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⑭脱出

「な、なんだこれは! 」

 最初に声を上げたのは拓斗だった。麻理恵と裕奈は入口付近で、それ以上中に踏み込むことに躊躇して、そこにとどまり、司は驚きで声も出ないようだったが、もっとよく見ようと無言のまま、それ、に近づいて行った。

 木製の小屋の中には金属製の円形の家のようなものがすっぽり隠されていた。

 その『金属製の円形の家のようなもの』には、上に持ち上げると開く扉が付いており、中に入ることができるようだった。

 司は一言も発しなかったが、ためらうことなく扉を持ち上げ、中に一歩を踏み入れた。残りの三人は扉の前で躊躇していたが、やがて、意を決して、司に続いた。

 その中はいくつかに仕切られ、どの部屋も壁一面に何か機械らしきものが埋まっていた。

「これって…………、UFOなんじゃない…………? 」今度は麻理恵が言った。

「サンダーバードの、旧作のほうの内部の作りに似てますね…………」祐奈も驚いているようだった。

 祐奈も、小屋の中に入ったのも、このUFOらしきものを目にするのも、まして、UFOらしきものの中に入ることも、初めてだという。

 一つの部屋の真ん中に光のともったものがあり、床に円が描いてあった。

「もしかして、これかな? レンラが言ってた絶やしちゃいけない燈明の火って」

 そう麻理恵が言うと、祐奈も「きっと、そうですね」と答えた。

 ずっと黙っていた司が、「もしかしたら、何らかの動力源なんじゃないか」と言った。

「動力源? エネルギーってこと? 」麻理恵が聞く。

 司は頷いて、「これがUFOだとしたら、宇宙のどこかの星から飛来してきたってことになる。だったら、半端じゃないエネルギーが必要だったろう」

「…………レンラたちが宇宙人だってこと? 」

「…………可能性は否定できない」

 自分たちの常識からかけ離れすぎて困惑するばかりだが、もしそうならば彼らの風貌の説明がつく。

「この円は何だろう」そう麻理恵が言ったとき、扉が開いてレンラが飛び込んできた。

「祐奈、祐奈! 」レンラの呼びかけに祐奈は扉に駆けていった。

「今日はあいつら様子がいつもと違う、必死だ。今、ガナヤ兄さんとテナイ兄さんが必死に食い止めているけど、もう、持たないかもしれない。もし奴らがここにきても、いいか絶対に入れちゃだめだ。…………もし万が一の時は、そのボタンを押すんだ」

  「これ? 」真ん中のひかりの上にボタンがあった。レンラは頷いて、「母が言い残したんだ、万が一のこと、本当に最後の最後に命の危険を感じたらこの部屋にこもってこのボタンを押しなさいって、俺たちに言ったことがある。違うところにいけるからって」

「いったい、それはどういう意味? 」尋ねたのは、司だった。

「わからない。でも、こうも言っていた。『あなた達は、ここしか知らないから、まだ、難しいわね。でも、大人になったら、想像することで、何とかなるかもしれない。母さん一人の力じゃだめだったけど』って」

「でも、じゃあ、これは、お母さんがレンラたちのために…………」祐奈が言った。

「いいんだ。俺たちは」そして続けた。

「君たちは、あの村の人間ではないけど、人間なんだ。どこかに生きていく場所が見つかるはずだ」そして祐奈を見つめ、笑って言った。

「兄さんたちもそう言ってる」それだけ言うと扉を閉めて出て行ってしまった。

 四人は重苦しい沈黙の中にいた。だがやがて、どんどんと小屋を壊す音が聞こえてきた。だんだんと音は大きくなり、もう小屋を破壊し終わって、この内側のUFOをも壊そうとしているようだった。

「行こう」司が言った。

「でも! 」祐奈が叫んだ。

「わかってる。これは俺たちのものじゃない。彼らのためのものだ。でも、ここにいて殺されるのを待つのかい? 」

「でも、このボタンを押したってどこに行くのかはわからない」

 拓斗も及び腰だった。

 外の物音は、その大きさを増していた。

「レンラたちはなんで今まで使わなかったの? 」言ったのは麻理恵だった。

「わからない」祐奈は扉のほうを見つめながら言った。麻理恵はのちに思い至ることとなる。祐奈が扉を見つめていたのは、扉が破られそうだったからではなく、別の意味があったのだと。

「今までだって、命の危険を感じることはあったはずなのに。これいったい何?なんなの?違うところってどういう意味?! 」麻理恵は叫んだ。何もかもが怖かった。前に進むのも、ここにとどまることもどちらも恐ろしかった。

「もしかしたら」司がふと、思いついたように言った。「イメージする力ってことじゃないか? 」

「イメージする力? 」麻理恵が訊いた。司は頷いて、

「行きたい場所をイメージする力。行きたい場所を思い浮かべてそこへ行くことを念じる力」と言った。

「だって、ここには、このボタンの他に、何のボタンもつまみも、ミキシングするような目盛りも何もない。鬼たちだけで、使えないのは、彼らが、ここしか知らないから、他の場所をイメージすることが難しいから、そうじゃないのか? 」司は外から聞こえる、ここを破壊しようとする物音に負けないよう大声をあげて言った。

「だったら…………」祐奈が声を上げた。

「彼らも一緒に…………レンラたちも一緒に…………」

 再び、みんなが沈黙し、外の物音だけが響いた。

「無理だよ」司がその沈黙を破った。

「もう時間がない。それに、彼らを、僕らの世界に連れて行くのかい?ネットにさらされ、もてあそばれ、研究対象として閉じ込められ…………」そしていったん言葉を切り、

「もしかしたら、殺され、最後は、研究のためという名目で、切り刻まれるかもしれない」と続けた。

拓斗も、「少なくとも自由などないだろうね…………」と静かに言った。

 外のもの音は、さらに大きく迫って来た。

「確証はない。でも、今できることはこれしかない」司は言って、ボタンに手を置いた。拓斗と麻理恵もその司の手の上に、それぞれの手を重ねた。

「祐奈! 」麻理恵が祐奈に呼びかけた。「祐奈も! 早く! 」

 祐奈も三人の手の上に手を添えた。

「イメージして! 」司が言った。「みんなの力を合わせないとダメなんだ。レンラのお母さん一人の力では駄目だったんだから。イメージして、僕たちのいたあの世界を! 」麻理恵たちは思いを一つに、イメージを始めた。

 その時扉が破られた。ボタンの上に置いていた麻理恵と拓斗のの手はその下に重ねられた司の手を押す形で反射的にボタンを押した。とたんに、辺り一面、すごい光に包まれた。思わず麻理恵は眼をつぶった。

 四人は床に描かれた円の中にいたはずだった、が。

 拓斗だけがわずかにその気配を感じていた。ボタンを押すために重ねた四人の手のその一番上に、手を置いていた祐奈が円の内側から、静かに、だが、ためらうことなく、出ていったことを。




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