二人の王、二人の絆
心臓を分け合った翌朝、私の体は劇的な変化を遂げていた。 視界は以前よりも澄み渡り、風の動きや大地の息吹が、指先の感覚で理解できる。 私の胸の奥では、琥珀様の心臓の欠片が、温かく、力強く脈動していた。
「……紗良。無理をするな。まだその力に体が馴染んでいないはずだ」
隣で私を支えてくれる彼の声は、以前よりも少しだけ掠れていた。 神としての地位を捨て、命の半分を私に預けた琥珀様。 その銀髪は少し短くなり、頭上の角も消えていたけれど、私を見つめる金色の瞳の熱量だけは、以前よりも増しているように感じられた。
「大丈夫です、琥珀様。私、私ね……今なら何でもできる気がするの。あなたから貰ったこの命で、今度こそ二人を守りたい」
私が力強く答えると、琥珀様は愛おしそうに私の頬を撫でた。
しかし、感傷に浸る時間は短かった。 里を囲む結界の外側には、天界の兵たちだけでなく、地上の人間の王が率いる大軍勢が押し寄せていた。 彼らの手には、黄金の乙女を捕らえるための魔封じの網や、龍を殺すための巨大な弩砲が握られている。
「黄金の乙女を渡せ! さもなくば、この里を地図から消し去るぞ!」
下界から響く欲にまみれた怒号。 人間の王は、私の血を使って自らの国を不老不死の黄金郷に変えようと企んでいた。 かつて私を捨てた村の人々と同じ、底なしの強欲。
「……愚かな。神も人間も、これほどまでに浅ましいものだったか」
琥珀様が冷徹な瞳で下界を見下ろす。 彼は私の手を取り、静かに告げた。
「紗良。準備はいいか。これは私たちの最後の戦いだ。これに勝てば、もう誰もお前を縛ることはできない」
「はい、琥珀様! 行きましょう、私たちの未来のために!」
私は彼の手を強く握りしめ、共鳴する魔力を解放した。 私の背中から、黄金色に輝く光の翼が広がる。 琥珀様は、残された全ての魔力を振り絞り、半身となった龍の姿を現した。
私たちは、雲を裂いて戦場へと舞い降りた。 天の矢が降り注ぎ、地からの砲火が空を焦がす。 けれど、今の私には恐れはなかった。 琥珀様の鼓動が私の胸で鳴っている限り、私は無敵になれるのだ。
私は黄金の光を放ち、迫りくる矢をすべて花びらへと変えていった。 それは「破壊」ではなく、生命を「浄化」する力。 私の涙や笑顔がもたらす豊穣の力が、戦場を優しく、けれど圧倒的な力で包み込んでいく。
「な、なんだこの光は……⁉ 力が抜けていく……戦う気が失せていくぞ⁉」
兵士たちが武器を落とし、戦場に静寂が広がっていく。 欲に駆られた王も、その光に触れた瞬間、自らの犯した罪の重さに耐えかね、その場に泣き崩れた。 神の血を引く私の力は、争いそのものを無力化させる「愛」の力だったのだ。




