10秒以内に泣けと言われたときに思い出すといい景色
これはお話というよりもスケッチみたいなものなんですけども。
ある景色がありまして。
それは実際にみた景色です。たまに思い出すんです。
使い道があるんですよ。役者さんがすぐに泣かなければならない時に、昔の泣けるエピソードを使ったりするそうじゃないですか。
自分は別に役者じゃないけれども、たとえばもし『10秒以内に泣かないと殺す』と言われたこの景色を思いだします。
役者の方、よかったら試してください。人によるものなのは、まあ、そうでしょうが。
3月の末、それとも4月の頭だったかも。
年度の変わり際、終わりとはじまりの季節。
高速バスのターミナル。言っちゃいますけど、会津若松の駅前です。
地方の人にとって、高速バスは安くて便利な交通手段。
一台のバスがゆっくりと動き出す。東京、新宿行。
乗客はたくさんいます。若い人が多い。
40代後半くらいの女性がいました。彼女はターミナルの駐車場からバスを見送ります。
バスに向かって大きく手を振っていました。何回も何回も。
いっぱいに体を伸ばしながら。
遠ざかる東京行きのバスを見つめながら、いつまでもいつまでも手を振っていた。
そんな春の景色。