6 王子様と梅酒
<ガランガラン>
スゴイ音がして、酒場の扉が開きました
故障か?
扉が開いた後、フェイスガードを閉じた状態のフル装備の鎧を着た騎士が入ってきました
その後に、同じ格好をした騎士に囲まれた、キラキラした王子様が入ってきました
それを見てドキワクする客達
酒のつまみが騒動ですか?
異世界では娯楽が少ないですからね(笑)
金色の長い髪、高そうな服装、優雅な物腰、理想が服着ているようです
って、理想の王子様は裸か?という突っ込みはいりませんからね!
『ふ~ん、ここが異世界酒場か?はじめてきたが、庶民の店にしては、まあまあ綺麗だな・・・』
そう言いながら王子様が酒場を見廻します
どうやらはじめての客は、入る時、スゴイ音がするみたいです
あるいは、悪意を持った客かも?
しかし他の客には何を言っているのかわからないようです
バカにされてもわからない
異世界のお約束ですね
『いらっしゃいませ、お好きな席にお座りください』
店主がそう声をかけました
王子様と同じ言語が話せるみたいです
おおっ、なにげにスペック高い
って、けなされているのにスルーすっか?
『王子に向かって無礼であろう!』
騎士の一人が怒鳴り出しました
若手なので沸点が低いです
そんなんで護衛ができるのか?
しかし結構、日本人的な丁寧な対応なんですが、これ以上なにさせようっていうんでしょう?
ホストのマネでもする?
『よい、騒ぐな!店主、迷惑をかけたな』
『ええ、本当に』
王子のとりなしを台なしにする店主
『無礼者!』
騒ぐ騎士
みんな元気だね、何かいいことあったのかい(笑)
・・・いえ、ただ、店主が王族や貴族が死ぬほど嫌いなだけなんです
わかっていてやっているあたり店主もイイ性格してます
「「トラブルっすね(だよね)」」
大体の雰囲気で言っていることを、脳内補完する客達
店主の王族嫌いをしってますからね
ワクドキです
ひと騒動あった末、ようやくテーブルに着く王子様
ちなみに騎士たちは王子の後ろに仁王立ちです
飲み食いしないってヤナ客ですね
『何でも良いから一番美味なものを持ってまいれ』
そう言う王子に向かって煽るように返事する店主
『悪いんですが、この店は好きなモノを飲むってのがルールなんです、ご注文をお願いします』
本当に王族が嫌いなんですね
『では甘い酒をもらおう』
注文をつける王子
嫌われているのを感じているのに注文をする王子様も、結構イイ性格してる?
注文を聞いてニヤニヤする若手の騎士
どうやらこの世界の酒は苦いみたいです
しかし、ありえないものを頼んだのか、王子様?
ほんとイイ性格ですね
『はい、どうぞ!』
即座に出てくるお酒
あまりの早さにあっけにとられる王子と騎士たち
わずか0.05秒の早技です
店主のスキルで出てきたのか?
いえいえ、目にもとまらず早さで動いただけです
王子は目の前に出されたプラスチックのコップに入った薄茶色の酒を見つめて問いかけます
『これはなんだ?』
『梅酒です、甘いですよ』
店主が答えます
『毒見を』
そういって騎士の一人がコップを持ち上げて一口飲みます
出したものを信用してません
ヤナ客ですね
『あまいっ!』
毒見役の騎士が、目を見開いて大声で叫びました
それを聞いて驚く王子と騎士たち
ふっ、勝ったぜ
店主の顔の表情がそう言ってます
それを見て事情を悟る他の客
良いツマミができて嬉しそうです
『・・・う~む、甘いな』
そう言う王子様
いつのまにかしっかり飲んでます
『それは梅酒といって、毎日飲むと寿命が延びるとの言い伝えがあります。実際、私の祖母も毎日飲んでいて93歳まで生きました』
そう店主が説明すると
『『『『『おおっ』』』』』
王子と騎士たちが驚きの声を上げました
『その梅酒とやらをすべて貰おう!持って帰ってお祖父様に飲ませねば!』
王子が、勢いよく言ってます
どうやら<命の水>扱いされたようです
『すみませんが、この酒はココで飲んで貰う分しかありません』
店主がそう言うと
『無礼者!王子の御希望だぞ!』
若手の騎士が怒鳴ります
『まてっ、そこまでだ!』
年配の騎士が必死になって若手を止めます
どうやら、年配の騎士だけが店主の実力を判っているようです
全員でかかっても返り討ちに会う、と
そういえば先ほども止めましたね
御苦労なことです
さすがに王子もおバカではないようで、年配の騎士の態度である程度の事情を把握したようです
『それでは急いでお爺様を連れてこよう!ならば良いな!』
妥協しました
『ええ、もちろん、ところで飲んだ分のお代を貰ってませんが?』
そういってお付きのモノから代金の金貨10枚をぼったりました
王子たちが店から出た後、一部始終を見ていた剣士が店主に言いました
「マスター、本当に酒だすん?」
「何言ってるんです?出さないですよ?」
店主の王族嫌いは筋がね入りでした
「でも押し掛けてくるっしょ?」
剣士が問いました
「ああ、鈴でココに来るから知らないんですね
この酒場は機械化帝国製で、陸海空、どこでも移動できるんですよ?」
店主による驚きの機能の解説です
「普通にきていれば飛んでる所をみれるんですがね」
あぜんとしている剣士にドヤ顔で解説してました
・・・自慢したかったんですね
「せっかくジジイをつれてきても酒場が跡形もない
そんな絶望した王子の顔を想像するだけで笑いがこみあげてきますね」
そういう店主の顔はすばらしいほどの笑顔でした