ラーメン・ハイ・モンキー
1匹の山猿は、空腹に喘いでいた。
山猿は知らない。干ばつによって木の実も作物も実らず、山全体が飢えていることを。
そのため、ここ数日、何も口にしていなかった。
食べ物を求め、山猿は山をさまよう。
やがて道端で、かすかに食べ物の匂いを嗅ぎ取った。
弾かれたように駆け寄ると、水に濡れた細長い何かがいくつも転がっている。
それらは、楕円形の筒から飛び出していた。
山猿は、それを食べ物だと判断し、一本を口に入れた。
――その瞬間。
体に、電撃のような衝撃が走る。
(……な、なんだ今の!?)
理解できない。だが――もう一度欲しい。
山猿は再び細長いものを食べた。
しかし、二度目は来なかった。
ならば、と地面に染みた水を舐める。
――再び、電撃のような衝撃。
(なんだ、これ……今までで一番うまいぞ……!)
山猿は夢中になり、細長いものと水を貪った。
⸻
それ以降、山猿は群れの中で頭一つ抜けた存在となった。
木の実を誰よりも多く獲り、素早く木を登る。
だが、それでも足りない。
あの“衝撃”が忘れられなかった。
(……あれは、近縁種が作ったものだ……ならば――)
⸻
山猿は山を下り、人の街へと足を踏み入れた。
匂いを頼りに探し続ける。
――あった。
以前と同じものを見つけ、すぐさま掴んで逃げ出す。
「待て、このエテ公!」
近縁種たちが追ってくる。
だが今の山猿は違う。
小柄な体と異常な身体能力を活かし、あっさりと振り切った。
安全な場所まで逃げ延び、筒を乱暴に開け、中身にかじりつく。
しかし――来ない。
あの衝撃が。
山猿は落胆した。
だが、諦めなかった。
⸻
再び街へ下りる。
今度は近縁種のメスに近づいた。
警戒されるかと思ったが、餌を与えられる。
確かに美味い。だが違う。
――“アレ”ではない。
山猿は視線を走らせ、膨らんだ包みを見つけた。
一瞬の隙を突き、その中身を掠め取って逃げる。
中には、薄い四角い紙と、丸くて硬いもの。
それが取引に使われていたことを、山猿は覚えていた。
⸻
山猿は布切れをまとい、近縁種のふりをして街を歩く。
そして――あの匂いのする店へ入った。
「……いらっしゃい」
薄暗い店内。奥にはオスが一人。
山猿は適当に指を差す。
「……はい、醤油ラーメン一つ」
どうやら通じた。
数分後、それは運ばれてきた。
湯気を立てる器。
熱い汁に浸った細長い麺。
野菜と肉。
山猿は見よう見まねで棒を使い、麺をすくう。
そして、啜る。
――その瞬間。
再び、あの衝撃。
しかも、以前よりも強烈に。
⸻
店主は黙って見ていた。
奇妙な客だった。
一口食べるや否や、勢いよく食らいつく。
食べ方は汚く、熱さに顔を歪めながらも止まらない。
だが、店主は何も言わない。
――うまそうに食っている。それで十分だった。
⸻
やがてスープまで飲み干し、山猿は紙を一枚叩きつける。
「ありがとさん」
そう言われて、店を出た。
⸻
(やはり、これだ……この紙で“アレ”が食える……)
山猿は笑う。
もっと欲しい。
(もっとだ……もっと近縁種に作らせる……そして――)
――世界を、支配する。
⸻
これは、ラーメンによって覚醒した山猿――
エテ・ラーメンマンが、三度目の衝撃を求め、
同胞を覚醒させ、“猿の惑星”を築こうとする物語。
……To Be Continued




