ノイズキャンセリング
本作、初投稿、初作品です。
夏のホラー2026用の作品です。
「皆さんこんばんは。霊感スポッターのヤマです!
今夜はガチと噂の空き家に来ています。今回は新兵器の高性能集音マイクを持ってきました! 周囲の雑音を消す『ノイズキャンセリング機能』が超優秀なんで、微かな霊の足音や吐息も、バッチリ拾って皆さんにお届けできますからね!」
俺は人気YouTuberのヤマ。霊感スポットの一人中継で人気を得ている。
これから、怪異が出ると噂の某空き家から突撃生配信を行うところだ。
(なんだ、やっぱりただの空き家だな……。少し大袈裟に煽って盛り上げないと)
そう思った、次の瞬間だった。
突如、イヤホン越しに、あり得ない音が聞こえ始める。
――シュルシュル、シュルシュル。
紐か何かが擦れ合うような、奇妙な摩擦音。
(ぞっとする。マジの怪異かよ……。嘘だろ、帰りたい……!)
しかし、画面の向こうのコメント欄は大盛り上がりを見せていた。
たかし@オカルト好き: うわ、ガチで音聞こえる
名無しライダー: はやく、逃げたほうがいいんじゃない
マネーパワー: 再生数爆上がりだな!
さくらさく: 気のせい? 背筋が寒くなってきたんだけど。
通りすがり: やらせじゃねえの?
キテハー: もちろん、やらせでしょ。
霊感野郎: ビビンな!突撃しろ
(ウソだろ。マジかよ。
クソッ、しかし、ここで逃げたらヘタレ扱いだ。登録者も減る。引き返せねぇ!!)
「さあ、皆さん! 押し入れ開けるよ。」
(ほんとは、絶対開けたくねぇ!)
「ちゃんと応援しててくださいよー」
(ネットの向こうでもいいから、一人にしないでほしい!)
引くに引けないヤマが、ヤケクソで、音が響いてくる押し入れを勢いよく開ける。
そこに転がっていたのは、怪異でも怪しげな呪物でもなく
――不気味にループ再生されている1台の古いラジカセだった。
「なんだよ皆さん! 誰かの仕込みでしたわ! コメント欄でビビらせないでくださいよー」
(良かった。心霊現象じゃなかった。助かった)
ヤマはカメラに向かって苦笑いしながら、ラジカセの停止ボタンを押した。
心底ホッと胸をなでおろした。だが。
ラジカセの音が止まり、静寂が訪れた直後。
画面の中のチャット欄が、異常なスピードで加速し始めた。
kz: 画面の端、なんかいなくない?
通りすがり: うしろ
110番しろ: うしろに誰かいる
kz: カメラに映ってる
名無しライダー: おい、ネタじゃなくてマジで後ろにヤバい奴いるって!!!
たかし@オカルト好き: 後ろ後ろ後ろ後ろ後ろ後ろ
ユーザー9982: ひ
さくらさく: いやああああああああああああ
「え?」
ヤマがチャットの文字を目で追った、その瞬間だった。
流れ去る悲鳴のようなコメントの向こう側。ヤマの背後の闇から、ぬっと別の「レンズ」が突き出される。
それは、超高画質の配信機能がついた、見知らぬ男の配信用カメラだった。
「――そのラジカセ、お前をおびき寄せるためのエサだよ」
背後から冷たい声が響く。
「ラジカセは役に立ったよ。エサになるだけじゃない。音が鳴っている間、こっちの足音が消えるでしょ? で、僕が入ってくる足音、全然聞こえなかったでしょ? アナクロだけど、君の自慢のノイズキャンセリング機能よりよっぽど優秀だよ。」
マチェットを持った痩せた背の高い男は、恐怖に凍りつくヤマの顔に、自分のカメラを至近距離まで近づけた。そして、狂気的な笑みを浮かべる。
「心霊配信なんて、もうオワコンだよ。これからはリアルタイムの『殺人中継』の方が、よっぽどアクセス稼げると思わない?」
本作は、カクヨムさんにも投稿しています。




