軍の青年
「…ん」
少女は目を覚ました。
硬くひんやりとしたコンクリートの床の上でうずくまっていた。
『起きた?』
声が聞こえた。
さっきの軍人とは違う、優しい声だった。
少女は目を開けた。
鉄格子の向こうに、若い青年が座っていた。
少女は身体を起こそうとしたが…
「あっ…」
身体を起こした瞬間、髪の毛が肩を撫でた。
「嘘…」
少女の腰まであった綺麗な長髪は、肩のところで無残に切られていた。
『ごめん、反対したんだけど、人の髪の毛はこの国ではかなり高く売れるんだ。特に、長い髪は。…本当にごめん』
青年はそう言って、鉄格子の鍵を開け、中に入ってきた。
「…こないで!」
少女は力のない声で小さく叫んだ。
しかし、青年は少女に近づいてくる。
「…私、もう何も持ってない。貴方達が全部奪ったんだから!」
青年は少女の目の前でしゃがんだ。
初めて、目を合わせた。
青年は、氷のように透き通った、薄青の目をしていた。
青年は、ポケットから水の入ったペットボトルと包帯とガーゼを取り出した。
『水で洗わないと、化膿するよ』
そう言って、全身にできた擦り傷切り傷を手当てしてくれた。
『ほら』
肩からさげている小さなカバンから、パンと水を取り出した。
『お腹空いてるでしょ?これだけしかないけど…、はい、どうぞ』
「ぁ、ありがとぅ…」
少女はもどかしそうにお礼を言った。
そして、続けてこう言った。
「どうして助けてくれるの?」