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僕と君達と謎  作者: 如月 楸
第1章 数奇な出会い
3/3

僕と先輩とスピーチ原稿〈本論〉

体育館に着いたときにはほとんどの全校生徒が集合していた。その騒ぎようはライブ会場となんら遜色なかった。僕がその迫力に圧倒されている様子を察した先輩は僕に「毎年こんなんよ」とあっけらかんに言ってきた。その言葉が僕にはあまりにも乱雑に感じ反抗するように返した。

「そうですね。僕はあなたみたいに簡単に適応するなんて出来ませんよ。ごめんなさいね。」

「そんな拗ねなくていいじゃないの。私だって最初は...」

「最初は?」

「いえ、なんでもないの気にしないでね」

「先輩もそうやって口紡ぐこともあるんですね」

「あなたは私をなんだと思ってるのよ...もう」

明らかに不自然だった。先輩がこんな風に戸惑うなんてことを僕は知りえなかったからだ。人間だれしも戸惑うことはあるかもしれないが、僕は先輩と過ごした時間の間でこんな姿を見るのは初めてだった。その姿はまるで喜怒哀楽が失われたように一定して不安を抱えている様だった。

そんな不安を一蹴するかのごとく先輩は「ほらっ行くよ」とかけ足にステージの方に向かいながら言った。

「ちょっと、待ってください」

そんな僕の言葉も振り切り足早に向かった。


先輩が向かったのは15分前に僕がいた、ステージ横のスペースだった。そこには今年度の生徒会長をはじめとする生徒会メンバーに校長、理事長そして前会長の先輩と僕。完全に場違いの人間だ。今すぐ自分の席に戻りたいが僕の新クラスをこのメンバーの中で知っているのが先輩だけなのだが...当の本人は教える気はないらしく新任の生徒会長さんと楽しく談笑してなさっている。まことに遺憾である...とそこで僕は理事長に呼ばれていたことを思い出した。

理事長はこの春美ヶ丘高校の裏のボスで言ってしまえば校長よりも顔が立つのである、しかも今年度の新任会長さんのお姉さんさんらしく原稿担当になった僕は春休みの間、書いては理事長にチェック、書いては理事長にチェック、書いては理事長にチェックの繰り返しだった。最終日にようやく合格がもらえたと思ったら、帰り際にまさかの変更の申し出!断ることなどできず仕方なく家で完成させ、先輩に託したのだが...最後の手直しが気に入らなかったのだろうか、それで呼び出しなどの大胆な真似を...行かなきゃだめだよなぁ。それに、すぐ近くに理事長いるし、しかもちらちらこっちを窺うかの様に見てくるし。完全に意識されちゃってるよ。

「あの理事長、何か御用でしょうか...?」

「宍戸、私は理事長であって理事長じゃなって何回言えばわかってもらえるんだっ!」

「いえ、あの、まぁ、その...はい、惠さん」

斎藤惠さんこと理事長、もとい理事長こと惠さんはこの学校の最上級生にしてボスなのである。まぁ、この春美ヶ丘は惠さんの父にして校長の斎藤元帥が建てた学び舎であり、すべて斎藤家の私物なのであり、仕事が多忙な父元帥に変わりこの学校を仕切っているのが惠さんなわけなのだが...いや、バカにしたわけではないのだが、見た目がね...明らかに小学生なんだよね。そのせいで、ある一部から絶大な人気を得ていることは口が裂けても言えない。

ゴゴゴゴ...

「ゴゴゴゴ?」

「宍戸...」

「は、はいっ!」

あまりの剣幕に怯んでしまった。相手は小学生だというのに...

「今小学生って言ったろっっっ!!!」

「いえいえ、そんな大それたことは何一つしておりません」

なんでわかるの!なんでわかっちゃうの!この子の小学生探知能力高すぎ!

「この私をたばかろうなんて百億万年早いわっ!」

「きゃーーーーーー」がぶっがぶっ

「酷い酷すぎる、あなたが呼んでいるというから話しかけたのに...」

「ど、どうしたの?その姿は」

先の僕の叫び声で談笑していた先輩を呼び寄せてしまったらしい...これはまずいぞ。先輩と惠さんを近づけちゃだ...

「凛君大丈夫?もしかしてあそこの小学生にやられたの?あれだけ小学生は危険であれだけ小学生と絡むのは危ないって言ったじゃないの。小学生は危ないわかった?」

「は、はい」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ榊原由美子!」

「あら、理事長さんまだいたんですか?さっさとロリコンの群れに飛び込んで滅んでしまえばいいのに」

「くっ...あ、あんたこそ無駄に大きな胸を揺らして男を誘惑してるこの腐れビッチのくせにっ」

「ビ...ビッチ...」

「二人ともやめてください周りが完全に引いてますから。ほんとにやめてください!」

まったくこの二人は、いつになったら仲良くしてくれるのやら...僕の身にもなってもらいたいものだ。

「そもそも凛君があのちっさいのに話しかけるから...」

え?おれのせい?

「あ、それは先輩がさっき理事長に呼ばれていると言っていたからですよ」

「そんなの関係なーい、何が理由かなんてどうでもいいの。あのちっぱいと話してるのが...」

り、理不尽すぎる!

「ご、ごめんなさ――――――」


――――――これより第4回始業式を始めます。全員起立。礼。着席。

「ちょ、先輩始まっちゃいましたよ!」

「そ、そうね。始まっちゃたわね。相変わらず時間ちょうどで良い事じゃない」

「どうもありがとうございます。これが私の経営方針なのでお褒めに預かり光栄です」

「ふんっ」

『次に前会長から御挨拶です。3年榊原由美子さんお願いします。』

「ということなので些かこの場を離れるのは不本意ですが、これがほんとに最後の責務なので行ってきます」

先輩はそういうとステージに設置されたマイクの前に行き、前会長であることをうかがわせる堂々とした威厳を放ちながら、スピーチを始めた。

『みなさんおはようございます。そして新入生のみなさんご入学おめでとうございます。私は、先の説明のとおり前会長の榊原由美子と申します。今日は春の日差しが桜を照らし次々に新しい花たちに命を与えています―――――――』

先輩がスピーチを始めたということは、理事長に呼び出しのわけを聞くには今しかない。今聞かないともうまともに会話が進むことはないだろう。

理事長も僕の考えを察してくれたのか僕に視線を合わせこちらの様子をうかがっている。しかし、やはりどこからどう見ても小学生である。隣に並んでも僕の肩程度しかなく、僕は見下ろし彼女は見上げている。正直首が痛くなってくる。

「それで惠さん。僕を呼びだした理由は?」

「あー、妹の原稿書いてくれたことのお礼。前日に変更お願いしたのに完璧に手直しされていて見直したわよ。ありがとね。でも、なんか今までとは少し変わった文章になってたわね。というより宍戸らしくなかったの何かあった?」

変わった?僕らしくない?僕は今まで通り一貫して書いていたが...

「ど。どこら辺がですか?」

「私の勘違いかもしれないから、いまの忘れて。あ、それと後で妹からもお礼言わせに向かわせるから逃げるんじゃないわよ。」

「そうですか...それに、これが僕の仕事でしたからお礼は。」

「あっそ」

惠さんは適当にそう言うと妹が立っている場所に向かっていた。お礼をさせようとしているのか、姉妹そろってこっちを覗いている。僕はそんな姉妹を無視しやることが無くなったため先輩のスピーチの続きを聞くことにした。

『―――――――というわけで、在校生は新入生の見本になるように、新入生は在校生の姿から多くを学び自分の学校生活をより豊かにより鮮やかに彩れるように日々精進していくように心がけてください。』

『気をつけ礼。』

拍手喝采の中先輩のスピーチが終わりこちらに帰ってくる。その拍手の量は盛況だったことをすぐにうかがわせるには十分すぎるものだった。そして今度は理事長がマイクの前に立っている理事長挨拶が始まるようだ。僕が手掛けた原稿が読み上げられるのは理事長挨拶のあとなのでもう少しだ。別に僕が読み上げるわけでもないのに無駄に緊張してきた。なんか、恥ずかしい。

「お疲れ様です。先輩。どうでした?」

社交儀礼の様な言葉の羅列を並べてしまったことにほとほと後悔したが、先輩はお構いなしに質問に答えた。

「まぁ、ぼちぼちかな」

そう言って先輩が見せた作り笑顔は明らかに疲れがほとんどであったかに思える。僕はふと疑問に思い先輩に訊ねた。

「やはり先輩でも緊張するんですか?」

「やはりって何よ!でも、緊張するのは確かね。さすがに1500人の前で話すとなるとスケールが違うからね...」

僕も先、自分の原稿が読まれると思っただけで緊張し恥ずかしくなった。実際にみんなの前で話すとなるとその何倍にもなるのだろう。考えただけで胃が痛くなる。

「でも、凛君の番がまだだし私の気が休まるのはまだ先になるけどね」

「先輩が心配する必要ないですよ。惠さんに言われたんですが、完璧だって。だから、もうそんなに気を遣わなくても」

「本番で何が起こるかなんて誰にもわからない。だから、気は抜けないわ」

先輩のその言葉に僕はなぜか実体験が含まれている様に思え、強く肯定した。

「そうですよね。生意気言ってすみません」

「あ、そういうつもりで言ってわけじゃないの!ただ...ね」

「はぁ、そうですか」

先輩のその曖昧な返答の真意を知るのはもう少し後である。


パチパチパチパチ――――ステージ方から拍手が聞こえる。理事長挨拶が終わったようだ。拍手の量から推測するとこちらも負けず盛況だったらしい。いよいよ次は新任会長の挨拶、僕の原稿が読み上げられる番だ。

「あぁ、頭痛くなってきた。お腹も...いたい」

「しっかりしなさいよ宍戸!あなたが書いた原稿よ、最後まで見届けるべきじゃないの?」

「...惠さんお疲れ様です。」

「そうじゃなくて...あー、もういいわ。すきにすれば」

そう僕につっけんどんに言うと去っていった。それと入れ替わりに先輩が話を始めた。

「凛君ってバカだと思ってたけどやっぱりバカね。あの子はあんな風にしか言えないけどそれでも気を遣ってくれてるのよ。わかってあげなさい。」

「...はい」

「わかればよい」

また笑った。さっきまでとはまた違った笑顔だ。その笑顔がどんなものなんか僕の少なすぎる語彙力じゃ表現しきれなかった。

「ほら、始まるよ。覚悟を決めなさい」

先輩の言うとおり会長はマイクスタンドの前に立ちその横にある小さなテーブルをいじっていた。

「先輩あのテーブルは?」

「あれはね原稿を置いとく場所なの。スピーチの最中にど忘れしてしまったら大変でしょ。そういうことがない様にカンニング出来るようになってるの」

「あれ、でも先輩も惠さんもあんなそぶり見せてなかったじゃないですか?」

「まぁそうだね、緊張はするけど頭が真っ白になることはないからど忘れすることないし、それに、終わったらこっちに持って帰らなきゃいけなくて、それが私は嫌で嫌で仕方がないのよ。これは私の場合だけどあの子もきっとさほど変わらないわ」

「そ、そういうものなんですかね?」

「うん。プライドってやつよ。お、準備出来たみたいよ。今度こそほんとに始まるわ」

『気を付け。礼』

『こ、こんにゃ。あっ!こんにちわ...この度、新しく生徒会長を務めさせていただくことになりました。2年の斎藤実です――――――――』

「完全に緊張してますね...しかも少し間違えてるし」

「あの噛み様はもう誰もフォロー出来ないわね。かわいそうに」

「僕はあえてスルーしたのにそこを突っ込むんですか?」

「え?なんでって?それは、かわいかったから!共感してほしいだけよ」

「共感してほしくても僕は出来ませんから」

「そんなことよりも、彼女なにを間違えたの?」

「違和感はないんでいいんですけど。元々は新しく生徒会長ではなく、みなさんの応援のおかげで生徒会長をだったんですけどね。」

「あら、随分と細かい男なのね」

「余計なお世話ですよ」

とは言ったものの実際そうであることに気付いた僕は恐る恐る先輩の顔を覗くと軽蔑の眼差しが向けられていた。そんな目で見るな!見るんじゃないっ!


そんなこんなで先輩と駄弁りながら僕の書いた原稿を読んでる実ちゃんのスピーチを聞いていた。演説も終盤に差し掛かり、春休み最終日に頼まれたことを思い出した。


――――――「原稿はこれでオーケーって言ってあげたいんだけどさ、ひとつ私のわがまま聞いてくれないかな?」

「はい?これ以上あなたのわがままには付き合えませんよ。ほんと勘弁してください宿題なんて一つも手をつけてないんですから、勘弁です。」

「なら、条件付きで春休みの宿題免除でどう?」

「やらせていただきます。で、変更点は何ですか?」

「うん、それなんだけどね。最後、『これからも応援よろしくお願いします。』で終わるけどその前に、実のマニフェストにあう何かを書き加えて欲しいのよぉ。できる?」

「可能ではありますが、何かとはなんですか?」

「うーん。具体例とか?わかんないけど何かよろしく」

「出来る限り頑張ります...」―――――――


思考にふけっている間にスピーチは終わりをまじかに控えていた。

『最後に私から伝えたいことがあります。』

「...え」

『私はこの学校の生徒代表になりましたが、まだまだ未熟者です。そして、私のマニフェストは全校生ととのわずかなつながりを持ちみんなで成長していくことです。要するに私たちは木なのです。大木になるのです。一人一人が何かの役割につきそれをこなす。そうすることで私たちは成長していきます。繰り返し言いますが私は未熟者です。みなさんの協力なしでは何もなしえません。これからもどうぞ応援のほどよろしくお願いします。』

大歓声だった気がする。しかし、曖昧なのは仕方がない。なぜならその時の僕の視覚、聴覚などいろんな感覚器官が最低限の仕事しかしていなかったからだ。

そんな、僕のことなどどうでもいいかの如く実ちゃんは僕のもとに駆け寄りしきりに頭を下げ、お礼をしている。

違う。違うんだ。そう思ってもどうしても言葉が出ない。わかっていた。惠さんが原稿を褒めていたときからわかっていた。これは僕の原稿であって僕のではない。僕は惠さんの最後の変更点を直せなかったのである。どうしても思いつかず仕方なく手直し前のものを先輩に渡した。だから、あんなことは書かれていないし書かれているわけがない。しかし事実として実ちゃんは全校生徒を魅了したスピーチをした

この事実は変わらない。わからないことだらけである。でも、わかっていることがある。

それは、この偽原稿を用意した犯人である。

僕はしきりに頭を下げている実ちゃんから、先のスピーチで使った原稿を受け取り。その隣にいる先輩の前に行き、こう告げた




「先輩がこの偽の原稿を用意したんですよね?」







「――――――...うん、そうだよ。」

















ちかれたちかれた。それだけです。

読んでくれた方ありがとうございました。出来ましたら、評価・感想よろしくお願いします。

まぁ、先輩が犯人なのはわかってたんですよ。その手口は一体どんなものなんでしょうね?

次回をお楽しみに!ではさらばっ!

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