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第69話 温度と湿度を数値で見よ!〜つけ豆魔道具への第一歩〜

 レンは休みを利用して、再びマルゴじいさんの工房を訪れた。発酵の様子を観察し、道具の配置や環境の変化を丁寧にメモに取りながら、頭の中でひとつの確信を得る。


(これは……勘と経験に頼りすぎている。再現性を持たせるには、温度と湿度の数値化が必須だ)


 翌日の放課後、レンは学園の工房にこもり、制作に取りかかった。


「よし、まずは温度計からだな」


 机の上には、細いガラス管、精製したアルコール、魔力感応素材の板、そして中級魔石が並ぶ。魔力でアルコールの変化を読み取り、視覚化する装置を作るのが狙いだ。


『準備完了です、レンさん。アルコールの熱膨張率を基に、温度の目盛りを換算します』


 クロエの声が冷静に響く。


 レンは魔石を装着し、術式を刻み始めた。液体の高さに応じて感応する術式を板に組み込む。発光する数字表示を浮かび上がらせるには、やや細かい術式設計が必要だった。


「うーん……この数値領域は1度刻みにしておくか。感度が高すぎても使いにくいしな」


 術式は、まるで回路図を書くような感覚だった。レンは現代のプログラム制御を参考に、魔石からの入力、感知部、演算部、出力部を論理的に分けて設計していた。


「なるほど、ここで魔力の入力を分岐させて……ふむ、制御術式の応用でここまでできるとは」


 不意に聞こえたのは、アスター教授の声だった。


「教授?」


「やあやあ、君の工房に来てみれば、面白そうなことをしているじゃないか」


 教授はレンの肩越しから作業机を覗き込むと、感心したように頷いた。


「これは……温度計を作っているのか? ふむ、アルコールの膨張を魔力で視認化……お見事だ。私の知る魔道具にはない構造だな」


「ありがとうございます。これは、マルゴじいさんの工房で感じたことから始まっていて……発酵を安定させるために、まず環境の数値化を目指してます」


「いいぞ、非常に良い。面白いアプローチだ」


 教授はそのまま、まるで子供のような好奇心でレンの作業をじっと観察していた。


「湿度計も作るつもりです。感湿素材に魔力感応糸を用いて、伸縮を検知して数値を出す構造で考えてます」


「ふむふむ……ああ、それは植物の繊維を用いた古式の湿度計に近いか。だが君はそれを魔道具化しようとしているのだな」


 レンは頷いた。


 やがて、温度計の試作品が完成した。ガラス管の中に赤い液体が揺れ、魔石に魔力を通すと、透明な面に数字が淡く浮かび上がった。


「これは……なかなか美しい」


 教授はしばらくその光を眺めた後、小さくつぶやいた。


「これはもう、今までの魔道具を超えた魔導技術の転換点かもしれんな」


 レンは苦笑した。


「まだ試作品ですけどね。でも、これがうまくいけば、魔道具における環境制御の精度はぐっと上がると思います」


『湿度計の設計図も完成しています。明日の放課後に試作が可能です』


「よし、じゃあ続けていこう」


 こうして、レンの「テンペ用マジックバック」の制作は、計測魔道具という土台から始まり、確かな一歩を踏み出したのだった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます♪


今回は、地味ながらとても重要な「温度と湿度の数値化」の話でした。職人の勘を魔道具で再現するには、まずはその感覚を「見える化」する必要がありますよね。レンの視点は、まさに現代的な科学の発想で、それが異世界の魔法技術と交差する瞬間にワクワクしてもらえたら嬉しいです!

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