⑰友を失う
拓斗のクラスルームに行くと、運よく拓斗の友人の一人を見つけることができたが、「今日は携帯、家に忘れた」と言われてしまった。その人に、拓斗の番号を知って居そうな別の友人を探してもらい、 やっとのことで拓斗の携帯番号を手に入れ、テレカで学校の公衆電話から拓斗にかけた。携帯は校内使用禁止で、ホームルームの時に担任に預けてしまう決まりであったから使えなかった。
「もしもし、拓斗? …………生きてる? 」
「よー、マリ! そっちも、うまく切り抜けたな? 」
拓斗はいつも通りの底抜けに明るい声を出していた。
麻理恵は拓斗の、その陽気な声を聴くと、改めて、『戻ってこれたんだ、あの鬼ヶ島の日々は夢じゃなかったんだ』と思い、こんな時なのに、涙が出そうになった。
今は、泣いている時ではない、そう思い直した麻理恵は拓斗に事情を説明した。
「拓斗、祐奈がいないの」
「えっ? 学校にきてないのか? 」
「違う、いないの、全然。存在しないことになってる」
「何、それ? 存在しないって! 」
「祐奈のクラスに言っても、そんな子はこのクラスにはいないって。死んだとかじゃない。最初からいないんだよ。それに展示してあった祐奈の作品も無くなってる」
拓斗は黙り込んだ。
「拓斗、拓斗、聞いてる? 」
「ああ…………ひょっとしてなんだけど…………俺、あのUFOみたいなのの中で、ボタンを押して凄まじく光ったあの時に、誰かが床の円の外に出ていったような気がしたんだ。まぶしくて床に目を落として…………、その時、でていく誰かの足の先が見えた気がしたんだ」
麻理恵は息が止まりそうだった。
「祐奈が円から出ていったってこと? 祐奈はあたしたちと一緒に、戻らなかったってこと? 」
麻理恵は公衆電話の受話器を握りしめながら思った。
―――――――そして歴史は書き換えられ、祐奈の存在はこの時代から消えたってこと?
「マリ」それまで麻理恵の後ろで漏れ聞こえる拓斗の声と麻理恵の会話を聞いていた司が麻理恵に呼びかけた。
「祐奈は自殺して俺たちと一緒にあそこへ行ったって言ったよね。帰りたくない理由があったんじゃないか?」
――――――-帰りたくない理由…………いじめを苦にしていた祐奈…………………。だけど、だけど。
「今はあたしがいるじゃない! 」麻理恵は叫んでいた。絶望的な悲しさで心が引き裂かれそうだった。
こちらの世界へ戻ってすぐに麻理恵と司と拓斗は三人で海岸まで行き、あの島を探したが鬼ヶ島は、かげも形もなかった。
街の図書館や資料館へ行き、さんざん調べた挙句、以前、この海岸の向こうに島があったが、昔、大きな地震があった際、地震の揺れと津波にのまれて崩れ、かろうじて残っていた部分も、のちの台風や嵐でで削られ、島はなくなってしまった、ということが分かっただけだった。それ以上のことは何も書き残されていなかった。