第7話 異世界転移⁉︎〜魔法文明との初遭遇〜
翌朝。
蓮は村の広場で作業を手伝っていた。
まだ会話はたどたどしいが、クロエの補助翻訳もあり、最低限の意思疎通は成り立っている。
ふと、村の少年が蓮のポケットから覗く端末に目を留めた。
「それ……魔道具?」
蓮は一瞬固まった。
「……魔道具?」
クロエが即座に反応する。
《新単語検出:"魔道具"。意味未確定。》
少年は続ける。
「魔石で動く道具だよ? 魔石、知らないの?」
「……魔石?」
《新単語検出:"魔石"。意味未確定。》
傍らにいた村人が、小さな透明の結晶を取り出して蓮に差し出した。
淡く脈打つ光が中に揺れている。
「魔力を込めると、こうして光るんだ」
村人が手を添えると、石はわずかに輝きを増した。
「魔力……?」
《新単語検出:"魔力"。未知エネルギー体系の可能性。》
蓮はクロエに目配せする。
「クロエ、解析できるか?」
《了解しました。素材構成、エネルギー挙動をスキャンします。……解析中……》
少しの沈黙の後、クロエが答えた。
《……すみません。現時点の科学データベースでは解析不可能です》
蓮は静かに息を吐いた。
「……だろうな」
村人たちは、今度は驚きというより戸惑いの表情を浮かべ始めた。
「魔力も知らないなんて……」
しばしの沈黙の後、別の村人がさらに問いかけてきた。
「じゃあ、まさか……魔法も知らないの?」
蓮は首を傾げた。
「……魔法?」
次の瞬間、村人は小さく手をかざした。
すると――空中に水がふわりと現れ、器に注がれていく。
まるで自然現象のように当たり前の動作だった。
蓮の目が見開かれる。
(……水が……空中から……?)
(空間から水分を集めた? 重力制御? いや、違う。そんなレベルの現象じゃない)
科学の常識では説明できない。
「……ファンタジーだ……」
思わず呟く。
クロエが静かに補助翻訳を停止して沈黙する。
(これが……魔法……)
(もしかして――本当に、異世界?)
初めてその可能性が蓮の脳裏を強くよぎった。
そして、ふと冷たい現実が心を締めつけ始める。
(もし本当に異世界なら……帰れる保証は、どこにもない)
言葉にできない不安が、じわりと胸に広がっていった。