魔法少女は、場違いな世界に召喚されました。
「ユメカ!これ、本当においしいよ?
食べないの!?」
むしゃりむしゃりと何の疑いもなく食べるこのもち…
もとい、マルクに苛立ちを覚えた私は、ぎゅっと頬をつねり、にらみつける。
本当にもちのように伸びるのだから、ある意味面白い。
「いててててっ!何するんだよ。
ユメカ。」
「ふん!」
と、そっ方向きながら、今度は、鬱憤を晴らすかのようにどつきまくる。
「イタイ。イタイ。ユメカっ!止めてよ。」
私はこんな恐ろしい世界に連れてきたマルクが許せなかった。
だからこそ、地味なやり方だが、こうやってどついて、気を紛らわせている。
「おいおい。
八つ当たりは良くないよ?」
「あなたに何がわかるんですか!?
いきなり戦場に連れてこられて、愛と平和の世界にしろって!
中学生に何求めてるのよ!」
「中学生?
愛と平和?
話を聞かせてくれるかい?」
「なんで、名前も知らないあなたに言わなきゃいけないんですか?」
「あっ!ごめんね。
俺は、アベル=クライトス。
えっと……ユメカちゃん?」
どうやら、見た目の割には、女心と言うものがわからないらしい。
「馴れ馴れしく下の名前で呼ばないでください。
私は、夢野夢香です。」
「夢野さん?
事情を聞かせてほしいなっ。
何故、君の様な見習い魔導師が戦場に?」
「こいつに!無理矢理引っ張られてきたんですよ!こいつに!」
「イタイ!ユメカ。
許して。」
マルクげ許しをこうも、許すわけがない。
私は、マルクをギューっと餅を伸ばす様に引っ張る。
「おい!気持ちはわかるが、やりす……ん?」
アベルは、マルクの顔を見て思った。
〝あれだけやられているのに、小馬鹿にした様なあの表情……
もしや、あれはあれで嬉しいのか?〟
アベルは、コホンと咳払いをし、マルクについて触れる事をやめた。
「まぁ。うん。
夢野は、家に帰りたいのかい?」
「あっれー!?
助けてくれないの!!?」
「邪魔した。
その手の趣味はわからないが、じっくり堪能してくれ。」
「ドMじゃないよ!?」
「うっわー。マルクって……。
ドMだったんだぁ。」
と、マルクが言うも顔に説得力がなく、半笑いでアベルに目を逸らされ、私もマルクが君の悪いものに見えたので、叩くのをやめた。
「で?どうなんだい?」
「そりゃあー。
帰りたいですよ?」
「そうかぁ。
ならさ!俺が送って行ってあげるよ!
なんて言う村なんだい?」
「村じゃないですよ。
おゆみ野原です。」
「おゆみ野原?
聞いたことないなぁ。
母さん知ってる?」
「んー。異国かしら?」
「えーっ!緑川区のおゆみ野原ですよ!?
万葉県のっ!」
「んー。聞いたことないなぁ。」
「そんなぁー。」
だが、良く考えてみると、無理も無い話だ。
私の世界には、剣と剣がぶつかり合う争いもほとんどなく、あの様な化け物も存在しない。
まるで、RPGの世界に迷い込んだ様な世界観で、私はここが私の生まれた世界とは別次元の世界だと言う事に今、気がついた。
「まぁーるぅーくぅー!!」
「はっ!?」
「あんたねぇー!!
ここ!私の世界じゃ無いじゃない!!
早く帰しなさいよ!!元の世界に!!」
「無理だよぉー!!
ユメカがこの世界を愛希望の世界にしなきゃ戻れないんだよぉー!!」
マルクを捻りつぶす勢いで掴み、脅すもどうやら、この世界を愛と平和に導かなくては帰れないらしい。
なんだか泣けてきた。
「うっ!ふぁーん。
帰りたいよぉー!ママ〜!!」
「ちょっと!
泣かないで!!」
「うぇーん。」
私が泣き出した事で、アベルがおろおろと戸惑いだす。
それでも、泣かずにはいられなかった。
「どっ!どうすれば……。」
「えーーん。」
何故私がこんなところでこんな奴に連れてこられて、危ない目に遭ってまで世界を平和にしなくてはいけないのか。
己の不幸に、もはや泣く事しか出来ない。
「ふぇーー……?」
「夢香ちゃん。
もっと、泣いていいのよ?」
と、私を包み込んだのは、アベルの母の暖かな温もりと優しげな声。
不安と恐怖の氷に覆われた私の心は、その暖かさから溶け出したかのように、涙へ変わる。
「うわぁーーん。
ママァー!!!」
「よしよし。」
私は、涙が枯れるまで泣き続けるのであった。