第9話 魔法観察 〜法則を探す科学者〜
蓮は村人たちの協力を得て、日々様々な魔法を観察させてもらっていた。
魔法は、火・水・風・土――基本的な属性が存在するようだった。
だが、その仕組みはまったくの未知だ。
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「蓮、次はこれを見てくれ!」
村人のひとりが叫び、手をかざす。
小さな炎が空中に現れ、ゆらゆらと踊るように揺れる。
「火の魔法だよ」
蓮はうなずきながら、その動作をじっと見つめる。
動作の前に、必ず短い詠唱のような言葉が入ることもわかってきた。
(発動時に必ず"意識の集中"と"短い発声"……何らかのトリガーとして機能している?)
クロエもまた、映像と音声を記録し続けている。
《魔法動作パターン:火属性・簡易操作型 映像記録追加》
「クロエ、今のエネルギー流れは観測できたか?」
《はい。空間内の熱量変化は検出されましたが、発生源は不明です。
エネルギー保存則に照合不能。未知の供給源が存在すると推定します》
「……やっぱり、既存理論は通じないか」
だが、そこに不安はなかった。
むしろ蓮は静かに笑みを浮かべる。
(だが全くの無秩序ではない。発動条件は一定している。ならば必ず法則はある)
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別の日には、水の魔法を見せてもらった。
地面に置かれた壺の上に、空中から水滴が集まるように流れ落ちていく。
「これは周囲の水分を集めているのか?」
《周囲湿度の一時的上昇を確認しました。
ただし、凝集過程に既知の重力・気圧変化は伴っていません。》
「空間制御……なのか? それとも物質変換か……」
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さらに浮遊魔法の実演では、村の青年が小石をふわりと浮かせてみせた。
「これが……重力制御?」
《質量に変化はなく、支持力発生源を特定できません。重力以外の未知の力場を推定中》
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毎日、新しい魔法を見るたびに、蓮の中で仮説が積み上がっていく。
(これは……)
(世界そのものに流れる"魔力"というエネルギー体系が存在している。そして、人はそれを媒介して現象を引き起こしている……)
(ならば――理屈は必ずある)
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村人たちは最初こそ蓮の観察ぶりに不思議そうにしていたが、次第に「少し変わった旅人」という認識で受け入れ始めていた。
「本当に魔法を見るのが好きなんだなあ」
「ははは、本当に変なやつだな」
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その夜。
蓮は焚き火の前で小さく呟いた。
「……この世界の法則、全部暴いてやるさ」
クロエが静かに応答する。
《未知の体系ですが、学習は順調に進行中です。ご安心ください》
「頼りにしてるぞ、クロエ」
蓮の異世界挑戦は、着実に一歩ずつ進み始めていた。