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拘束椅子

作者: 尚文産商堂
掲載日:2011/05/31

俺が目を覚ますと、パイプ椅子に縛り付けられていた。

両足と腰が幅広いゴムとヒモで、さらに上に重しもあるようだが、その重しは息をしていた。

突然、パッとライトがつけられて、一瞬目がくらんだ。

「お前たちは、すでに捕まえた。お前たちが彼らをここに連れて来てくれるだろう」

声が、変声機を通した感じで、部屋の中にくぐもって消えた。

誰のことを言っているのかさっぱり分からないが、それからライトは徐々に暗くなり、月ぐらいの明かりになった。

着ていたものは、シャツ1枚だけで、それは座っている人も同じだった。

それから少し経って目も慣れて、誰が俺の上に座って、同じように縛られているのかが分かった。

「もしかして、東朧(ひがしる)か」

体をわずかに震わせて、俺を見た。

間違いなかった。

「せん…ぱい…?」

震えている体で、泣きそうになりながら俺の方へ顔を向けた。

「東朧なんだな」

同じ高校で同じ部活をしている1年下の後輩だ。

「先輩、なんでこんなところに…」

「そりゃこっちのセリフだよ。なんかさっきは、妙な声が彼らをここに連れて来てくれるとか言ってたんだが、なんのことかさっぱりだ」

両手は縛られてはいない。

だが、ヒモやゴムは俺たちをしっかりと縛り上げている上に、肩を押さえられていて、縛り目があるであろう後ろへ手が回らないようにしていた。

「俺たちは、当分の間はここに座らされっぱなしだろうな」

相も変わらず震えている東朧を、俺はやさしく後ろから抱いた。

「大丈夫さ、俺も一緒なんだから。何でも一緒さ」

やっと、東朧の震えはおさまった。


「…先輩」

「ん?」

抱きながら、俺は東朧に聞いた。

「どうしたんだ」

「…お腹すいた」

そう言われても、何も持っていない。

「そうだなあ…」

「何かあるんですか?」

「…ないなあ」

「ないんですか」

「仕方ないだろ。服にはポケットは付いてないし、食べ物なんて持っているわけないじゃないか」

「…ですよね」

ため息をついて、俺はもう1つ気付いた。

ズボンをはいていない。

代わりに、オムツ的なものをはかされているようだ。

トイレはここでしろということのようだ。

「…先輩」

「今度はどうした」

「…眠いんです」

「寝たらいいだろう。ここではすることも無いし」

俺はそう言って、目をつむった。

薄暗いライトも目の前から消え、代わりに、何もない世界が現れた。

音も風もない、完全な静寂。

その中で、俺は東朧を抱きながら、眠りについた。


次ぎ目が開く時には、俺たちの膝の上にキャスター付きの机が置かれていた。

その上には、食パン3枚、紙コップに入った水2杯と手紙が置いてあった。

俺は東朧が起きるまでは、それらをそのままにした。


それからしばらくして、東朧が起きてきた。

「先輩、おはようございます」

こちらに顔を向け、まだはっきりとした口調ではないが、それでも俺との意思の疎通ができる程度の声で言った。

「おはよう、とりあえず、ご飯がきているぞ」

「それは分かってるんですけど、これ、毒とか入ってないですよね」

「手紙に何か書いてあるかもな」

俺は東朧に言って、手紙を取らせた。

俺もとれる距離にあったが、東朧の方がより近かった。

「えっと、「お前たちを捕まえたのは、我々が必要としたからだ。我々の目的が達せられるまで、お前たちを殺すことはない。だが、そこから動かすわけにはいかない。よって、拘束を解く事はないが、食事は与えよう。毒は入れてない」だって」

「本当かよ」

俺はその手紙が信じられなかった。

だが、腹は減っているのは事実だし、いつでも殺すことができるだろうに、今でも俺たちはこうして生きている。

ほかに頼るものも無いし、俺が見える範囲では、ここから出るための出入り口一つない。

今は、この手紙を信じるしかないようだ。

「食べよう、他に俺たちに道は残されてなさそうだ」

「お腹もすきましたしね」

食パンはどこでも売っていそうな普通のパンだし、これといって不自然なところはない。

マーガリンの類があれば、もっと言うこと無しだが、ここではそんなことを言っている場合でもなさそうだ。

「いただきます」

手を合わせ、そう言ってから、俺たちはパンを食べ始めた。


すぐに食べ終わり、水も飲みきると、再び暇になった。

「…お父さんとお母さん、心配してるだろうなぁ」

東朧が、ぼんやりと言った。

「そりゃそうだろうな」

俺も、暇にあかせて東朧に答える。

「何か話しますか?」

「何を話したい」

俺は逆に聞いてみた。

「えっと、部活の話とか、友達の話とか、休みの時にする話とか」

「ああ、部活な。そりゃいい」

「そう言えば先輩は、どうして文芸部なんかに入ったんですか。いろいろ書いているみたいですけど」

「はっきり言えば、暇できると思ったから。なんだよなー」

俺は笑いながら答えた。

「まあ、いろいろ書いていると言っても、全部つながっている連載だから、アイディアの大元はひとつということなんだよ」

「そうなんですか。ずっと短編だと思ってました」

「よく言われるよ。でも、よく見たら共通しているものもあるんだ。例えば、登場人物の名前や、設定とかな」

「帰ったら読んでみますね」

「そうしたらいいさ」

俺はそう言ったが、自分でも、どこまで共通の設定で書いていたか忘れていた。

それほど、身を入れて書いていないということなのだろう。

「そういえば、東朧はなんで文芸部に入ったんだ」

「私ですか」

「俺が答えたんだから、ちょっとぐらい聞かせてくれよ」

「笑わないでくださいよ」

そう言って、東朧の体が火照っている。

「先輩がいたからなんです……」

「俺がいたからだって?どういうことだ」

「それぞれの部の見学会ってあったじゃないですか、4月の第2週目の月曜日から金曜日、新1年生が好きな部へ見学をしに行くというアレです。あの時、先輩を見て、ここにしようって、そう決めたんです」

「…そうだったんだな」

「あの、それで、先輩。聞きたいことがあるんです」

詰まりながらも、東朧は俺に聞いた。

「彼女って、いますか」

「彼女な…いたら、今以上に楽しい学校生活が、送れるんだろうけどな」

「じゃあ、私を先輩の彼女にしてもらっても、いいですか」

下を見ながら、モジモジして東朧は言った。

「その答え、とりあえず保留って言うことでいいかな」

「え…」

「いや、嫌いっていうわけじゃないんだ。俺だって、東朧のことは可愛いと思っている。でも、この状況で好きだっていっても、今の状況が、気恥ずかしいっていうかなんというか」

「なんだ、先輩も私のこと好きなんですね」

ほっとした感じで、東朧はため息を吐いた。

「まあ、生きてここから出れるかは別として、俺たちが付き合うというのは、いいかもな」

俺はそう言って、より一層ぎゅっと東朧を抱いた。

その時、後ろから風が吹き込んできた。

「大丈夫か、二人とも」

その声は、担任の声だった。

「周囲を確認した後、二人の救護に移るわ。それまでは、あなたがよろしく」

「分かってるよ」

知らない女性の声も、聞こえてくる。

「お待たせ二人とも。よくこれまで耐えたね」

そう言って、大きなハサミで、紐やゴムを一気に切っていった。

「先生、どうしてここに」

「ああ、妻がね。自分の知り合いの特殊部隊のやつから頼まれて、二人で言ってくれって」

「奥さんとって、危ないんじゃないですか」

東朧が先に椅子から降りて、俺が後から降りた。

降りてから、先生に聞いた。

「妻は昔から、ものすごい技の持ち主だから、こういうふうな時にはよく頼まれるんだ」

先生は笑って言いながら、俺たちを連れて廊下へと出た。

「…待ってたぞ、金内…いや、交野愛」

「あら、あなた。お久しぶりね」

ニコッと笑った奥さんは、その笑顔とは裏腹に、強烈な悪意や憎しみを持っているような感じがした。

「宇宙革命なんちゃらでしたっけ。今も活動してるとはね」

笑いながら、愛さんは声がした方向へ何の躊躇もなく歩いて行く。

「あなた、先に行ってて。私もちゃんと後で行くわ」

「そんな死亡フラグの代表格たてられたら、おいて行くわけにはいかないさ」

そう言って、先生は愛さんの横に立った。

「俺たちは…」

「君たちは、そこで見ていてくれ。戦いに巻き込むわけにはいかない」

先生が、俺たちに言うと、懐から銃を取り出した。

「あら、あなたもやるの?」

「足手まといにならない程度に頑張るさ」

そういうと、愛さんは笑いながら、一瞬で姿を消した。

それから、ダンダンと音が廊下に響いた。

バッとライトが付くと、俺たちは目を腕で覆った。

「やはり、強いな」

愛さんの左手を握りながら、相手は黒いスーツを着て、わずかに息が荒くなっていた。

「あら、貴方も強くなっているわね。昔はこれで殴り飛ばせたのに」

そう言って、間合いを取る。

「君たちを、特に愛を呼ぶために、この子たちを誘拐したんだ。すまないね、確かに君たちを殺す気は全くない。だが、彼女たちは別だ」

愛さんを指さしながら言った。

「お前だけを攻撃する。他の者は手を出すな」

「それでいいのかしら。私も伊達に母親をしてるわけじゃないのよ」

「母親になってなまっていたら、許さんぞ」

ニコッと笑って愛さんが答える。

「その言葉、そっくりお返ししましょう」

タンと足音の短い音が聞こえると、愛さんが相手に再び殴りかかっていた。

パンパンパンと腕がぶつかる音が響く。

同時に、ドンとかダンと言った、低音も聞こえる。

俺たちには見えないが、素早過ぎて音しか聞こえてこない。

だが、5秒後には、相手がわずかに表情を変えた。

「これで終わりかしら」

そう言って、愛さんは正拳突きをした。

その拳は、俺たちの知覚スピードを超え、相手の腹にめり込んだ。

「ぐふっ」

「貴方はまだ弱い。私には勝てそうにないわね、でも、いつでも相手してあげるから、ね」

静かに倒れこんでいく相手に、愛さんは告げた。

「行きましょうか」

倒れこみ、動かないその人を放置して、愛さんは先生と一緒にこの建物から出た。


建物から出るとき、俺は何人か倒れているのを見つけたが、誰も気にしなかったから、俺も無視することにした。

周りは、武装した人達でいっぱいだった。

「金内さん、お疲れ様です」

「中佐さんこそ、お疲れ様。人質救出作戦は、無事に遂行しました。現在、敵が6名ほど建物の中でひっくり返っています」

「分かりました。おい、お前ら行くぞ。人質は一旦、観察入院を」

白衣を着た人たちが、俺たちを車に乗せて、病院へ運んでいった。


その車の中、俺は東朧と横並びに座っていた。

横になっているべきなのだろうが、医者に言って、座らせてもらった。

「…先輩」

「ん?」

「私を好きだって、本当ですよね」

「あんな状況で嘘つけるほど、俺は器用じゃないのさ」

それを言ってから、東朧を抱きしめた。

「あ…あう…」

「好きな奴ぐらいにしか、こうやって抱きつかねえさ」

紅くなっている東朧は、そのまま、俺に抱きつかれ続けていた。

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