表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りの生贄として捧げられた先で、孤独な龍神様に「愛しい人」と甘やかされています  作者: 夏野みず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

黄金の庭で、あなたと笑う

 激しい戦いから、数ヶ月が過ぎた。


 龍の里は、かつての静けさを取り戻していた。  いや、以前よりもずっと賑やかになったかもしれない。  黄金の光によって浄化されたこの山には、今では多くの精霊たちが集まり、花々は一年中咲き誇っている。


 私は庭に咲いた色とりどりの花を摘み、小さな花冠を作っていた。  手首にある銀の鎖の痣は、今では淡い桜色の花の紋様に変わっている。


「紗良、またそんなところで遊んでいるのか。冷えるぞ」


 縁側から声をかけてきたのは、私の愛する旦那様……琥珀様だ。  今の彼は、完全に人の姿で、村の若者と変わらない穏やかな格好をしている。  角もなければ、髪も少し短くなったけれど、私を見つめる眼差しだけは、出会ったあの日から変わらず、熱い情愛に満ちていた。


「琥珀様! 見てください、上手にできたんです。はい、あなたに似合うと思って」


 私は駆け寄り、彼の頭に花冠を乗せた。  かつては畏れ多い龍神様だった彼が、少し照れくさそうに微笑む。  その姿があまりにも愛おしくて、私は彼の首に腕を回して抱きついた。


「……お前は本当に、怖いもの知らずだな。神を捕まえて、花冠とは」


「もう神様じゃないんでしょう⁉ 今の琥珀様は、私の大切で、たった一人の旦那様なんだから」


 私が甘えるように言うと、琥珀様は降参したように私を抱き上げた。  そのまま、縁側に腰を下ろし、私の体を自分の膝の上に乗せる。  これは、私たちの毎日の日課になっていた。


「……なあ、紗良。お前は本当に、後悔していないか? 神の血を半分受け継ぎ、人間でも神でもない存在になってしまったことを」


「後悔なんて、一度もしたことありません。私、私ね……あなたと同じ時を刻めることが、何よりも嬉しいの。一緒に年を取って、一緒に白髪になって……。それって、最高に素敵なことだと思いませんか⁉」


 私の答えに、琥珀様は私のこめかみに優しく口づけた。


「……そうだな。私も、お前と過ごすこの穏やかな日々が、何千年の永劫よりも価値があると感じている。お前が笑うたびに、私の心には黄金の花が咲くのだから」


 彼は私の手を握り、その指先を一本ずつ愛おしそうに絡めた。  あなたは、どうしてそんなに甘い言葉を、呼吸をするように囁けるのですか⁉  私は赤くなった顔を彼の胸に埋め、幸せな鼓動を聴いた。


 里の下界では、あの預言者が村の子供たちに昔話を聞かせているという。  『生贄として捧げられた少女が、孤独な龍神の心を溶かし、世界を救った』という、お伽話。  それが私たちのことだとは、誰も知らない。


 けれど、それでよかった。  私たちはもう、伝説の存在である必要はない。  ただ、愛し合い、寄り添い合う、どこにでもいる夫婦として生きていければ。


「大好きですよ、琥珀様」


「ああ、私もだ。愛している、紗良。……死が二人を分かつまで、いや、魂が消滅するその時まで、私はお前を離さない」


 空からは、祝福の春の光が降り注いでいた。  黄金の乙女と、彼女を愛した龍。  二人の物語は、これからもこの美しい庭で、永遠に続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ