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偽りの生贄として捧げられた先で、孤独な龍神様に「愛しい人」と甘やかされています  作者: 夏野みず


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7/13

龍の隠れ里と、甘い蜜月

 襲撃のあった翌朝、私は琥珀様に抱かれ、雲を突き抜けるほどの高みにある「龍の隠れ里」へと移った。  そこは、下界の喧騒が一切届かない、静謐な美しさに満ちた場所だった。  空を泳ぐような龍の形をした雲が流れ、地には水晶のように透き通った花々が咲き乱れている。


「……綺麗。琥珀様、ここは本当に、私たちがいていい場所なのですか⁉」


 私が驚きに声を弾ませると、琥珀様は私の腰を抱き寄せ、耳元で低く笑った。


「当たり前だ。ここは龍の血を引く者しか入れぬ聖域。あのような無粋な輩が足を踏み入れることは二度と叶わん。……さあ、これからはここが、お前と私の新しい家だ」


 彼はそう言って、崖の上に建つ壮麗な宮殿を指し示した。  以前の社よりもずっと大きく、至るところに龍の装飾が施されている。  私はその豪華さに圧倒されつつも、隣にいる彼の存在に、言いようのない安心感を覚えていた。


 宮殿の中へ入ると、そこには私専用の寝室や、温かな温泉までもが用意されていた。  琥珀様は私を寝台に座らせると、自ら膝をついて、私の靴を脱がせ始めた。


「あ、琥珀様! そんなこと、自分でできます!」


「大人しくしていろ。お前は昨日の件で疲れている。私の手で、お前のすべてを癒やしてやりたいのだ」


 彼はそう言って、私の足を自分の膝の上に乗せ、優しく揉みほぐした。  神様の手が私の肌に直接触れているという事実に、頭がどうにかなりそうになる。  あなたは、どうしてそんなに甲斐甲斐しく私を扱うのですか⁉  村にいた頃の私……紗良に見せてあげたい。  冷たい泥道を裸足で歩かされていた私に、いつかこんなに温かな愛に包まれる日が来るのだと。


「……琥珀様。私、私ね……今、とっても幸せです。夢なら覚めないでほしいって、そればかり祈ってしまうの」


 私の呟きに、琥珀様は手を止め、ゆっくりと顔を上げた。  金色の瞳が情熱的に揺れ、彼は私の膝に顔を寄せた。


「夢ではない。これは、お前がその優しさと強さで勝ち取った現実だ。……紗良、お前はもう、ただの生贄ではない。私を、孤独という暗闇から引きずり出してくれた救い主なのだ」


 彼はそのまま、私の太ももにそっと唇を寄せた。  あまりに刺激的な感触に、私は声を漏らしそうになるのを必死に堪える。  彼の髪が肌を撫で、ゾクゾクとするような熱が全身を駆け巡った。


「……今夜は、お前を離したくない。お前の魂に、私の刻印を深く打ち込みたいのだ。……怖いか?」


 その問いに、私は首を振った。  琥珀様となら、どんな深い場所へ落ちていっても構わない。  私は彼の頬に手を添え、微笑んだ。


「怖くありません。私を、あなたのものにしてください」


 その言葉が合図だった。  琥珀様は獣のような力強さで私を押し倒し、そのまま深い口づけを交わした。  窓の外では、祝福の雨が静かに降り注いでいた。


 ◇ ◇ ◇


 深い眠りから覚めた翌朝、私は隣で眠る琥珀様の寝顔をじっと見つめていた。  普段の険しい表情は消え、まるで子供のように安らかな顔をしている。  銀色の髪が枕に散らばり、朝の光を浴びて神々しく輝いている。


 私はそっと手を伸ばし、彼の頬をなぞった。  神様という存在が、これほどまでに愛おしく、守りたいものになるなんて。  ……けれど、ふと視線を落とすと、私の手首に、細く美しい「銀の鎖」のような痣が浮かび上がっているのに気づいた。


「これ、は……?」


「……魂の盟約だ。お前と私が、永遠に分かたれぬ証」


 いつの間にか目を覚ましていた琥珀様が、私の手首を取り、その痣に愛おしそうに口づけた。


「これで、お前がどこにいようと私はすぐに駆けつけることができる。……そして、お前の中にある『黄金の力』も、私の魔力によって抑え込まれた。もう、誰もお前の気配を辿ることはできん」


「琥珀様……。ありがとうございます。私、私ね……あなたに、守られてばかりで……」


「気にするな。お前が側にいてくれる。それだけで、私はどんな神よりも強くなれるのだから」


 彼は私を再び布団の中に引き戻し、力強く抱きしめた。  二人の心臓の音が重なり合い、確かなリズムを刻む。  けれど、そんな幸福な朝を切り裂くように、里の入り口にある鐘が、激しく鳴り響いた。

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