第66話 術式を読み解け〜応用魔導演習〜
空間魔法の基本授業が終わり、生徒たちはひと息つく間もなく次の講義へと移った。
教室の中央には、新たな練習用の魔導盤が設置されている。
教授がその前に立ち、声を響かせた。
「さて、次は少し応用じゃ。──今から、マジックバックの空間内環境の設定を変えてみるぞ」
ざわつく教室。生徒たちの目が一斉に輝いた。
レンもわずかに身を乗り出す。
「基本型の術式では、空間内の空気や温度は、外とほとんど変わらぬように保たれるようになっておる。つまり、保存には向かぬということじゃな」
教授は魔導盤の術式図を指でなぞりながら続ける。
「じゃが、それを変えることも可能じゃ。例えば──保存用のマジックバックじゃな。あれは食料の鮮度を保つために、空間内の温度を調整する術式が組み込まれておる」
生徒たちが「へぇ」と感嘆の声を上げた。
「──空間の性質を変えることで、用途は大きく広がる。君たちには、それを自分の手で試してもらう」
生徒たちはどよめいた。興味を持ちつつも、難しさも感じ取っているようだった。
「──ただし、細かくは教えん。どの呪文や術式要素が何に対応しているか──それは君たち自身で読み解くのじゃ」
教授はにやりと笑う。
「これまでに学んだ魔法言語や基礎術式の知識を使い、空間内の環境設定をいじってみよ。単に暗記しただけの者には、意味が見えぬかもしれんが──それを超えるための応用じゃ」
レンは配られた術式の写しを手に取り、静かに目を通す。
(……温度……どこにどんな情報が隠されてる?)
すると、クロエのホログラムが肩の上に現れ、そっと補足する。
《この列は空間属性情報のブロックと思われます。過去の講義で扱われた術式と照合して分析中──》
(ありがとう、でもまずは自分で考えてみる)
レンは術式に目を凝らす。
一文字一文字に意図がある。ひとつでも理解が進めば、次が見える。
(温度以外にも湿度、酸素濃度、気圧……もし制御できれば、空間の用途は一気に広がる)
未来の可能性に、胸が高鳴った。
──誰もが同じ術式を手にしている。けれど、それをどう読み取り、どう応用するかは自分次第。
その日の教室は、静かに熱気を帯びていた。




