第8話 科学者の好奇心 〜未知の法則に挑む〜
蓮は焚き火の前で静かに夜空を見上げていた。
見慣れない星々の並びが、改めてこの世界の「異質さ」を突きつけてくる。
(やっぱり、ここは――異世界なのか)
昼間、目の前で魔法を見せられてから、否応なく現実を突きつけられた。
けれど、まだわずかに希望も捨てきれていなかった。
科学者である以上、まずは可能性をひとつずつ潰していくのが習慣だ。
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翌朝――
蓮は村人たちと話している中で、意を決して切り出した。
「……実は、私は――」
クロエが慎重に翻訳を始める。
『私は、とても、とても遠くから来た。
たぶん……この世界の外、別の世界から。』
村人たちは一瞬ぽかんとした表情になった。
だが、次の瞬間にはにこやかに笑い出す。
「ははは、何を言ってるんだい。冗談が上手だな!」
「さすがにそんな作り話は信じられないよ」
蓮は淡く微笑みながらも、内心では静かに整理を始めていた。
(――そうか。彼らには“異世界”という概念すらない。
この世界には、他の世界と行き来する手段は存在していないらしい)
(少なくとも、一般人の知識の範囲では――)
ほんのわずかに期待していた希望が、ふっと消えた。
予想していたはずなのに、胸の奥が鈍く痛む。
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その様子に気づいたのか、隣にいた青年が声をかけてきた。
「……大丈夫か?」
蓮は、少し間を置いてから微笑んだ。
「大丈夫だ」
もちろん、大丈夫ではない。
だが今は、沈んでいる暇はなかった。
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しばらく沈黙が続いた後、蓮はふと顔を上げた。
「……魔法を、もっと見せてくれないか?」
クロエが即座に翻訳する。
『もっと魔法、見たい。』
村人たちは驚いたように顔を見合わせ、やがて誰からともなく笑みを浮かべた。
「もちろん! 見せてやるよ!」
「じゃあ、私の火の魔法も!」
「水は任せて!」
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その後、蓮は村人たちの協力のもと、様々な魔法を見せてもらった。
水を操り、火を灯し、風を呼び、簡単な浮遊魔法まで披露される。
(これは……エネルギーの流れ? 質量移動? 圧力制御? それとも……)
科学の常識では理解不能な現象の数々。
だが――
(いや、必ず法則はあるはずだ)
むしろ不安よりも、蓮の中に強烈な好奇心が湧き上がってくるのを感じていた。
(ここからだ。未知の法則を――解き明かす)
科学者としての白石蓮の、新たな挑戦が本格的に始まろうとしていた。




