第72話 発酵魔道具の設計開始!〜理想の環境を作れ〜
マルゴじいさんのところに通うこと数日。
「このところ、気温も湿度も落ち着いておるからのう、最近は失敗も少ないわい」
そう笑うマルゴの言葉を聞きながら、レンは内心で小さく頷いた。
(今は季節が安定しているから、成功率も高い。でも、冬はどうなんだろう?)
「本来なら、一年を通してデータを取るのが理想なんだが……。今の時点でも、この環境を再現できれば、じいさんの負担はぐっと減るはずだ」
つぶやきながら、レンは魔導具制作のため、学園の工房へ向かった。
工房に入ると、空気が少しだけひんやりとしていた。
「現在の気温は二十二度、湿度は40パーセントか。記録によると箱の中の温度は大体30度で湿度は80%か。」
レンは作業台に図面を広げ、魔導具の基盤作りに取りかかる。
「まずはベースとなるフレームに、魔石の固定枠と魔力供給線……。ここから温度調節用の回路を分岐させる」
魔石を中心に据え、その左右に火魔法と氷魔法を制御する術式を刻んでいく。
「クロエ、温度を30度に保つための火魔法と氷魔法の出力バランス、計算お願い」
『了解しました。火魔法はレベル1を二秒間、氷魔法はレベル1を一・五秒で交互使用するのが最適です』
「よし、それを調整術式に書き加えて……」
レンは回路の上に薄く魔力を流し、術式が正常に繋がるかを確認しながら、次に湿度調整へと移った。
「湿度は……80パーセントを保ちたい。クロエ、水魔法の最適出力は?」
『水魔法レベル0.5、間隔180秒で0.2秒の噴霧が適切です』
「よし、温度と湿度の調整はこれでいいとして」
「次は温度と湿度の数値を外部から確認できるように……表示水晶をここに設置して、連動術式を……よし、これで温度と湿度が常時見えるようになる」
魔力を流し、試験起動。
小さな魔導具の水晶面に、淡く文字が浮かぶ。
【温度:30.1℃】【湿度:79.8%】
内部では火魔法と氷魔法が交互に働き、水魔法と冷却石による調整が行われている。術式は正確に制御されており、過不足なく環境を保っていた。
「……完璧じゃないか」
レンは安堵の息をついた。
「これなら、マルゴじいさんでも年中安定してテンペが作れるようになる。誰でもじゃなくて、じいさんが“失敗しないで済む”道具なんだ」
『これでテンペ製作魔導具の土台が完成しましたね。あとは運用データを蓄積し、改良を重ねれば──』
「うん、まだまだこれから。だけど、まずは“始まり”だ」
魔道具の仕上がりを確認しながら、レンはそれを大事そうに箱へと収めた。
次は、マルゴじいさんの元へ──実地試験の始まりである。




