⑮帰還
10月6日 午前7時。
気が付くと麻理恵は自分の部屋にいた。制服を着たままだった。
机の上の時計を見ると日付はあの日、事故にあった日の、午前7時に戻っていた。
今日は10月と思えないほど朝から暑い一日となりそうだった。
7時半。
麻理恵は家を出ていつもの通学路を歩いた。あの日と同じように、いつもより少し早い時間に。スマホは見ないことにした。
あの日、事故にあった道に差し掛かった。道路の端に寄り、緊張で体を固くしてながらもトラックをやり過ごし、無事学校につくことができた。
麻理恵は胸を躍らせた。『やった、やった! あたしは危機を乗り越えた! 命の危険を通り超えた! 』と。
だが、ふと何か大切なことを忘れているような気がした。なんだろうこの胸騒ぎは?
麻理恵は横を追い抜いて行く顔見知りの生徒に「おはよう! 」と声をかけられても気づかないほど、その不安感の正体をつかもうと考え込んでいた。
…………なんだろう、なんだろう、なんだろう……………。
そして、それは突然降りてきた。
…………祐奈。祐奈!
麻理恵は走り出した。校内にいるはずの司を探すために。
10月6日午前7時。
拓斗はサッカーの試合のために行っていた遠征先のホテルのベッドの上で目を覚ました。
ロビーに向かい、朝練のランニングのため集まっているほかの部員に合流した。
その中の一人が訊いた。
「先輩、なんでランニングなのにボールもってくんですか? 」
7時半。川沿いを全員で走っていた。叫びが聞こえた。
「誰か、誰か、助けてください! 」
拓斗はネットに入れて持っていたサッカーボールの塊を川に投げ入れ、浮として使い、男の子の命を救った。
10月6日 午前7時。
気が付くと司は学校の屋上にいた、いつものように。
そしていつもと違っているのは、いつもならそこにはいない、一年生らしい女子の集団が、輪になってバレーボールを打ち合っていることだった。司は場所を移動した。
7時半。「アターック! 」という声が聞こえ、そのあとに「もーう、愛理ぃぃ」「あーあ、ボール、下まで落ちちゃった」「誰か下にいない? 」「当たってたら大変だよ」「…………大丈夫みたい」という会話が聞こえてきた。
司は胸をなでおろした、危機は脱した。
司は、胸の動悸とうまくやり遂げたことによる高揚感を感じながら、しばらくそこに佇んだ後、ゆっくりと、屋上を後にし、階段を下りて校舎の二階の自分の教室へ向かっていった。
そして教室にたどり着き、扉を開けると、
「司! 」血相を変え、息を切らしながら、司を探して校内をかけまわって来た麻理恵がそこにいた。