表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

魔獣の壺シリーズ

魔獣の壺 - 傭兵王編 -

作者: 夢之中

=== 魔物の壺 - 傭兵王 ===


連合暦が制定される2年前の2月中旬の早朝、

ザイム王国の領地であるアムート山脈の中程に

位置するところで、羊飼いの男が羊の世話をしていた。


羊飼い:「今日もいい天気だな。さて、仕事するか。」

そんな独り言を呟くと、ふとアムート山の山頂を見た。


羊飼い:「何だあれは?」

目を凝らしてみると、城らしき物がそこにあった。

羊飼い:「昨日はあんなものは無かった。

    一体何なんだ?

    役人に知らせたほうがよさそうだな。」


羊飼いの通報によって、次の日に役人がこの地を訪れると

その城についての見聞が行われた。

城のようなものがあること意外特に何も起こっていない為、

この件は、王国に報告されることもなかった。


連合暦前1年3月中旬、

クライム王国では、ザイム王国との連絡が取れなくなったことを

懸念して、ザイム王国へ軍を派遣するかどうかの検討が行われ

ていた。

そんなおり、国民の間では旅人による化け物の目撃情報が

報告されていた。

今のところ被害報告はされていないが、ただ単に生存した

被害者が存在しないだけかもしれなかった。


クライム王国は、大陸の南端よりも少し内陸に位置していた。

大陸の北方にはザイム王国があり、

さらに北にはアムート山脈があった。

西にはカルラド王国、東にはルシード王国があった。


クライム王国の一軒屋で、カインという若者が本を読んでいた。


-----

この世界は、神界、幻獣界、魔界、精霊界、魔獣界、人間界の

六界が存在していると言われている。

六界は、次のように繋がっていると考えられている。

これは、魔法陣を使用して呼び出すことができた魔物から

考えたものであり、実際とは異なる場合もありえる。


   神界(光)-----幻獣界----魔界(闇)

     |         |

    精霊界 ―人間界― 魔獣界

点線のところは繋がっているか不明だった。


このうちで、人間界以外の世界を異界と呼んだ。

異界が発見されたのは、神聖魔法の「神の対話」であったと

伝えられているが、今では使えるものも存在せず、その真偽は

定かではなかった。

しかし、「神との対話」によって得られた魔法陣によって

精霊界の生命を人間界に呼び出すことができたため、

真実であると考えるものが大半であった。

しかし、異界の生命は魔法陣の効果範囲外では長時間の滞在が

出来ないということが定説とされていた。

異界の生命は魔物と総称されるが、異界の種類によって呼び名が

変わっていた。

神界:神や天使など

精霊界:精霊

幻獣界:幻獣

魔獣界:魔獣

魔界:悪魔、堕天使など


精霊は、精霊魔法や神聖魔法を使用することが出来る信仰心の

厚い保守的な種族といわれ、「神との対話」を使用できる精霊も

存在していると考えられている。

幻獣は、精霊魔法、神聖魔法などを使用し、自分より強い者には

従うが、弱いものには無関心な中立的な種族とされている。

魔獣に匹敵する能力をもっており、地水火風の四大元素の

いずれかに属しており、属性間での対立あるといわれている。

そして、属性を支配している幻獣のことを聖獣と呼ぶ。

聖獣は、どちらかというと神に近い存在と考えられた。

魔獣は、精霊魔法を使用し弱肉強食の好戦的な種族だと

考えられている。その多くが火属性であるが、中には他の属性を

持つ魔獣も確認されいてる。


万物には四大属性が存在し、その属性の特性を示すと

言われている。

属性には強弱関係があり、土>水>火>風>土となっている。

「土は水を取り込み、火は水を消し、火は風を起こし、

風は土を削る」と考えられていた。

人間は、土属性のため習得しやすい順に土水火風となる。

このほかに、光と闇属性が存在している。


魔法陣は、様々な図形や魔法文字を組み合わせた複数の円で

描かれ、六界や四大属性毎に書き方が変わる。

いま判明している魔法文字は精霊界と幻獣界のみであった。


魔法は精霊によって魔法語が伝えられたが、その発音が

人間には困難なものが多く、使える者はわずかであった。

魔法語を唱えることにより、精神力を使って魔法を行使する

ことが可能となるが、術者の力量によっては発動しない

場合もある。


過去には魔獣を呼び出した者もいたが、その全ての術者が

呼び出した魔獣に殺されており、魔法陣の描き方を含め

その全てが禁止となり、指南書より削除された。


神聖魔法は、神への信仰心によって発動されるものであり、

精霊魔法よりも古くから存在している。

「神との対話」を使用したときに伝えられたものであり魔法語では

なく神に捧げる言葉よって発動される。

神聖魔法と同じく精神力を使って行使するが、術者の信仰心に

よっては発動しない場合もある。


戦士 :防御を捨て、重く破壊力のある斧などを装備した者達の

    ことである。

騎士 :剣と盾を使い、重装備の鎧に身を包んだ、

    どちらかというと防御に重点を置いた戦士の事である。

聖騎士:騎士でありながら、ある程度の神聖魔法を扱える

    者達の事をこう呼ぶ。

    クライム王国では聖騎士達に特別に純白の鎧が

    与えられた。

精霊魔導士:魔法語(精霊語)を唱えることによって、

      精霊の力を借りて様々な精霊魔法を使うことが

      できる者達だが、その数はきわめて少ない。

神聖魔導士:神に祈ることによって神の慈悲を

      受けることができ、傷の治癒などの様々な

      回復魔法を扱う者達だ。

-----


神聖魔法を扱う者達は、国の医療所で会うことができた。

カインも子供の時に怪我をして、それを治癒してもらった

ことがあった。

しかし、精霊魔法はまだ見たことがなかった



連合暦前1年の3月28日夜、

クライム王国の一軒屋で、カインとその両親が食事をしていた

父親:「化け物が出現したらしい。」

カイン:「!!」

父親:「その化け物のことを魔獣と呼ぶみたいだが、

   私は、その魔獣退治のため、明日、国軍に参加する。

   出発は、4月中頃だそうだ。

   カイン、お前はもう17歳だ、母さんはお前が守るんだ。

   どうだ、できるか?」

カイン:「ああ、魔獣ごとき俺の剣で一撃さ。」


カインはごく普通の生活を送っていたが、剣術を趣味としており

剣術大会では、常に上位の成績を収めていたため、剣の腕には

自信を持っていた。

そして、聖騎士になることを夢見ていた。


父親:「突然襲ってくるということだから、外に出るときは剣を

   持って行くことを忘れるなよ。」

カイン:「ああ、わかってる。」

次の日の朝、カインの父親は国軍へ参加するため家を後にした。


連合暦前1年の4月4日早朝、

その日は朝から天候もよく、空は晴れ渡っていた。

カインは朝食を終えると、剣を腰にぶら下げると外へでた。

いつもは聞こえる小鳥の声が無いことを少し気にしながら

歩いていた。

その時、「キャー」と言う悲鳴が辺りを支配した。


カイン:「なんだ?」

カインは左手で腰の剣の揺れを抑えるように鞘を持つと

声のする方へと走って行った。

民家の角を曲がると、そこで信じられない光景を見た。


見たことも無い化け物が2匹、人を襲っていた。

化け物は肢体こそ人間と同じだが、手や足などが人間より

2周りほど太く、そしてその肌は赤黒い色をしていた。

なにかの皮と思われる鎧の様な物を着ており、

手には棍棒を持っていた。もう1匹は盾も持っていた。

顔は、凶暴な犬のような顔をしており、明らかに人間では無いと

確信できた。


カイン:(これが魔獣なのか?)

カインは腰の剣をすばやく抜くと魔獣に向かって走り出した。

1匹がそれに気付き、棍棒を振り上げるとこちらへと向かって

きた。

剣と棍棒が接触した、その瞬間、右手に衝撃が走った。

そして手に持った剣が勢いよくはじけ飛んだ。

カイン:(なんという力だ。)

カインの右手は痺れていた。

カインは飛ばされた剣を拾おうと右へと飛んだ。

そして剣を拾い振り向いた時、目の前に両手で棍棒を振りかぶる

魔獣の姿が見えた。

カインはその瞬間、死を覚悟し、最後の一撃を放とうと魔獣の

腹めがけて、剣を左から右へと振ろうとした。

そのとき、魔獣の両腕と頭が落ちてくるのを見た。

魔物の体から赤黒い血が噴出しているのが目に焼きついた。

魔物が崩れるように倒れると、純白の鎧が目に飛び込んできた。

顔を見ようとしたが、頭をすっぽりと覆う白い仮面によって

判らなかった。

カイン:(聖騎士だ。)

カインがそれを眺めていると、右手を差し出すのが見えた。

カインは聖騎士の手を掴むと、手を引かれ立ち上がった。

聖騎士:「ぼうず、大丈夫か?」

仮面のためか、その声はこもっていた。

カインは右手に痛みが無いことを確認すると口を開いた。

カイン:「ありがとうございます。

    怪我は無いようです。」

聖騎士:「それは良かった。」

カイン:「ところで、あの化け物は何なんですか?」

聖騎士:「あれが魔獣と呼ばれる者だが、

    実は我々もあれが何かわからないのだよ。

    まだ魔獣がいるかもしれない、注意して帰りなさい。」

そう言うと聖騎士は、後ろを向き歩いていった。


カインはそれを眺めると、自分の剣の腕が未熟であったことを

痛感し、もっと強くなって聖騎士になる事を改めて自分自身に

誓った。


その日のうちに国の入り口は閉ざされ、厳戒態勢が引かれると、

昼夜を問わず軍の兵士が警備を行うようになった。


連合暦前1年4月5日夜、

クライム王国の軍の会議室では、官僚達が集まって会議を

行っていた。

  「今回の魔獣が持っていたのがこの盾だ。」

そう言って、議長が盾を机の上に乗せる。

将軍の1人が口を開いた。

  「これは、ザイム王家の紋章ではないか。」

部屋にざわめきが起こる。

議長が少し間をおいた後に口を開いた。

  「そうだ。ザイム王国で何かが起こっていることに、

  間違いはない。」

一呼吸おいて、話を続ける。

  「私はザイム王国へ調査を目的とした遠征軍を派遣したいと

  考えている。

  同時に傭兵の受け入れも行いたいと思う。

  それで皆の意見を聞きたい。」

官僚達は、武官の派遣派と文官の防衛派とに分かれた。

そして長い議論の結果、10日後に出兵することが決まった。

傭兵に関しては防衛の為、広く募集を行うこととなった。


連合暦前1年4月14日夜、

そして、出兵の前日、父親が家に帰ってきた。

一家団欒の夕食を終えると、父親がカインを呼ぶ。


父親:「カイン、ザイム王国との連絡がまったく取れていない

   らしい。

   私はザイム王国はすでに魔獣に滅ぼされているのでは

   ないかと考えている。

   ザイム王国への進軍はきっと困難なものとなるだろう。

   そこで、もう一度言っておくが、母さんを頼んだぞ。」

カイン:「わかったよ、父さんの吉報を待っているよ。」

父親:「ああ、頼んだぞ。」

カインの父親はこの時、死を覚悟していたのかもしれない。

カインは、父親との会話がこれで最後になるとは、

この時は考えてもいなかった。

次の日、国民に見送られる中、遠征軍は国を後にした。


連合暦前1年5月20日昼、

遠征軍の伝令2名がぼろぼろの状態で帰還した。

すぐに、将軍が集められると会議が始まった。


議長が口を開く。

   「遠征軍から伝令を受け取った。

   遠征軍は、壊滅したそうだ。」

その言葉に会議室は色めき立った。

   「日が経つごとに魔獣の目撃情報が増えていることには

   皆も気づいていると思うが、

   敵の数がこのまま増え続けたら、

   いずれ、本格的に国に攻め込まれる可能性がある。

   そこで、いまは魔獣が現れていないと言われている

   カルラド王国とルシード王国に使者を出すよう

   国王様に進言しようと考えている。

   皆の意見を聞かせてくれ。」

再度遠征軍派遣の意見も出たが、防衛に重点を置くべきだとの

意見が多く、却下されることとなった。

使者に関しては全員の意見が一致し、国王への進言が決定した。

しかし、使者を他国に派遣するときの安全をどのように

確保するかが問題であった。

そこで、遠征軍の伝令2名が会議室に呼ばれた。

そのうちの1名がキースと呼ばれる新兵だった。


様々な質問が投げかけられた。

彼らが敵の中をどのように戻ってきたのかということが質問の

中心となった。

話を要約すると、魔獣は群れておらず、発見されると近くにいる

魔獣が集まってくるということだった。

つまり、発見されないように移動する必要がある

ということだった。

発見された場合も迅速に対処することにより魔獣が来ない場合も

あったことがわかった。

さらに、重要な事は、ザイム国に近づくにしたがって魔獣が

強くなっていることだった。

ザイム国より出来る限り遠くを少人数で隠密行動をとれば可能

ではないかという意見が大半を占めた。

そして、国王への進言とともに、少数精鋭の部隊が結成された。


連合暦前1年6月1日、

クライム王国は官僚達の進言を元に、単独での防衛が困難という

考えを元に各国に共闘を呼びかけるための使者を派遣した。


そして、派遣された使者は大回りをして向かうことによって

安全に各国に到達することができた。


連合暦元年6月10日

各国の使者が集まったクライム王国会談により連合が誕生した。

そして勝利を願って連合暦元年とした


連合暦元年6月20日、

各国のよりすぐりの兵士により連合討伐隊が結成されると、

クライム王国へと派兵されていった。

このとき、カインも討伐軍に志願し、新兵の伝令係として

参加していた。


連合暦元年7月1日、

初の連合軍が結成され、ザイム国へと進軍が開始された。

連合軍はザイム国を目の前にする位置まで進んだが、

魔獣の猛攻を受け、撤退を余儀なくされる。

こととき、1匹の魔獣が人の言葉を話し、そして死に際に

魔獣王降臨を告げた。


連合暦元年7月14日、

撤退した連合軍から魔獣王降臨の話を受けた官僚達は、

魔獣の目撃範囲から、アムート山に魔獣王が降臨したの

ではないかと考えた。


その後、度重なる派兵が繰り返されたが、ザイム国へも

到達することができなかった。

しかし、魔獣の目撃範囲も広がっていなかったことから

これ以上の侵略はないと判断された。


そして、12年の歳月が流れた。

カインは剣の腕前を着々と上げてゆくと共に、

神聖魔法の習得を行っていた。

そして念願の聖騎士の称号を手に入れた。

防衛および討伐軍の派兵にも参加し、

何体もの魔獣を倒すことによって功績を上げていった。

将軍達が戦死していったこともあり、連合暦13年の7月15日に

ついに将軍と呼ばれる地位まで上り詰めた。


連合暦13年8月1日、

第19次討伐軍の派兵が検討されていた。

カイン:「提案があります。

    今までの方法ではただの消耗戦にしか過ぎません。

    魔獣の数が一向に減る気配を見せないところをみると

    何かのからくりがあるはずです。

    そこで少数精鋭部隊を結成し、ザイム国を目指すことを

    進言したいのですが、いかがでしょうか?」

官僚:「あれだけの数でも苦戦しているというのに、少数だと?

   それは、無謀するぎのではないか?」

カイン:「出来る限り魔獣と交戦せずに、ザイム国に潜入するの

    です。何かしらの情報が得られるかもしれません。」

官僚:「しかしな、、、。」

多くの官僚がこの発言に反対していた。

カイン:「では、私が隊長として向かうのではどうでしょうか?」

官僚:「カイン将軍が行くというのか。

   それならば、わたしは賛成しよう。」

官僚達は、カインの参加を条件に少数精鋭部隊の派遣を可決した。

そして、カイン以外に5人の精鋭が集められた。

カイン(聖騎士、男)

キース(騎士、男)

ルキア(戦士、男)

シーラ(神聖魔導士、女)

アンジェラ(神聖魔導士、女)

バーバラ(精霊魔導士、女)


連合暦13年8月2日、

カイン率いる部隊はクライム王国を出発した。


連合暦13年8月20日、

魔獣の目をかいくぐり、ザイム国へと到達したカイン部隊の

見たものは崩壊した建物と腐敗した死体の山だった。

魔獣がいないことを確認し王宮へと潜入たが、

生存者は見つからなかった。


捜索の最中に1冊の日記と思われる本を見つけた。

それには、次の記録が残されていた。

(重要部分のみの抜粋)


-----

ザイム暦32年5月25日(連合暦前2年5月25日)、

アムート山脈山頂に巨大な城が出現したことが報告された。

2月中旬にはすでに存在していたが報告がなされず今日に至る。

その城とは一体何なのであろうか?

この眼で見て見たい気持ちもある。


ザイム暦32年5月30日(連合暦前2年5月30日)、

勅命により調査隊が派遣されることになった。

これで、城が何なのかが判明するだろう。


ザイム暦32年6月2日(連合暦前2年6月2日)、

本日、調査隊が出発した。

問題が起きなければ、2ヶ月ほどで帰還するそうだ。

調査結果が楽しみでならないが、なぜか胸騒ぎがする。


ザイム暦32年8月25日(連合暦前2年8月25日)、

調査隊が出発してから3ヶ月近くになるが、

一向に帰還の報告がない。

重鎮達は、第2次調査隊を派遣するように国王に進言し始めた。

なにか良くない事が起こっているのかもしれない。


ザイム暦32年8月26日(連合暦前2年8月26日)、

第2次調査隊の派遣が決定したが、城の調査よりも

第1次調査隊の捜索が主な任務のようだ。


ザイム暦32年9月1日(連合暦前2年9月1日)、

国民には第1次調査隊のことは伏せられていた。

そのため密かに第2次調査隊が出発していった。


ザイム暦32年11月30日(連合暦前2年11月30日)、

宮廷内が騒がしい。

どうやら、第2次調査隊からの連絡が途絶えたようだ。


ザイム暦32年12月5日(連合暦前2年12月5日)、

宮廷内は相変わらず騒然としている。

ついに遠征軍の派遣も進言されているようだ。

いったい何が起こっているのだろうか?

胸騒ぎがする。


ザイム暦32年12月10日(連合暦前2年12月10日)、

突然、国王の勅命が下った。

今月15日に遠征軍が出発するとの事だった。

一体、何と戦おうというのだろうか?

胸騒ぎが収まらない。


ザイム暦32年12月15日(連合暦前2年12月15日)、

国民に詳細が教えられることも無く、遠征軍が出発していった。

それは全軍の半数にも及ぶ人数だった。


ザイム暦33年1月2日(連合暦前1年1月2日)、

魔獣を見たという報告があった。

それも、12件もだ。

いったい何が起こっているのだ。


ザイム暦33年1月3日(連合暦前1年1月3日)、

遠征軍より伝書鳩による連絡があった。

魔獣の奇襲を受けたとの事だった。

数名の兵士が負傷したようだが特にそれ以外の報告はなかった。


ザイム暦33年1月7日(連合暦前1年1月7日)、

宮廷内はかつて無いほどに騒然としていた。

遠征軍が魔獣の襲撃を受けているとの連絡があったからだ。

それは、援軍を要請するものであった。

宮廷内では、防衛派と援軍派に分かれて議論が白熱しており、

話が纏まらない。

いったいどうなるのだろうか?


ザイム暦33年1月8日(連合暦前1年1月8日)、

遠征軍から退却する旨の連絡があった。

事態は最悪の状態になっているようだ。

魔獣の目撃情報も増えてきているが、

今のところ被害者はいないようだ。


ザイム暦33年1月28日(連合暦前1年1月28日)、

遠征軍の生き残り2名が生還した。

彼らの話によると、魔獣の波状攻撃により遠征軍は全滅した

との事だった。

そして、魔物が接近しているということも告げられた。


ザイム暦33年2月7日(連合暦前1年2月7日)、

城下町に突然、魔獣が出現した。

なんとか撃退したが、城壁の外に多数の魔獣が確認された。

城門は閉ざされ、国民は外出禁止となった。

これ以上魔獣が増えたらと考えると恐ろしくてたまらない。


ザイム暦33年2月8日(連合暦前1年2月8日)、

国王の勅命により、急遽隣国のクライム国に対して救援要請の

使者が派遣されることとなり出発していった。


ザイム暦33年2月14日(連合暦前1年2月14日)、

突然城下町に多数の魔獣が出現した。

数は多くは無かったが、どこからともかく現れてくる。

一体何体の魔獣を倒したのだろう。

延々と続く波状攻撃に王国軍は防戦一方になっている。


ザイム暦33年2月20日(連合暦前1年2月20日)、

城下町は放棄されたようだ。

国民の大半が魔獣に殺され、生き残ったもの達も城へ逃げ込む

しか方法がなかったようだ。

このままでは、いずれ食料も枯渇する。


ザイム暦33年2月25日(連合暦前1年2月25日)、

この記録もこれで最後になるだろう。

ついに、魔獣が城内に侵入し

-----

最後の記録は血で汚れ、これ以上読むことが出来なかった。


連合暦13年8月21日、

これ以上の情報を入手できないと判断し、

カイン部隊はザイム国を後にした。

そして記録にあった城を次の目標とすることにした。


連合暦13年9月15日、

アムート山脈の麓に到着した。

ここから城のような物が確認できた。

距離から考えてもその城がいかに大きいかは想像できた。

ここまでは、魔獣との戦闘を極力さけることができたが、

これからどうなるかは分からないため、今までの魔獣の行動を

記録することにする。


-----

魔獣の多くは単独で行動している。

しかし戦闘が始まると、どこからとも無く出現してくる。

ある程度の魔獣を退治すると、しばらくの間出現しなくなる。

つまり、その地域の魔獣の数は限られていると考えることが

できる。

しかし、しばらく時間をおくとまた出現するため、

定期的に増援が行われているようである。

魔獣はそれほど目が良いわけではないようで、

音には敏感に反応するものの、

木や茂みに隠れることによって回避できるようだ。

城に近づくにしたがって、魔獣の強さが強くなってきている。

いまのところ、何とか進むことができているが、

これ以上強い魔獣が出現した場合は、

帰還を余儀なくされるだろう。

-----


連合暦13年9月20日、

魔獣の比較的少ない方向を目指して移動するも、

かなりの遠回りになっている。

しかし、山道を避けることにより、遭遇率を大幅に減少できる

ということが分かった。


連合暦13年10月10日、

断崖の上に城が見える。

その大きさに圧倒する。

優に人間の2倍以上の大きさの者がいるのではないだろうか?


連合暦13年10月12日、

城に到着した。

城の周りに魔物はいない様だ。

意を決して城の探索を開始するも、

城の内部は、静かなものだった。

いくつかの部屋を探索したが、これといって気になる物は無い。


6人は、次々と部屋を探索していった。

そして、ある部屋に侵入すると目を見張った。

そこには、様々な大きさの壺が整然と並べられていた。

壺には蓋がしっかりと閉じられ、

護符と思われる紙で蓋が開かないように封印されていた。

護符が貼られていない壺もあった。


ルキアがひときわ大きな封印されていない壺に近寄ると

しげしげと眺めだした。

ルキア:「この壺は一体なんなんだろうな?

    中にはなにが入っているんだろうか?」

ルキアが壺の蓋を動かした。

カインがそれを見て怒鳴る。

カイン:「馬鹿、うかつに触るな!!」

しかし、その声も間に合わず、壺の蓋が少し開いた。

すると、壺の蓋がするすると勝手に動き出し、

全て開いてしまった。

壺の中から光があふれ出す。

次の瞬間、光の中からいままでに見たことも無い、

大鎌を持った魔獣が現れた。


魔獣は現れた瞬間、何かを呟き始めた。

それを聞いたバーバラは叫んだ。

バーバラ:「まずい、上位呪文だ。」

バーバラはその呪文を聞いたことが無かったが、

最初の発音がバーバラの知っている唯一の上位呪文に似ている

ため、そう判断した。

その判断は間違えではなかったが、唯一の判断ミスは、

最上位呪文だったことだった。


バーバラの声を聞いて、全員が行動を開始した。

キース、ルキアの2人は、魔獣に切りかかった。

カインは、バーバラ、シーラ、アンジェラの前に移動すると、

魔法の防御のため守護の盾を得るため祈り始めた。

バーバラは魔法の詠唱を止めるため、静寂の呪文を唱え始めた。

シーラは、生命力増大のため神の加護を祈り始めた。

アンジェラは素早さを得るため神速の衣を祈り始めた。


最初に行動したのは、キースだった。

魔獣に切りかかる。

そして複数回切りかかるも、魔獣は詠唱をやめなかった。

次に行動したのは、ルキアだった。

その斧の一撃は今までの魔獣であれば瀕死に陥らせることが

出来ていたにもかかわらず、魔獣は少し揺らめいただけだった。


次の瞬間魔法の詠唱が完了した。

最初に発動したのは、神の加護だった。

全員に神の加護が発動される。

これは、肉体の再生能力を極限まで高めることによって、

小さな傷ならば、瞬時に再生できるというものだ。

その効果はしばらくの間持続する。


次に発動したのは、アンジェラの神速の衣だった。

これは、特定した人物の行動速度を上昇させるものだ。

カイルの行動速度が上昇した。


次に発動したのは、カインの守護の盾だった。

これは、自分の周りに魔法の防御盾を発動して、その威力を

半減させるというものだ。


次に発動したのがバーバラの静寂の呪文だった。

しかし呪文が発動したにもかかわらず詠唱は中断されなかった。


そして魔獣の詠唱が完了した。

魔獣の上に巨体な火の玉が現れるとそれをキースとルキアに

向けて投げつけた。

熱風が辺りを襲う。

キースとルキアにそれが直撃すると、2人は燃え上がり、

そして床に倒れた。


カインは怒鳴った。

カイン:「帰還の呪文を!!」

バーバラが直ぐに帰還の呪文を唱え始める。

カインは蓋に護符が貼られている小さな壺を1つ取ると、

それをシーラに渡した。

そして、魔獣に向かって剣を構え切りかかった。


魔獣は大鎌を振り上げるとカイン目掛けて振り下ろした。

カインはそれを盾で防ごうとした。

しかし、その盾ごと左腕を切断されてしまった。

カインは直ぐに後方へと飛んだ。


次の瞬間、帰還の魔法が発動した。

4人は、クライム国の所定の魔法陣の中心に飛ばされた。


シーラとアンジェラがすぐにカインの左腕の治療を始めると

傷口が塞がっていく。

シーラ:「左腕は再生できないけれど、、、」

カイン:「ああ、それはかまわん。

    すぐに、この壺の調査をしなければ。」


連合暦13年10月13日、

カインが帰還し、その報告がなされると、すぐに連合国に向けて

使者が派遣された。

その城のことを魔獣王城と命名した。

壺の調査はカインが行うことが決定した。


連合暦13年10月20日、

壺の調査が開始された。

カインの予想では、壺の蓋を開けると魔獣が出現するため、

まず、外観の調査が行われた。

特に護符の模様などが細かく模写された。


連合暦13年10月25日、

ついに蓋を開けることが決定した。

そのための空間および、戦闘員が多数準備された。

そして、カイン自ら蓋を開けた。

カインの予想通り、魔獣が出現した。

出現した魔獣を倒すと、壺の中が確認された。

そして、蓋の裏と壺の底に魔法陣が描かれていることを

発見した。

さらに蓋を閉めることによって、一時的に魔獣が出現

しなくなることも発見した。


連合暦13年11月2日、

カインは、各地の魔獣の出現はこの壺が原因ではないかと考え、

壺の探索を進言した。

そしてそれが受け入れられ、壺の探索が行われた。


連合暦13年11月16日、

クライム国周辺で複数の壺が発見され、それが回収された。

壺の回収後、その地域の魔獣が消えたことも報告された。

そして、この壺のことを魔獣の壺と命名した。

このことは、各連合国へ報告された。


連合暦13年11月25日、

各国で魔獣の壺の捜索が行われ多数の壺が発見され回収される。


連合暦13年12月2日、

深夜に空飛ぶ魔獣が魔獣の壺を持って飛んでいるところが目撃

される。これにより定期的に運搬していると考えられた。


連合暦13年12月13日、

同じ壺でも、魔獣城からの距離で、出現する魔獣の強さが変化

することが発見された。

これは、連合国の共同調査にて判明することとなる。


連合暦13年12月15日、

壺の破壊方法が研究されるも、あらゆる物理攻撃、魔法攻撃に

対してダメージを受けつけないことが判明する。

それが魔法陣によるものか、あるいは物質としての特性かの

研究が行われることとなった。


連合暦14年3月14日、

魔獣の壺の封印方法が発見されるも、封印には長期間かつ大量の

貴重な鉱石が必要なことが判明する。

これは、実際には実現不可能と判断された。


連合暦14年3月27日、

クライム国王より傭兵の質の向上を依頼される。


連合暦14年6月20日、

カインは傭兵学校を設立し、ライセンス制度を開始する。

この時、その試験用として魔獣の壺を利用する。


試験は以下の通り実施された。

-----

試験は以下の順で実施される。

・予備試験(本試験実施可能か判定)

・1~4次試験(本試験)

試験時間は1日とし1日経過した場合は不合格となる。

なお、実戦形式で行われるため生命の保証は無い。

予備試験、本試験ともにダンジョンの探索が中心と

なっており、試験官の示したアイテムを持ち帰る

ことによって合否の判定が行われる。

持ち帰られたアイテムは、試験官が再設置している。

また、複数の受験生が同一ダンジョンにいることは無いため

受験生同士の争奪戦は回避されている。

アイテムは、宝箱に収められているが他の受験生が

アイテムを取得した後に死亡した場合はそのかぎり

ではなく、魔獣がアイテムを持ち去っている場合もある。

試験は、受験生の基本能力を評価するもののため、

予備試験時に初期装備およびアイテムが配布され

持込は禁止されている。

受験生には、本試験開始時に帰還の巻物が1本配布される。

使用の判断は本人しだいである。

受験生の所持していたアイテムは、受験生が死亡した場合、

ダンジョンに放置されたり魔獣が持ち去っていることもある。

魔獣は、魔獣の壺を使用しており、壺に蓋をすることも

試験の1つであるため、アイテムが指定されている場合、

アイテムの入手後に蓋をすることとなる。

予備試験の魔獣の強さは最低のものであり普通の成人男子

であれば互角の戦いが可能であるが、連戦を強いられるため

有る程度の強さが要求される。

戦闘に不向きな神聖魔導士の場合のみ、補助者の付き添いが

認められているが、この場合アイテムの持込は禁止となる。

1-4次試験では魔獣の強さが上がるためアイテムの補充は

怠らないようにする必要がある。

-----


ライセンスは以下の通りである。

----

傭兵ライセンスにはSS,S,A,B,C,Dの6段階のクラスが存在する。

ライセンスはライセンスカードにより管理されており、

傭兵コインは売買の対象とならないように現物でなく数字

として取り扱われる。

D級は、見習いと呼ばれ現在魔獣の壺回収以外の仕事が

無い状況にある。

C級以上になると遠征軍の参加が義務付けられる。

遠征軍での階級は以下のようになってる

C級:一般兵

B級:一般兵

A級:隊長

S級:将軍

S級取得者は、カイン王国の聖騎士*の称号を与えられ

魔獣王討伐隊の参加を義務付けられる。


以降は、連合暦18年3月15日に追加された内容である。

S級を取得しない(討伐に参加したくない)傭兵が

多数存在しているため、S級取得者には称号(名誉)のほかに

毎月の報酬(白金貨2枚/月)および恩給(金貨2枚/月)が

保証がされる。

また、S級取得者には、公式に弟子を取ることが許される。

SS級は功績に 応じてカイン王より与えられる。**

*魔導士の場合はマスターの称号が与えられる

**SS級はいまだ存在していない

-----


連合暦15年8月2日、

カインの提案により魔獣の壺の回収を目的としたクエスト制度を

開始する。


クエスト制度については以下の通りとなった。

-----

クエストは、各地にある傭兵協会で受けることができる。

モンスター駆逐(魔獣の壺の回収)がほとんどであり、同時に

複数に提供されているため、他の傭兵がすでにクリアしている

場合もある。

クエスト完了が確認されしだい終了となる。

クエストには難易度が設定されており、高ランクの傭兵には

難易度の高いものを完了してもらう目的でクエストには受付

可能な級が設けられている。

難易度は★で示され5段階の難易度が存在する。

クエスト成功時には、報酬とは別に傭兵コインを取得できる

傭兵コインは、傭兵協会が発行している。

また、クエスト中に発見した物は定めのない限り提出の

義務は無いものとなっている。


傭兵協会管理以外の依頼も存在しており、人の救出や護衛

奪還、捜索などがあるが、難易度が定められていないため

依頼を受ける場合は注意が必要である。

傭兵協会としてはいかなる場合でもこれに関与しない。


クエストの難易度は以下の通りとなっている。

★☆☆☆☆ D級のみ、報酬(銀貨1枚)

★★☆☆☆ D級のみ、報酬(銀貨2枚)+銅の傭兵コイン

★★★☆☆ C級のみ、報酬(金貨1枚)+銀の傭兵コイン

★★★★☆ B級のみ、報酬(金貨2枚)+金の傭兵コイン

★★★★★ A級のみ、報酬(金貨3枚)+白金の傭兵コイン

なお、S級は遠征軍指揮および魔獣王討伐部隊参加のみとなる。

-----


連合暦16年12月26日、

魔獣の壺の回収および傭兵の質の向上によって、

魔獣の出現範囲をある程度まで、押さえ込むことに成功する。


連合暦17年3月2日、

魔法陣の研究が進められ、魔獣の壺と同様の効果のある壺が

完成する。同時に傭兵学校での使用が始まる。


壺に関する報告は以下の通りであった。

-----

傭兵王カインによって魔王城から持ち帰られた壺で

魔法により魔獣を召喚することができる。

さまざまな角度から調査が行われ、現在では同様の

効果のある壺の作成は出来るようになっているが

その全てが解明されているわけではない。

初めて召喚される魔獣は、他の召喚魔獣よりも上位の

魔獣で、壺の側から離れることはないため守護者と呼ぶ。

守護者が召喚されるときに術者の疲労が増大すること

から召喚魔法の一種と考えられている。

守護者が倒された場合、他の召喚された魔獣は全て消え、

守護者が召喚されるまで召喚されなくなる。

その期間は、術者の能力に比例されると思われる。

守護者以外の魔物が倒された場合は一定時間後に召喚される

このことから守護者が他の魔獣を召喚していると

考えられている。

また、術者が死亡すると全ての魔獣が消える

壺の底に独特な魔法陣を描くことにより召喚できるが、

術者の力量によって以下の効力が変化する

・同時に召喚できる壺の数

・呼び出せる守護者の強さ

・魔獣の行動可能範囲

召喚された魔獣は術者の命令はきかず本能のまま

殺戮を繰り返す。

術者と壺の相対距離が大きくなるほど召喚される

守護者の強さが弱くなり、有る程度の距離を離れると

一切呼び出されなくなる。

魔獣の行動範囲内に他の魔獣の壺があった場合、

共闘するため、複数の壺が存在する場所は脅威となる。

壺の管理には、細心の注意が必要である。

魔法により強化されているようで物理的に破壊することは、

現状では困難である。

また、壺に魔法陣を描いた蓋を閉めることによって、

魔物の出現を一時的に止めることができるが、

護符を貼らない限り、しばらく放置すると開いてしまう

守護者を倒した後に蓋をした場合は、

次に蓋を開けるまでかってに開くことはない。

壺の製作後最初に蓋を開けたときに守護者が召喚されその後、

他の魔獣が召喚される。

完全封印には、封印の魔法陣を描き儀式を行う必要がある。

-----


連合暦19年12月21日、

カインは今までの功績の褒美として領地を与えられ、

クライム国の属国であるものの国王となり、

以後傭兵王とよばれる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ