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第65話 応用空間魔法講義 〜保存術式の奥深さ〜

「さて──今日は、“空間魔法”の応用例について話していこう」


 


 そう言って、教授は教壇に立ち、生徒たちの視線を一身に集めた。


 


 今日の講義は、《応用魔道具学》の時間。専門課程に進んだ者のみに開かれる高度な授業だ。


 


「空間魔法というのは、文字通り“空間を扱う魔法”じゃが……正確には、空間と空間の接続、または空間内構造の操作が主な働きとなる」


 


 黒板に描かれた図には、点で表された今いる空間と、それとは別に浮かんだ小さな泡のような副次元空間が並んでいた。


 


「このように、我々が今いる空間とは別に、新たな“副次元”を作り出し、それを接続する術式──これが、いわゆるマジックバックなどに使われる空間魔法の基本じゃ」


 


 その言葉に、教室の数名が身を乗り出す。レンもその一人だった。


 


 教授が言う「空間を作る」という概念に、彼は強い興味を持っていた。


 


「副次元空間の構築には、《主空間座標固定部》《安定化処理》《副次元展開域》《出入口同期座標》など、いくつもの要素がある。が、基礎型──つまり市販されておる通常のマジックバックでは、これらは全てあらかじめ設定された式を用い、再利用しておる。自分で設計することはない」


 


 レンは小さく頷きながら、自身の中で知識を整理していた。


 


「では、空間の中じゃが──どうなっていると思う?」


少し間を置いてから、静かに続ける。


「基本型では、空間内の時間は今いる空間と同じく進行しておる。つまり──保存性能はない」



その言葉に、生徒の中には感心したように「へえー」と声を漏らす者もいた。



 レンも、思い切って手を挙げる。


 


「この……今いる空間と、全く同じ環境条件ということですか?」


 


 教授は嬉しそうに頷いた。


 


「そう、そうじゃ。全て、今のこの空間と同じように設定されておる。術式にあらかじめ、環境情報が組み込まれておるのじゃよ」


 


(……やっぱり、そうか)


 


 レンは内心、静かに頷いた。


 


 術式の構造から、確信はなかったがある程度の仮説は立てていた。


 実際、既製のマジックバックに棒を差し込んで温度の変化を確認したり、湿度や簡易的な気圧測定を繰り返していた。


 その結果、「今のこの空間とほぼ同じ条件を保っている」という仮説に至ったが──確証がなかった。


 教授の説明で、ようやくその仮説が裏付けられたのだ。


 


「ちなみに、“完全保存型”と呼ばれるタイプのマジックバックは、魔法局の認可がなければ作成できん。術式は門外不出で、魔法局の厳重な管理下にある」


 


 教授が言い終えるのと同時に、クロエのホログラムが静かに補足情報を表示する。


 


《管理情報:完全保存型は魔法局管理下の禁術区分。術式は門外不出》


 


(クロエ、またいつの間にそんな情報を……)


 


 レンは苦笑しながらも、それだけ空間魔法が重要視されているということを理解する。


 


 彼にとって、「空間を折りたたむ」「空間を接続する」といった感覚は、未だにピンと来ない部分も多い。


 だが、こうして一つ一つを噛み砕きながら、少しずつ理解の輪郭が見えてきた気がした。


 


「皆には、後日“保存空間”に関する授業も予定しておる。使用制限のある術式ゆえ、同意書を配布することになるが──学びたい者は、ぜひ挑戦してみるといい」


 


 教授の目が、レンと交わる。


 レンは静かに頷いた。


 


(この先にあるのは、きっと俺の作りたいもののヒントになる──)


 


 空間魔法の奥深さに触れた一日。


 レンの視線の先には、まだ誰も踏み込んだことのない魔導の可能性が広がっていた。


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