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第63話 はじめてのマジックバッグ製作 〜未知の現象を手で組み立てる〜

 空間魔法の授業も数回目を迎え、いよいよ実習が始まった。


 


「さて、今日は皆に実際に簡易マジックバッグを作成してもらう」


 


 ヴァロス教授の言葉に、教室内が静かにざわめいた。

 各机には、小さな布製の袋と、あらかじめ準備された術式図面が配られている。


 


「これは基本構造のみを刻んだ訓練用術式だ。容量も小型固定、安全性も十分配慮してある。定められた手順通りに刻めば、正しく収納空間が形成される」


 


 レンは図面を手に取り、じっと眺めた。

 文字と図形が複雑に組み合わされ、幾何学的な構造を描き出している。


 


(容量指定はここ。展開領域、座標固定、安定維持……。なるほど、こう組み合わせて成立させるのか)


(まだ理屈まではわからないけど、少なくとも仕組みの構成は整理できそうだ)


 


 クロエのホログラムが静かに起動する。


 


《術式構造確認。標準構成に従い安定動作が見込まれます》


 


「よし──やってみよう」


 


 レンは集中して術式板に刻み込みを始めた。

 一筆一筆、正確に符号をなぞり、線を重ねていく。


 


(こうしてみると、本当に先人たちの積み上げはすごいな。言われた通りに組めばちゃんと動くようにできている)


 


 刻印を終え、魔力を静かに流し込むと、袋の口がふわりと光を放った。

 術式は正常に定着したようだ。


 


 レンは試験用の石を袋へ入れてみた。

 石はするりと吸い込まれ、袋の外見はほとんど膨らまずそのままだった。


 


「──完成、っと」


 


 ヴァロス教授が各生徒の仕上がりを確認して回る。


 


「うむ、皆よくできておる。術式は、正しく組み立てればきちんと動く。これが魔法技術の面白いところでもある。理屈を深く知るのはもちろん重要だが──まずは正確に組めることが基本じゃ」


 


 教授の言葉に、レンは素直に頷いた。


 


(たしかに、現象が成立している以上、そこには何かしらの法則が存在している。今はまだ全ては理解できない。──でも、だからこそ面白い)


 


 ふと、レンは手を挙げた。


 


「先生、一つお聞きしてもいいでしょうか?」


 


「うむ、白石君。何かな?」


 


「この収納空間は……私たちのいる空間とは別の空間ですよね? 空間を”作る”、あるいは”切り取る”という感覚が、どうにも不思議でして……」


 


 教授は穏やかに微笑む。


 


「よい疑問じゃ。実のところ、完全に新しい空間を作り出しているわけではない。既存の空間情報を加工し、まるで折り畳んで隙間に押し込むような形に整えておる。例えるなら──扉を作って別の部屋に繋げるようなものじゃな」


 


「つまり……空間に”穴”を開けているわけではない?」


 


「そうじゃ。破壊して穴を穿っているわけではなく、座標情報を操作して通路を作る。空間自体は無傷のまま、別空間と接続しているのだ」


 


 レンは小さく唸った。


 


(……いや、説明としては理解できるけど、やっぱりよくわからん)


(でも、現象は確かに成立している──ならば、その仕組みの奥に何があるのか、もっと知りたくなる)


 


 こうして、レンの空間魔法探求はまた新たな段階へと進み始めたのだった。

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