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②目覚めると

「ここ、どこ? 」

 最初に声を出したのは麻理恵だった。気づくと自分と同じ学校の制服を着た男女二人とジャージ姿の男子一人、だが顔は初めて見る人たちと一緒に、野原の中に寝ころんでいた。

 ほかの三人も次々と目を覚まし、不思議そうにあたりを見回していた。

「理文館高校の制服だよね…………」

 次に口を開いたのは拓斗だった。拓斗自身はジャージ姿だったが、学校指定のものだったので、ほかの三人も警戒を解いた。麻理恵は、まず自分から名乗ることにした。

「あたし、2年8組の武田です。武田麻理恵。あなたは? 」

「俺は2の4の池辺。池辺拓斗」

 君らは?と拓斗に促され、司と祐奈も自己紹介した。「2の1の新藤司」「1の6の中山祐奈です」祐奈は辛うじて聞き取れるような小さな声で答えた。

 祐奈だけが一年生だった。

 周りは見慣れぬ風景だった。あたり一面緑に覆われ、随分田舎のようだが。

 皆、何か違和感を感じていた。祐奈が口を開いた。

「電柱、無いですね」

 確かにそうだった。いつでも、どこでも私たち日本人のそばにあるはずの電柱がない。そして田舎なら必ずどこかに見えるはずの鉄塔も、無い。

 それに加えて…………四人が感じる最大の違和感、…………とても静かだった。

「車、走ってないのかな」麻理恵がつぶやいた。

「今、何時なんだろ」拓斗は、スマホを見ようとポケットを探して、ホテルの部屋に置いてきたことを思い出した。

「多分お昼近いかもしれませんね」祐奈が言った。「太陽が真上に来てますから」

「コンビニか何か探そうか。とにかく人を探そう」拓斗が言って立ち上がろうとしたその時、すぐそばの茂みから、石が飛んできた。

「わっ! 」「え! 」「きゃあ! 」「なにっ! 」しばらく四人の上に石礫いしつぶてが飛び続けた。四人はみな自分の頭を必死に守った。石礫がやんだかと思うと、茂みから十数人の人間が飛び出てきて、四人は押さえ込まれてしまった。あっという間に四人は捕まり、縄をかけられてしまった。縛り上げられて、身動きもとれないまま、襲ってきた者たちを見ると、彼らは皆、時代劇のような、だが見たこともないくらいぼろぼろの着物をまとっていた。


 四人は縛られてどこかの小屋のような建物の前に座らされた。

 しばらくすると少し身なりの好い老人が現れて家の縁側のようなところに座って、四人のことをじろじろと嘗め回すように見た後、「あいつらの仲間か」と言った。

「あいつらって誰ですか」麻理恵が答えた。老人はそれには答えず、「珍奇な格好をしておるのう」と言って縁側から降りて四人のそばに立って見下ろした。そして

「恥ずかしいと思わんのか。おなごがそのように足をだすなぞ…………」と言った。

 麻理恵は「いえ…………制服ですから…………」と答えたが、

「せえふく?なんじゃそれは…………」老人には通じなかった。

 老人は縁側に戻った。

「この村には昔からの掟があってな、村の外から来たものはすぐに追い出さんといかん。よくないことが起こるでな」

「えっ? よくないことって」

「よくないことはよくないことじゃ。疫病を持ち込むかも知れぬ、盗賊かも知れぬ、村に火をつけるかも知れぬ…………とにかくそういう掟がある。村を出すときは対岸の島に打ち捨てるべし、と言い伝えられとる。…………まさにお前たちのことじゃ」

「えっ? 困ります。そんな、人道的にもおかしくないですか?大体、今の時代にこんな野蛮なことして、うちの親が知ったら…………」

「武田さん」新藤司が口をはさみ、麻理恵に目配せした。

 老人は「明日の朝、島に送る。それまで、閉じ込めておけ」と言い残して、どこかへいってしまった。


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