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ノイズキャンセリング

作者: いくずく
掲載日:2026/07/04

本作、初投稿、初作品です。

夏のホラー2026用の作品です。

「皆さんこんばんは。霊感スポッターのヤマです!

今夜はガチと噂の空き家に来ています。今回は新兵器の高性能集音マイクを持ってきました! 周囲の雑音を消す『ノイズキャンセリング機能』が超優秀なんで、微かな霊の足音や吐息も、バッチリ拾って皆さんにお届けできますからね!」



俺は人気YouTuberのヤマ。霊感スポットの一人中継で人気を得ている。

これから、怪異が出ると噂の某空き家から突撃生配信を行うところだ。



(なんだ、やっぱりただの空き家だな……。少し大袈裟に煽って盛り上げないと)

そう思った、次の瞬間だった。


突如、イヤホン越しに、あり得ない音が聞こえ始める。

――シュルシュル、シュルシュル。

紐か何かが擦れ合うような、奇妙な摩擦音。


(ぞっとする。マジの怪異かよ……。嘘だろ、帰りたい……!)


しかし、画面の向こうのコメント欄は大盛り上がりを見せていた。



たかし@オカルト好き: うわ、ガチで音聞こえる

名無しライダー: はやく、逃げたほうがいいんじゃない

マネーパワー: 再生数爆上がりだな!

さくらさく: 気のせい? 背筋が寒くなってきたんだけど。

通りすがり: やらせじゃねえの?

キテハー: もちろん、やらせでしょ。

霊感野郎: ビビンな!突撃しろ


(ウソだろ。マジかよ。

クソッ、しかし、ここで逃げたらヘタレ扱いだ。登録者も減る。引き返せねぇ!!)



「さあ、皆さん! 押し入れ開けるよ。」

(ほんとは、絶対開けたくねぇ!)


「ちゃんと応援しててくださいよー」

(ネットの向こうでもいいから、一人にしないでほしい!)


引くに引けないヤマが、ヤケクソで、音が響いてくる押し入れを勢いよく開ける。

そこに転がっていたのは、怪異でも怪しげな呪物でもなく



――不気味にループ再生されている1台の古いラジカセだった。



「なんだよ皆さん! 誰かの仕込みでしたわ! コメント欄でビビらせないでくださいよー」

(良かった。心霊現象じゃなかった。助かった)


ヤマはカメラに向かって苦笑いしながら、ラジカセの停止ボタンを押した。



心底ホッと胸をなでおろした。だが。



ラジカセの音が止まり、静寂が訪れた直後。

画面の中のチャット欄が、異常なスピードで加速し始めた。



kz: 画面の端、なんかいなくない?

通りすがり: うしろ

110番しろ: うしろに誰かいる

kz: カメラに映ってる

名無しライダー: おい、ネタじゃなくてマジで後ろにヤバい奴いるって!!!

たかし@オカルト好き: 後ろ後ろ後ろ後ろ後ろ後ろ

ユーザー9982: ひ

さくらさく: いやああああああああああああ



「え?」



ヤマがチャットの文字を目で追った、その瞬間だった。


流れ去る悲鳴のようなコメントの向こう側。ヤマの背後の闇から、ぬっと別の「レンズ」が突き出される。

それは、超高画質の配信機能がついた、見知らぬ男の配信用カメラだった。



「――そのラジカセ、お前をおびき寄せるためのエサだよ」



背後から冷たい声が響く。



「ラジカセは役に立ったよ。エサになるだけじゃない。音が鳴っている間、こっちの足音が消えるでしょ? で、僕が入ってくる足音、全然聞こえなかったでしょ? アナクロだけど、君の自慢のノイズキャンセリング機能よりよっぽど優秀だよ。」



マチェットを持った痩せた背の高い男は、恐怖に凍りつくヤマの顔に、自分のカメラを至近距離まで近づけた。そして、狂気的な笑みを浮かべる。


「心霊配信なんて、もうオワコンだよ。これからはリアルタイムの『殺人中継』の方が、よっぽどアクセス稼げると思わない?」


本作は、カクヨムさんにも投稿しています。

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