が」と言った。
「俺もそう思った」と拓斗が言い出した。「なんだか、ずいぶん貧しそうな暮らししてるし、からだつきも小柄で、とても筋肉質だ。まるで毎日重労働してるみたいに」
「まるで、戦国時代とか江戸時代とかの農民みたいな…………」祐奈もつぶやくような声で言った。
「おかしなこと言うと思われるかもしれないけれど聞いてほしい。もしかするとここは、違う時代なんじゃないか?つまり、何らかの力で僕らこの時代に飛ばされたんじゃないのか」司が言った。
「ちょっと待ってよ! 」麻理恵は笑い飛ばそうとした。だが、笑おうとして、笑えない。何かカクンと胸に落ちてくるものがあった。もしかして本当に?
「ねえ、ここに来る前、みんな何してた? 」麻理恵はふと思いついて尋ねた。
「あたしは、いつもの通学路を歩いてたの。スマホ落として、ひろおうとして」それから、…………それから。そうだ。
「トラックにひかれた……と思う」麻理恵は空を見ながら言った。ほかの三人は息をのんだ。
「多分、そうだ。だって最後に見たの…………トラックのタイヤだもの」みな黙り込んだ。しばらくして司が口を開いた。
「僕も似たようなもんだ。僕は屋上にいて、フェンスを超えて落ちたんだ」
「俺は試合の遠征先で川に落ちた子供を岸に上げた後、自分は上がれなかったと思う」拓斗が言った。
「わ、私…………」祐奈は口ごもって黙ってしまった。
「言いたくなければいいよ。無理しないで」司が助けるように言った。怖い思いをしたことを、無理に思い出させるのは、女の子には酷なことだろう、と裕奈を思いやったのだった。
「と、いうことは、ここは時代が違うんじゃなくて、あの世だってこと? 俺たち死んだってこと? 」
拓斗が焦り気味に言った。
「もしかしたら、異世界に転生したってこともありえるかな…………」麻理恵は力なくいった。
「なんだよそれ! 」拓斗は大声を出した。しばらくして「ごめん。大きな声出して」と言った。
「いいよ」麻理恵は答えた。そして「でもお腹すいたね。やっぱり、あたしたち生きてるんじゃない? 」と言った。
「あの」祐奈が言った。「誰かいます」